「引き上げる」という意味


 (<2019.01.16> “引き上げ”というテーマで 「“引き上げ”について考える」という記事を“RUCCAのおしゃべり”ページで書いています。そちらもご参照下さい。)

 バレエを習い始めたその日から、誰でも「重心を上へ上げる」という指導を先生から受けるはずです。昔はよく先生方に「身体を引き上げて!」という言葉で指導を受けました。これは、通常は骨盤の位置にある重心を身体の中心に沿って上部に移動させ、身体を軽く動きやすくする為の指導です。しかし、この「引き上げ」という言葉は、補足の言葉を付けないと大きな誤解を生み、肩が上がったり筋肉を緊張させる原因となってしまう大変危険な言葉なのです。

バレエにおいて、その動作やポーズの全ては両方向へ伸び続ける事で得られるバランスです。重心を上へ移動させる為には、その土台となる力、すなわち「下へ押し下げる力」が必ず必要です。身体のコントロールはすべて「引っ張り合う」あるいは「伸び合う」力によって構成されていなければならないのです。
現在の先生方は様々な工夫や補足をされて重心の移動を指導していらっしゃいます。「身体を上から吊り下げる」「身体を土台から押し上げる」、そのような言葉と一緒に「引き上げる」という意味を伝えようとしているようです。

 ではここで、身体の力の方向性について少し詳しく分析してみましょう。但し、体の感覚や使い方は人それぞれで多少違います。ここに記述した意識は、比較的多くの先生方が指導される使い方であり、あくまでも主なものの一部ですので、自分の感覚や先生のご指導と合わせて研究してみて下さい。

 
【前面側の意識】

左の図は身体の前面を表します。赤い矢印へ向かう力、 緑の矢印へ向かう力、 青の矢印上下に伸ばす力の意識を表しています。

D 足裏で床を押す力です。踵の上には乗らず重心は土踏まず(と踵の間辺り)の上に乗せます。

C 第1ポジションで立った時の脚の内側のラインです(内側ハムストリング)。 Dの力を利用してハムストリングと土踏まずを脚の内側の付け根に向かって押し上げます。 この力は骨盤がきちんと立っていないと十分に機能させることはできません。

@ 身体の芯となる背骨付近の力です(脊柱起立筋)。上へ伸ばす意識が主ですが、 慣れてきたら尾骨(仙骨)から下へ向かう力も軽く意識に加えます。

A 身体の側面、脇の下の筋肉(側筋)です。肩甲骨を下げることによって脇の下の筋肉を上に引き上げることが出来ます。

B 鼠蹊部(ビキニ筋=腸腰筋)を上へ。ビキニ筋の引き上げ方は別ページでも詳しく説明しています。
上げる感覚に慣れたら、Fのように上下へ伸ばす感覚も身に付けて下さい。

EF レオタードと脚の部分の境目辺りと考えて下さい。胴と脚を離すように 上下へ伸ばします。FBと同じビキニ筋の部分、 Eは腰の側面の部分です。




【背面側の意識】

@BC  は前面側と同じ。

D 僧帽筋を下ろします。
E 肩甲骨を下ろします。

A 肩甲骨を下すことで、肩甲骨下の筋肉(広背筋)を 脇に向かって引き上げます。

F 背中の腰をまたいだ部分(腰椎・腰筋=腰方形筋)を上下に 伸ばします。この部分は垂直に充分に伸ばして下さい。この部分の伸びは身体を安定させるために とても大切な役割を果たします。



 このように、「身体を引き上げる」という力は必ずテコの応用で 「押し下げる」力を伴い実現されます。「押し下げる」力は強すぎると身体を 硬くしてしまいますので、「下ろす力」とも考えた方が良いかも知れません。この「下げる・下ろす」力をどのポイントで意識するかは人それぞれですが、上手に使って出来るだけ正確な姿勢(アライメント)を保つよう心掛けて下さい。

どのように「下ろす」のかが判らない方は、まずは「僧帽筋あるいは肩甲骨を下ろして、その代わりに背骨を、ウエストより下あるいは床から、垂直天へに伸ばす」そんな感覚で探ってみましょう。


ページ先頭へ