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掲載日:2019/3/11
■ 「ポアント・ジプシー、ポアント貧乏」

 「ポアント・ジプシー、ポワント貧乏」なんて書きますと、「まさに今の私!!」と思われる方も多いのではないでしょうか?今日は世間では“トゥ・シューズ”と呼ばれる“ポアント(ポワント)・シューズ”についてお喋りさせて下さいね。以前もポアントネタで書いていますので繰り返しネタになるかも知れません。今回はあくまでも“単なるRuccaのおしゃべり”と思ってお付き合い下さい。

 爪先立ちをして踊るバレリーナの姿に憧れてバレエを習い始め、やっと履かせて貰えたポアント・シューズ。ポアントで立っている自分の姿を鏡で見て感動した方も多いのではないでしょうか?そんなポアント・シューズなのですが、これほど厄介な代物はバレエ用品の中では他にありません。それは中々自分に“ぴったり合う靴”に出会えないから。

中には「大抵どのシューズでも大丈夫!」という強者もいますが、多くの方は悩み続けて試し購入を繰り返しポアント代に多くの費用をはたいてしまったり(←ポアント・ジプシー)、すぐにポアントが潰れてしまってポアント代がかさむ(←ポアント貧乏)状態に苦しめられたりしますよね?

ポアントってバレエの道具の一つなんですが、(レベルに寄りますが)自分の踊りを美しく見せてくれるアイテムではあっても、踊り易くしてくれる「道具」ではないんですね。むしろ逆!ポアントを履いて踊る為には、バレエシューズで踊る何倍もの技術と筋力が必要なんです。だから、自分の足の形に合っていれば良いだけではなく、自分の今の状態によっても、自分に合う靴って変わって来ることが多いのです。

<ポアントは慣らしてみないと判らない>
 お店でのポアントの試着はア・テールと体重を掛けない状態でのポアント立ちしか出来ません。重要なポイントでもあるポアント→ドゥミ→ポアントの移動ができないの。また、履いてレッスンして慣らしてみないと本当に自分に合うかどうかの判断ができません。最近はお店にポアントのシューフィッターさんがいらっしゃることもありますが、そのフィッターさんに勧めて頂いたシューズでさえ、慣らしてみたら踊り難かったという結果も多かったりします。これは自分の立ち方に悪い癖がついていたりすることも要因となっています。もちろん、初めてポアントを履く人や迷ったりした時にはフィッターさんの存在はありがたいです。特に初めてのポアントは自分一人の判断で決めていけません。先生やフィッターさん(あるいは知識のある店員さん)にアドバイスを貰って下さい。でも私の感覚ではやっぱり「ポアントは履いて慣らしてみないと判らない」という結論です。

「履いて慣らしてみないと解らない」だから、“ポアント・ジプシー”や“ポアント貧乏”になってしまうんですねー。
もうひとつ!“ポアント・ジプシー”になる理由。それは選べるポアントの種類が山のようにあるから(特に首都圏などでは。最近は通販もありますしね。)。

<昔は選べなかったポアント>
また昔の話になりますが、昔はポアントの種類なんて殆ど選べませんでした。私の場合は最初はスクールの先生がサイズをみてチャコットに注文してくれました。ですので皆チャコットのポアントです。中学生になって別のお教室に通うようになってバレリーナ製のポアントを知り、チャコットと比べて履いた感じの柔らかさに感動したものです。その頃の私はチャコットよりバレリーナの方が合っていたようです。(現在はチャコットを愛用していますが)選べないからこそ足の方を靴に合わせる工夫を色々しました。でも現在は沢山の種類から選べる時代になったのですから、ポアントの改造はあまりしない方が良いと思いますよ。改造するより自分に合う靴を探しましょう。

<3/4ソール(シャンク)>
例えば、甲が出て見えるようにインソールの踵の部分を切り取ったりします。いわゆる3/4ソール(シャンク)と呼ぶ形状にすることですね。実は私も長年このタイプの靴を履いていました。これね、足裏の力がまだ弱い人が履くと、「靴に乗っかって立つ」というクセがつくことがあるんです。いつも靴に乗っかっているので、いつまでたっても足裏の力がついて来ません。既に足裏を使って立っている人があえて3/4ソールのシューズを履きこなすのとは訳が違うんです。あるいはア・テールでも踵に乗りがちになることもあります。ですので私は初級者と子供には3/4ソールを勧めません。3/4ソールを履きたいのでしたら、最初から3/4ソールで作られている靴を選んだ方が良いと思います。フルソールの靴にはフルソールの方が適している構造上の理由があったりしますので。

<甲は筋力で作るもの>
 足の甲はね、無理に伸ばしたり、体重を掛けて「出す」ものではなくて、足裏の筋力によって「作る」ものなんです。もちろん体質的な形状の違いはあるのですが、足裏がちゃんと使えて来ると、甲が盛り上がって来て骨?の形が見えてくるの。先生の素足って見たことあります?爪先を伸ばすと筋張っていて盛り上がりが見えてスゴイですよ。ただ伸ばしただけではこんな足にはなれません。筋力も付いていないのに、ストレッチで靭帯ばかり伸ばした足でポアント立ちしたらどうなるか考えてみて下さい。致命的なケガになるんですよ!甲が出る体質の人ならちゃんと筋力によって出るようになるし、出ない体質の人はいくら機材を使って伸ばしても限界があります。どんなに甲が出ていても使えなければ危険なだけで何の意味もありません。

足裏の筋力なんてね、大人になってからでもちゃんと作れます。(実際には成長期にポアントを訓練をした人とそうでない人とは骨や筋力に少し違いが出ますが、克服できない範囲ではありません。)だから足裏は大事に訓練しなくちゃならないんですよ!身体の土台ですから。そして、足って土台でしかないから、踊りに必要な要素のたった一部でしかないんです。どんなに強い足や脚を持っていてもしっかりとした技術と身体を持っていないと、ポアントで立って踊る事は出来ないんです。

<ア・テールの感覚も大切>
 靴の話に戻しますが、皆さんポアントで立つ事ばかりに注目して靴を選ぶ傾向があるようですが、ア・テールで立つ感覚をおろそかにしていませんか?踊る時も舞台で立っている時も、殆どはア・テールで立っているんですよ。なのでまずは、その靴で片足ア・テールの感覚を確かめましょう。ポアントはア・テールでも多少は左右にグラグラするものです。どんなダンサーでも軸足が少し動くのは当たり前。正しく訓練されている足裏はちゃんと土踏まずが内側や外側に傾くことなく真上に上がっていて、足指と足裏3点(親指と小指の付け根と踵)で床をしっかり押しているのでコントロールして立てているんです。これがなくて床にべったりとリラックスした足裏で立っているとすぐにバランスを崩しまいます。ポアントでも足指と足裏3点はしっかり床についていなくてはならないの。ですので、慣らした状態でもで足指や3点でしっかり床を押せない靴は合わない靴なんですよ。ア・テールの感覚をしっかり感じて靴を選択して下さいね。

<踵が脱げる>
 踵が脱げ易い、という話をよく聞きます。私もどちらかと言うと脱げ易い方です。日本人の足って草履や下駄の文化でしたから踵があまり出ていなくて脱げ易い人が多いらしいです。脱げ易い人は踵にゴムを付ける訳ですが、本当に脱げる時ってどんなにゴムを強く付けても脱げてしまう事が多いです。脱げ易い人にまず確認して欲しいのは、小さ過ぎる靴を履いていないか?ということ。ポアントで踊っているとどんどん小さい靴を選びがちになるんです。足にピッタリの方が靴を足の一部のように感じられて踊り易いから。でも小さ過ぎる靴はボックスの一部分に負担が掛かり易いので潰れやすいし、小さいから布が足りなくて踵が脱げるんです。
(ポアントが潰れるって、ソールが柔らかくなってしまうという事よりも、前のボックス部分が柔らかくなって、横に開いてしまって指が床に直接当たり過ぎるとか、甲の部分に寄り掛かって立つ人の場合はこの部分が柔らかくなって立てなくなってしまう、なんて症状の方が多いんですよ。また、初級者でポアントが潰れやすい人って、身体を引き上げないで体重を掛け過ぎていたり、履きっ放しで脱いだ後に靴の湿気をとらない人等が多いです。靴が合わないばかりじゃないんです。大人素人ではポアントってそんなに簡単に潰れませんよ。)
もし少し靴のサイズを大きく感じるようでしたら、タイツの下に靴下(裸足でパンプスなど履く時に使う靴下など)をもう一枚履くとフィットしたりすることがあります。

充分なサイズなのに踵が脱げる場合は、紐を踵寄り位置でインソールに近い深い部分から縫い付けるとか、インソールの踵の部分(3/4ソールで切れている位置)を柔らかくしてみて下さい。但し!間違えて土踏まずの細い部分を柔らかくし過ぎないこと。またポアントで立った時にインソール全体が足裏にフィットしていないなら、インソールを足裏に沿って柔らかくしなくてはなりません。履きながら柔らかくするよりも、先にある程度柔らかくしてから履いた方が悪い癖が付かなくて済みます。柔らかくする時は良く注意して少しづつ手で曲げたり、ラップの芯を使って曲げたりして、時間を掛けて行って下さい。土踏まずの一番細い部分は柔らかくし過ぎると初級者では立てなくなりますよ。
また、足裏のサイズや足首の太さはプリエをすると大きくなります。それも考慮して靴を選んだり、リボンを結んだりして下さいね。

(余談ですが、最近ポアントに紐をつけず本番でもゴムのみのダンサーが増えてきているようですね。好みの問題なのでしょうが、コンテンポラリーならいいですが、クラシック・バレエではあまり美しくないと私は思うんだけどなぁ。リボンにはリボンの役割もありますから、素人はあまり真似しない方がいいですよ。先生によっては「危険だしマナーが悪い」と怒ります。幅広過ぎるポアントも綺麗じゃないと思う・・・コジョカルとか。幅広の方が安定するのかも知れませんが、緩めの幅広を履くなら、ちゃんとフィットした幅の靴の方がサポートしてくれますよ。)

<立ち方を再確認して>
 ここではポアントでの立ち方の説明はしませんが、自分のポアントでの立ち方を再度確認してみて下さい。プラットフォーム(ポアントで立った時の床と靴との丸い接地面)でまっすぐ垂直に床を押せていますか?前や左右に寄り掛かったり、足首が曲がっていたりしていませんか?(とはいえ、実は常に完璧に癖なくまっすぐ立てる人ってまれなんですが。)
足指が曲がっているのは論外ですよ。(足指を握っていると脚が太くなりますよ!)

<大いなる誤解>
 私も過去に思ったりしたことがあるのですが、ポアントでは色々な噂を耳にします。「欧米人は詰め物をしないで履く」「外国製の靴の方がかっこいい」「上手になったら外国製の靴が履ける」「上級者は硬いソールの靴を選ぶ」etc。これらは全部ウソですから。

まず「欧米人は詰め物をしないで履く」、これは個人差があります。詰め物をしなくても靴にあった足で尚且つ足や指先が十分に強い方は詰め物をしない方も確かにいるそうです。しかし人によっては詰め物もしています。現在はゼリー等で厚めのパッドが出ていますが、あまり詰め物は厚くしない方が良いので目立たないのかも知れませんね。

「外国製の靴の方がかっこいい」、これはなぜこんな噂が出るのかは判りませんが、ひとつ心当たりがあるのは、日本製のポアントって以前はチェリーピンクが多かったんです。対してヨーロッパ製はヨーロピアン・ピンクが多かったです。メーカーごとに色は大分違うのですが。それで「外国製がかっこいい」という印象がついたのかもしれません。ポアントの色はタイツと一緒だと脚が長く見えるので、指定がない限りはタイツの色はポアントに合わせると良いですよ。
外国製にこだわる人もいるのですが、私は散々外国製のポアントを履いた後、最終的にチャコット製に戻って来ました。幸い自分に合う靴が見つかったので。人にも寄るのでしょうが、やはり国産はいい!まず手に入り易い、特注が出来る、比較的安価(高価なシューズもありますが)、丁寧なつくりで品質のばらつきがない、そして柔らかくて軽い!!今の私にはとてもいい状態なんです。

「上手になったら外国製の靴が履ける」これは過去に日本製のポアントに対して外国製のポアントの方が硬かったから、上手になって足の力のついた人が外国製シューズを履けると誤解されたのかも知れませんね。グリシコ製は長持ちしたけど硬かったですしねー、でもブロック製のソールは比較的柔らかいでしょう?

「上級者は硬いソールの靴を選ぶ」、これよく誤解されていますよね?私も過去はそう思っていました。確かに硬い靴は足裏の力が強くなければ履けません。でもベテランの靴って、ボックスの先以外は結構くたくたに柔らかかったりします。ドゥミの後がしっかり付いていたり、ソールの踵寄りはぐちゃぐちゃだったり。こんな靴こそ、足の力がかなり強くないと履きこなせないんですが、それくらい柔らかい方がやはり踊り易いんですって。以前、柔らかいポアントで有名なカナダのイヴリン・ハートさんのポアントを手に取って触りましたが、本当にボックスの先以外、クタクタに柔らかかったです!土踏まずまでかなり柔らかくって、これで立てるのが不思議なくらい。ですので「硬い靴=ベテランの靴」ではないです。逆に、まだ筋力が付いていないのに甲が柔らか過ぎる人や、足指を握って立つクセのある人には、あえて硬い靴をあてがう先生もいます。ケース・バイ・ケースなんですね。

 結局、慣らした結果で自分に合った靴って、ア・テールで立っていても、ポアントで立っていても気持ち良いくらい安定します。「脚の中の軸で床をギュッと垂直に押して上半身を乗せて安定する」この感覚を私は大事にしています。

 最後に、ポアントは立たせてくれる「道具」ではありません!立てない理由を靴のせいにしないで、日々自分の技術を磨いて鍛錬しましょう!


※ ポアント・フィッティングについて詳しく記事にしている方のサイトをご紹介しておきます。但し、この方は専門家ではないそうですし、ポアントの感じ方には個人差がありますので、あくまで参考程度でお読み下さい。 必ず「はじめての方へ」というページを読んで、作者の方の考え方を知ってから読んで下さいね!

  ポアント&シューズ フィッティング・ルーム (http://www15.plala.or.jp/miagolare/)