脚を上げる為のストレッチ


★ 脚を上げる為のストレッチ ★

 (<2018.01.16> ストレッチについての記述を大きく変更しました。)
 まず脚を高く上げるためにはやはり関節の柔軟性が必要です。筋肉がしっかり使えなければ身体が柔らかくてもどうにもなりませんが、物理的に脚の開く範囲までしか脚は上げられないのは事実です。バレエのストレッチはとても身体に負担の大きい動きです。最近の研究では昔から行われているストレッチが必ずしも安全で正しいものでもない、あるいはとても注意が必要であるということが解って来ています。ここでは脚上げに有効なストレッチについての注意点を記述しますが、軽い運動で身体を温めてから、決して無理をせずに行って下さい。

 さて、バレエの動きやポーズは全身運動ですから全身のストレッチが必要ではありますが、中でも脚を高く上げる為には最低でも「長座屈身」、「開脚」、「カンブレ」、「ターンアウト」については、自分の関節の可動範囲最大まで伸ばす努力をしましょう。またお尻のストレッチも大切です。もちろん身体が柔らかいだけでは「バレエの脚」は上がりません。筋力と上げ方のテクニックが必要です。しかしストレッチは脚を高く上げることの最初の1歩です。年齢が上がれば上がるほどに脚は上がらなくなりますから、出来れば毎日少しでもストレッチを行って下さい。そしてストレッチは必ず息を少しづつ吐きながら深い呼吸で伸ばしたい部分の筋肉の力を抜きながら行います。どこに効いているかを敏感に感じ、慣れてきたら脚の角度や向きを変える事によって、更に異なる場所を伸ばすことが出来ます。

<長座屈身での注意点>
 長座でのストレッチで伸ばしたい所は、主に脚の膝裏側に走る内側と外側のハムストリングです。ここが短いと脚を開くこともキープすることも出来ません。ハムストリングは座骨から膝裏の下までをつないでいる筋肉ですので、その部分を伸ばす工夫をしましょう。可能であれば踵をどこかに引っかけたりして踵の位置を固定して伸ばすと効果的です。膝を伸ばした状態でストレッチすることが理想ですがまだ無理な方は膝を少し緩めたり脚を少し広げて行なっても構いません。あるいはお尻の下に厚いクッション等を入れて少しお尻を浮かせても結構です。

 脚はパラレルとターンアウト、ストレッチ(足首を伸ばす)とフレックス(足首を曲げる)と、そのどちらも組み合わせて行います。腿の前側(大腿四頭筋)には強く力を入れず膝裏側の筋肉を伸ばす様に。最初はおへそで背骨を押す様に背中を丸く、柔らかくなって来たらウエストの後ろ(腰椎辺り)を前へ入れて背中を伸ばし、肩甲骨と僧帽筋は下ろして、背骨を伸ばした2つ折りの状態になれるようイメージして行って下さい。
柔らかくなって来たら今度は膝をわずかに緩めて、足首を伸ばしたまま足指だけを折り、おへそで背中を押す様に腰を丸める(下図)と、また異なる場所を伸ばすことが出来ます。
(但し、過度の反張膝(バレエでのX脚:膝を伸ばすと膝が裏側へ丸く反ってしまう膝)の方は膝裏のハムストリングは伸ばし過ぎないようにしましょう。)
膝裏が中々伸びない方は、床やバー等で片脚づつ行った方が良い効果が出ます。
背中は丸くおへそで背骨を押す様に、
足首は伸ばし気味、足指は折る、
膝を少し緩める
色々な箇所を少しづつ動かすことで違う部分が伸ばされることを自分で感じてみましょう。



<長座でのひねり運動>
さらに長座では、下の右図のように片脚の膝を立てて上体をねじり、立てた脚とは逆側の肘を立てた脚の外側に回す様にして“ひねり”のストレッチも行って下さい。背中を垂直に伸ばして僧帽筋を下ろし、肋骨は水平にして胸部をねじります。この“ひねり”は後ろへ脚を上げる時に特に必要になって来ます。

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<開脚(スプリッツ)での注意点>
 開脚ストレッチ(スプリッツ)は必ずしも必須なエクササイズではありません。痛みの強い方は他の方法(後述します)で脚が開く(外転する)ようにする事ができます。大人初級者さんは、後述の方の方法でストレッチをする事をお勧め致します。充分に脚が開くようになれば開脚ストレッチも大抵の方は無理なく出来るようになります。以下の記述は既に長年開脚ストレッチをしても問題が発生しない方向けに注意を記述しています。

 いきなりの開脚は危険です。まずはお尻を床に着けたまま、前脚の膝を鋭角に曲げて(足首は内側)後ろ脚を後ろへ伸ばして下さい。可能な方は曲げた脛(すね)が身体の正面に対してなるべく真横になるように近づけます。骨盤は無理に立てる必要はありません。無理のない角度(痛みのない角度)で大きな弧を描くように後ろ脚と上半身とをつなげます。股関節の調子を感じながら、ゆっくりと前脚を伸ばして下さい。(※後ろへ脚を上げる時は股関節は前へ倒しますので、股関節の前側を無理に立てる必要はありません。)

 脚を前後へ開く開脚もパラレルとターンアウト、ストレッチとフレックスと両方行います。ターンアウトした状態では正面に対して腰がねじれがちです。左右の腰骨(骨盤の前側両側に出っぱっている骨)を結ぶ直線は、床に対して水平にして、正面に対してなるべく真横となるようにイメージして努力します。(実際には両腰骨を結ぶ直線は、正面に対して完全に真横になる事は人間の身体の構造上ありえませんので、あくまでもイメージとしてその角度に近づけるようにします。)正面に対してねじれを少なくする為には、前脚の内腿の付け根を手前に引いて後脚は付け根から可能な範囲でターンアウトする事が重要です。
脚のストレッチを十分に行ったら上半身も伏せたり反ったりして伸ばしますが、それぞれ伏せる時は尾底骨から、反る時は骨盤は無理に立てず恥骨から長く伸ばす感覚で大きくカーブさせて行います。首も長く伸ばし、首の後ろを折らないようにして下さい。



 横の開脚ストレッチ(横スプリッツ)もクラシック・バレエに必須なものではありません。伸ばし過ぎると一時的に内転筋が使えなくなったり、人によっては関節を痛めてしまいます。いっそ行なわないか、行うなら短い時間で緩めに行った方が良いでしょう。

 まずは座って片脚を横に開きます。もう一方の脚はあぐらをかくように膝を曲げて下さい。上半身を前へ倒しながら伸ばした方の脚を横へ広げて行きます。膝は出来るだけ天井の方向へ向けますが、痛いようなら骨盤に合わせて少し前側へ倒しても構いません。ウエストの後ろ側(腰椎付近)も後ろへ落ちてしまわないように少しだけ前へ入れて上半身を倒します。上半身に伴い骨盤も少しづつ前傾させます。(上半身は床にペタリと付けなくても構いません。)この動作を左右の脚を入れ替えて行って下さい。充分に柔らかくなって来たら、両脚を伸ばして上半身を前へ倒します。この時点での脚は可能な範囲内の角度で開いて下さい。決して無理をしてはいけません。
限界まで両脚が開いたら上半身を起こして下さい。起こした時には骨盤は床と垂直に立てるイメージで、その状態が現在の限界です。横開脚の開く角度は個人差がとても大きいので、絶対に無理をしないで下さい。

中高年になるといきなりの180度開脚は危険です。前述のように最初は片脚を曲げたりしながら、徐々に自分の限界角度まで開くようにしましょう。また、筋肉を長い時間伸ばし過ぎても組織に負担が掛ります。全く痛くない負荷では可動域は広がりませんが「痛気持ち良い」程度で小まめに根気よく行うことが大切です。
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<開脚(スプリッツ)以外のストレッチ>
 上記の床でT字を作る開脚ストレッチ(スプリッツ)の代わりに、脚を大きく開く(外転)させるストレッチをご紹介します。(※絵は後日追記します。)
  1. 床に仰向けに寝て両脚を伸ばします。バーで立った時の骨盤の角度を意識して、座骨や尾骨を足首の方へ向けます。(ウエストの後ろには床との隙間が空くはずです。)
  2. 片脚の膝を両手で抱えるように胸元へ引き寄せます。そのまま曲げていた膝をゆっくりと伸ばし膝を伸ばしたまま上げた脚を胸元へ引き寄せて下さい。
    この時、恥骨は“わずかに”前へ出た状態(骨盤のわずかな後傾)になり、上げた脚の腰骨は“わずかに”床から浮いたりしますが、それは立ってバーで行った時の正しい位置ですので、無理に床にお尻を床に押し付けたりはしないで下さい。但し大きく骨盤をひねってはいけません。
  3. もう一度膝を曲げて両手で膝を引き寄せて下さい。両手でゆっくりと膝を外側へ円を描くように回して下さい。股関節が柔らかくなったことを感じたら、両膝をターンアウトの状態にさせて、膝を外へ向けながら、脚を伸ばしている側の手で、膝を曲げている脚の足首またはふくらはぎを持ち、なるべく膝を外へ向けたまま膝を伸ばして来ます。膝を伸ばし切るタイミングで膝や足が少し内側に戻るようなら脚の高さを下げて無理のない範囲で行って下さい。膝を伸ばしたら、伸ばした脚をそのターンアウトの角度で両手で引き寄せて来て下さい。骨盤の注意は先程と同じです。
  4. 引き寄せた脚を今度はターンアウトさせたままアラスゴンド(横)の方向へ回して下さい。片手で脚を持っていて構いませんし、回した脚が床につく必要はありません。最初はなるべく骨盤は動かさず、限界が来たら骨盤を横に傾斜させて、横に開いた脚を引き寄せます。但し、軸脚側の座骨は軸脚の土踏まずの位置から大きく横へ外れないように意識して下さい。両側のお尻は床に着いたままです。

 後ろへ脚を上げる動きは主にストレッチよりも筋力やテクニックの方が大切です。デリエールで必要な“ひねり”は上記の<長座でのひねり運動>で、恥骨から頭までの弧を描くストレッチは下記の<カンブレ>で、膝を伸ばすストレッチは下記の<ターンアウト>や、よく行われる、直立して背中側で片脚の足首を手で持って前腿を伸ばすストレッチが効果があります。この時は両膝は付けたままで行って下さい。
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<カンブレ(反り:バック・ベント)での注意点>
 下図のカンブレのストレッチでは、両脚は小さく離して少しターンアウト気味にして行いますが、若い人は足を揃えて誰かに脚を押さえて貰いながら行っても良いです。大切なことは「腰で2つ折りにしないこと!」、背骨の骨と骨の間を伸ばす様にして大きなカーブで行います。下図の赤いラインの部分は無理に折り曲げて伸ばし過ぎてはいけません。
更に脚を少し内側に回しても違う筋肉が伸ばされます。首も左右両側へねじって伸ばして下さい。
柔らかくなって来たら、腰椎でのカンブレ(脚の前面の付け根から伸ばしてウエスト部分で大きく反る)と、胸椎でのカンブレ(みぞおちまでは床に付けたままで胸から上だけを起こす)を行って、どちらからでも反る事ができるようにします。首の後ろを詰まらせないように僧帽筋は必ず下ろして行って下さい。


<ターンアウト>
  「・ターンアウトは小さい力で」のページで述べた通り、ターンアウトは一筋縄では開きません。ターンアウトは柔軟性と共に正しい筋肉の使い方が必要となるからです。ストレッチのみに焦点を当てると、上記のストレッチや蛙足のように股関節を開く運動の他に腸腰筋や内転筋を伸ばすストレッチも行う必要があります。ストレッチの方法はさまざまありますが、ここで一つご紹介しておきます。
<2015.11.01追記> 床に伏せて行う蛙足のストレッチは故障の原因になるので、現在では奨励されていないストレッチだそうです。もしこのようなストレッチを行いたい場合は、仰向けで両脚をひし形にしたり下向きコの字型にしたりしてゆっくり膝を開いて行く方法で行います。但し、このようなストレッチはあまり行わなくても良いと思います。

下図のように寝て、両方のお尻を床につけるようにして前腿の大腿四頭筋や、そけい部の腸腰筋を伸ばします。伸びて来たら更に図では奥側の脚の足首から下を、手前の脚の腿か膝の上に乗せます。その状態で両側のお尻を下へつけるように伸ばします。但しこれは強めのストレッチとなりますので、少しづつ行って下さい。


※腸腰筋は骨盤を立ててターンアウトを造り出すと共に、脚を高く上げる時に必要不可欠な筋肉です。しっかりと伸ばしたり動かしたりして良い腸腰筋を育てましょう。ターンアウトにはプリエやロン・ド・ジャンブの繰り返し運動も効果があります。

<追記:2016.06.12> <お尻のストレッチ>
 お尻の筋肉のストレッチも踊る上でとても大切な要素です。主なストレッチを3点ご紹介します。どれもお尻の筋肉が伸ばされていることをきちんと確認しながら行って下さいね。これらは膝に大変負担が掛かります。膝が痛いような角度では絶対に行わないで下さい。お尻の筋肉が伸びている感覚が得られれば充分です。
(1)
(2)
(3)

(1)は床に座って両膝を重ねます。そのまま上半身を前へ倒して下さい。最初は膝がきちんと重ならなくても構いません。慣れてきたら背筋を伸ばして、膝から下の“すね”の部分を自分の正面に対して真横になるようにして行きます。
(2)は床に座って膝ともう一方の足の足首を重ねます。“すね”は正面に対して出来るだけ真横に向けます。そのまま上半身を前へ倒して下さい。各膝がピッタリと足首に付かなくても大丈夫です。(かなり股関節が柔らかくないと両方の膝が足首に付く形にはなりませんので絶対に!無理はしないで下さい。関節は無理に開いても開くようにはなりません。)
(3)は床に横になって行います。片方の膝を両手で抱え、もう片方の脚の“すね”の部分を、抱えた膝と胸の間に挟みます。こちらも“すね”の部分は正面に対して真横に向けます。背中はなるべく伸ばして下さい。


 以上が主なストレッチになりますが、この他にもストレッチは沢山あります。バレエの本などを参考にしてストレッチの勉強をする際は絶対に「痛みのある無理」はしないように気を付けましょう!

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