掲載日:2020/07/23
■  雑誌クロワゼ掲載 『美しさを極める トゥシューズ・レッスン』が発売!

 雑誌クロワゼで連載されていたポアントについての記事をまとめた本が発売されました。 モデル&解説は元東京バレエ団プリンシパルの渡辺理恵さんです。

ポアント・シューズ(トゥシューズ)について、履き方から立ち方、降り方まで、大変丁寧で詳しく書かれています。ポアントワークの為の代表的なエクササイズ、バーレッスン、センターレッスンでの動き方等が写真で細かく載っています。内容的にはベーシックな内容です。これからポアントを履く方には良い参考になると思いますし、ベテランの方には「正しいポアントワーク」の復習になると思われる内容です。

ちなみにポアントの加工の仕方や、なじませ方(柔らかくする方法)などは載っていません。加工やなじませはあくまで個人の責任の上で、個人の好みに合わせて行うことだからだと思います。

内容の中で私が良いと思いましたのは、“シューズの中で足がどのような状態でなくてはならないか”を裸足の写真で示されているところです。百聞は一見にしかずですので、イメージし易いと思われます。

少し残念なのは、この本ではア・テール時の足裏の使い方について、足裏3点(親指と小指の付け根と踵)だけしか記述がないのですが、私め的にはア・テールの時もポアントで立つ時も下りる時も足指の感覚が非常に重要だと思っていますので、そのことも頭に置いておいて下さい。(ア・テールでの足指は押し過ぎてもダメなんですが(^^;) )

また、ひとつだけ心配なことは、モデルの渡辺さんは膝が反張膝で甲が出るタイプの足をしていらっしゃるんですね。その為立った時のボックス部分が少し前のめり気味な気がするんです。甲が出ていても垂直に立った時はボックス部分はなるべく垂直に近い方が床を真っ直ぐ押せて楽なんです。立った時の形は個人差があるので甲が出る人は仕方ないのですが、素人はあの形そっくりになろうとあまり前のめりに立たない方が良いと思います。もちろんお手本であることに異論はないのですが…。

イメージ的にはこんな感じ。ボックス部分がしっかり床を押してるでしょ?


渡辺理恵さんの美しいオデットのヴァリエーションも動画(YouTube)でご覧になれますので、ご興味がある方は是非どうぞ。

新書館 『美しさを極める トウシューズレッスン』 


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<余談>
 さて、ここからは余談で私めの単なるお喋りです。
先程ポアントのボックスについての話が出ましたので、「深過ぎる硬すぎるボックスや甲を押し出し過ぎるソールは足を育てない」というテーマについてお喋りさせて下さい。

最近ポアント初級者さんの間で、ボックス部分が自分の足より深かったり、必要以上にボックス部分が硬いポアントが好まれるようになっている気がします。また、ソールが足裏をしっかり押し出して靴が甲を出してくれるようなポアントも人気です。

例えば、グリシコやRクラスやチャコットのコード等は比較的ボックスが深かったり硬かったりします。確かに甲が出過ぎる足をもっている人などはしっかりとした深いボックスを履いた方が良い場合もありますが、足の力のない人もこの手のシューズを好む傾向があるようです。このようなシューズは足の力ではなくボックスの硬さでポアント立ち出来てしまうので、“足の力で立つのではなくボックスの力で立っている状態”を作り出してしまいます。

従って立てて本人は満足かも知れませんが、いつまで経っても足を強くしてくれません。

ポアント立ちをする時、初級者の方は指先で立つのではなく靴の上に乗って立っていることが殆どです。しかし私は最初はそれで構わないと思っています。本来は足裏を収縮させ(足裏3点を真ん中に集める感覚) 足の指先で床をある程度押して立たなくては脚の筋肉が使えないのですが、まだまだ足裏や足指の力が無い初級者さんに指先で立つことを要求すれば、痛みで指が曲がってマメを作ったり、垂直に立てなくなってしまったりします。ですので私は最初はボックス周りで足を支えてもらい、爪先は床に接しているだけか少し浮いていても構わない、その代わり内脚(裏脚)で垂直に立つという感覚を身に付けて欲しいと思っています。それは深く硬いボックスのポアントでなくても立てるのです。

そしてドゥミポアントからポアントまで立つ訓練をして行く内に、足指と足裏の力がついて段々と指先の力で立つ事が出来るようになって来ます (意識して訓練しないと力は付きませんよ)。実際には履いている内にボックスが次第に開いて来て少しづつ指が下がって床に強く接するようになったりもしますので、嫌でも指の力が付いて来ます。そして痛くてシューズを交換なんてことを繰り返します。

ポアントは足の指先を床に向けて立つ事で正しい立ち方が出来るのですが、深くて硬いボックスを柔らかく馴染ませもせずにそのまま使っていてはドゥミポアントも出来ませんし、指先が床に向いてなくても(指を握っていても)立ててしまいます。オン・ポアントに乗る時も指先で床を押して立つのではなく、勢いで飛び乗ってしまうのです。そしてボックスの上に乗って立ち続けてしまう。

本来はね、ちゃんと足に合っているポアントなら、ボックスの先と土踏まずまでのソール部分が適度の硬さである以外は柔らかい方が踊り易いんです。ですのでベテランは結構くたくたになるまで新しいポアントを馴染ませます。その代りしっかりと力を使わないと立っていられませんが。しかしその意識が足をしっかりと育ててくれます。

確かに硬いポアントの方が耐久性が良い事もありますし、柔らか過ぎるソールですと湾曲したソールの上に乗ってしまうこともあります。しかし、ソールが硬い事とボックスが硬い事とは違いますし、本当に自分にとってその硬さが向いているかどうかは常に考える必要があると思います。足の上達に従ってポアントの感覚も変化して来ます。ベテランになれば踊りによって違うポアントを履き分ける人もいますが、初級者の方にはまだそのような事は必要ありません。

「私は足が強いからすぐにポアントが潰れてしまうの〜」という人に限って、正しく立てていない事も良くあります。ポアントはプラットフォームの上に真っ直ぐ垂直に立つバランスが一番安定性と耐久性が良いように作られています。毎日何時間もポアントを履いて踊っているような足なら別ですが、週に数回数十分履いているだけの人の足でそんなに速くポアントが潰れるのは靴が合っていないか、真っ直ぐ立てず左右や前に傾いて立っているか、引き上げて立っていないかのどれかだと思います。

先程、「(ポアントは) 足裏を収縮させ(足裏3点を真ん中に集める感覚) 足の指先で床をある程度押して立たなくては脚の筋肉が使えない」と書きました。この足裏を収縮させる力で甲が出て足が安定するのですが、この筋力が身に付いていないのにストレッチだけで甲の靭帯を伸ばしたり、ソールの力で甲を出してもらい湾曲したソールの上に乗って立つような足の使い方をしていると、足が育たないばかりか甲の靭帯が広がって開張足になったり怪我につながります。靭帯は一度伸びてしまうともう元に戻す事は出来なくなります。甲の靭帯が伸びて足裏のアーチが失われると足裏に力が入らなくなり様々な不調を引き起こします。果ては長く歩く事も出来なくなってしまいますよ!

正しい筋力と技術なくして美しく正しいポアント・ワークはありません。靴にばかり頼るのではなく、自分が何故立てないのかを探って、足りない部分を鍛えることこそが安定したポアント・ワークを得るコツです。

確かに全く立てないような自分の足に合わないポアントもあります。ポアントは硬さも含めて足に合った物をしっかり選ぶべきです。しかし例えば、ピケでは立てるのにルルベ・アップでは立てないとか、立つ事は出来ても下りる時にグラつくとか、パッセでは立てるのにピルエットでは立てないとか、これらは靴が悪いのではなく自分の技術と筋力が足りないことが多いです。プロでもね、ポアントを変える時って慣れるまで大変なんですよ。それほどポアント・ワークは難しいんです。

自分に合った、ほど良い強度のシューズで大切な足を育てて下さい。焦らずにじっくりと!


<バックナンバー>
思いつきで書いてるので内容が重複している部分も多いのですが、過去にポアントについていくつか記事を書いて言います。お暇でしたら読んでみて下さいませ。(この記事とは真逆?にポアント・ジプシーについての記事なども書いています。)
[バレエ上達へのテクニック]の方にもポアントついての基本的な内容を載せています。

「ポアントを履くといつもより下手くそに見えてしまう!」 (2020.04.02)

「ポアント・ジプシー、ポアント貧乏」 (2019.03.11)

「ポアントの進化 (ロシア・バレエ)」 (2017.02.17)