【 脚を高く上げる −準備− 】 (2023.02.28 修正) 

 “脚を高く上げる”ことはバレエを踊る人間はみんな憧れる事ですよね。子供の頃から難なく軽々と脚の上がっていた人も中年になって段々脚が上がりづらくなって来るとその気持ち良さを懐かしく思うものです。バレエの代表的な技のひとつもとも言える“脚を高く上げる”動作は、実に様々な努力と技術を伴って実現されています。ここに書いている項目だけでは充分ではありませんが、意識しながら探求してみて下さい。しかし脚を高く上げることだけがバレエの醍醐味ではありませんので、その点はお忘れなく!

 まずは脚を上げる為の準備です。片脚を高く上げる為には力の土台となる強くしなやかな身体が必要です。身体は凝り固めてはいけません。体全体を常に長く伸ばし続けることを意識して下さい。そして脚をどう上げるかを考える前に以下の点について身体の使い方の再認識をして下さい。前・横・後、どの方向に上げるとしても必要な事柄です。

* ストレッチ  (別ページを開きます) 
    (※既にストレッチに熟達している方は読み飛ばしてかまいません)

* 軸脚側の“芯”

* 体幹の強化 


★ 軸脚側の“芯” ★ ―――――――――――――――

<“芯”を天に向かって伸ばす>
 前・横・後の3方向共通して脚を高く上げる主な筋肉は腸腰筋です。脚が高くなればなるほどに腸腰筋が脚を上げ、90度以上の角度では腸腰筋が上げた脚を支えます。すなわち「脚を高く上げたいなら腸腰筋を上手く使え!」ということになります。しかし“フン!”と踏ん張って脚を上げても美しくは上がりません。脚を高く上げたいなら、やはり体を伸ばすことです。バレエの姿勢を正しく作っていれば、きちんと床を押し“芯”を天へ伸ばして行くことは、腸腰筋を細く・長く・しなやかに使うことに他なりません。脚を上げると同時に“芯”を天へ伸ばすのです。そして脚を下ろしても“芯”は天へ向かわせたまま。まずはこの意識を忘れずに実践することから始めましょう。

<軸脚側の“芯”>
 バレエでは片脚を軸として動作を行う時は、必ずまず軸側と体幹のコントロールに神経をさきます。レベルが上がれば上がるほどに、7割8割の神経を軸側と体幹に集中させて身体のコントロールを行います。動脚については既に習慣となり身体が覚えていますので、ターンアウト、充分な伸び、高さと位置、動きのスピード、等に少し神経を割いている程度です。もちろん個人によってこの割合は変わって来ますが、それほど軸脚側の注意は重要だということです。

軸側のコントロールの目標はとてもシンプルで、「動脚に負けない強い芯を作ること」「どのような変化にも対応できるように、重心を上へ上げておくこと」です。これは足で床を強く押し天へ向かって伸びる意識で実現できます。詳しくは「引き上げるという意味」のページに述べてありますが、片脚になる場合はプラスして“芯”のラインを軸脚側に少し移動させることを考えなければなりません。

 土踏まず(あるいは爪先)から始まり脚の付け根ポイントを通った“芯”のラインが背中を通る場所は、土踏まずの真上に乗せた背骨の中か、背骨のわずかに軸脚側寄りライン上(下図:背骨の側面(水色の線))が理想です。また、横に脚を高く上げる場合は骨盤を横に傾けるので上半身の中心は大きく爪先側へ移動することになります。

土踏まずの真上に乗せる部分を背骨そのものにするか、背骨のわずかに軸脚側寄りにするかについてはメソッドの違いや多少の個人差がありますが、殆どは感覚の問題です。私は初級者の方には後者の、背骨の軸脚側寄りラインを土踏まずの真上に置き“芯”の通り道と意識した方がより動きやすいと思います。それは、動脚を動かしたりキープしたりする際に軸側の広背筋をより強く使うので、“芯”を背骨の軸脚側寄りに意識してとった方が連動してコントロールし易いからです。先生の言う「背骨を軸脚の真上に!」も「背骨の脇を軸脚の真上に!」も、どちらも正しい注意ですので、自分にあった意識を選択して下さい。

左の図は背中側から見た身体の“芯”(水色の線)が背骨の軸脚側の側面を通るイメージの図です。
“芯”が背骨の中を通るようにするには、更に背骨を軸脚の爪先側へわずかに移動させなければなりません。
どちらの意識でもかまいませんが、大切なのは軸側の広背筋(赤い線)や側筋(腋下の筋肉)を正しく引き上げる(押し上げる)事です。
(※「側筋」や「腰筋」という名称の筋肉はありません。)





(よくある間違い)
また、片脚立ちでよく行われる間違いは、軸脚の側面や前腿に寄りかかってしまうように重心を大きく移動させて立ってしまう事です。これは“芯”を大きく移動し過ぎた結果発生します。あるいは腰を軸側にくの字に出っ張って座り込んでしまうような体重の掛け方をてしまった場合です。これらは土踏まずから頭上までのラインが垂直になっていません。出来るだけ床から垂直なラインを意識して“芯”を上下に伸ばして作れば解消される問題です。

他に、軸脚で床を強く押そうとするあまり、お尻や腰で床を押してしまうケース。床を押すのは脚の付け根から下で、腰やお尻は足で床を押す力を利用して上へ押し上げます。あるいは腰で床を押すのであれば、脚の内側は床から座骨までしっかりと伸ばして張り合っていなくてはなりません。
腰やお尻で床を押して片脚立ちすると安定し易いので、おちいり易い間違いですが、これでは重心が下に落ちて、次の動きへ移りづらくなってしまいます。

両脇も基本では水平にしなければなりません。




★ 体幹の強化 ★ ――――――――――――――

 ここまでは軸脚側の“芯”について述べて来ました。次は動脚の動作に負けないような強い体幹を作ります。

まず、バレエの動きやポーズでは、エカルテ等の表現の為の動きを除いて、両肩や両脇の高さは水平を保つことが基本です。第2アラベスクのように両脇を正面に対して捻ることはあっても両脇の高さを変える事は殆どありません。(正確には第2アラベスクの基本形は胸部と骨盤は同じ方向を向いています。骨盤に対して両脇を捻るのは表現をつける時に行います。)また腰骨についても、多少の捻りが加わることはありますが、高いアラスゴンド以外の脚上げでは両腰骨の高さはほぼ水平に保たねばなりません。両腰骨を自分の正面の方向に向けている意識が必要です。これを実現する為には強い体幹が必要となります。強い体幹を実現させるには、背中の広背筋や、脇下の側筋(腹横筋・腹斜筋等:側筋については「腰筋を上げる」のページに詳細が書いてあります)の意識が必要です。広背筋と側筋は厳密には異なる感覚ですが、使いこなせるようになるまでは同じものと考えても結構です。もちろん他にも、背骨の横を通る脊柱起立筋やお腹の腹直筋、下腹の腸腰筋などが必要ですが、これらは既に無意識に使えていると前提して話をします。

 動脚の動きに引きずられない為に、まずは腸腰筋を引き上げ、軸脚側の広背筋や脇の筋肉をを強めに上に引き上げます。その割合は軸脚側7割、動脚側3割という程度。先生方の「軸の背中で動脚のコントロールをする」や「軸の背中を引き上げて」という注意はそのことを示しています。広背筋を上手に使うには、まず横隔膜を閉じて、僧帽筋や肩甲骨を軽く下げる力をテコとして広背筋(脇)を上へ引き上げる(押上げる)感覚で使うことです。広背筋は軸脚側だけではなく動脚側も適度に引き上げ、両肩・両脇が水平を保つようにします。これらの意識で身体を伸ばし続ければ体幹は正しい位置で保ち続ける事が出来ているはずです。


★ 脚の筋肉の強化 ★ ―――――――――――――――

 当たり前のことですが、どれほど柔軟性を高め可動域を広げても筋肉が弱ければその位置まで脚を上げられませんし、キープすることもできません。手の力で可動域いっぱいまで脚を上げられても、手を離してしまうと中々その位置で保つことは難しいです。脚上げの筋肉を強化させる運動は積極的に行いましょう。例えば、グラン・バットマンは速度を変えて練習したり、デべロッペは動脚を伸ばした後で軸脚の曲げ伸ばしをしたり、手で上げた脚を手を離してキープして更に軸脚をルルベする等、自分で強化する方法は色々あります。但し、間違った筋肉の訓練をしないように気を付けて下さいね。しっかり腰骨を引きターンアウトして、脚の骨を遠くへ伸ばすように脚を上げましょう。「上げる脚の爪先には糸が付いていて、その糸が遠くへ引っ張られて行くので脚が上がる」、そんな感覚で脚を上げると楽に上がる感じです。引っ張る糸に負けないように、腸腰筋でしっかりと糸の元を止めていて下さいね!

それでは、次のページからいよいよ脚を高く上げるコツを考えて行きましょう!

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