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掲載日:2019/1/11
■ 「“引き上げ”について考える」

 2019年最初の記事として、バレエの土台の一つ?とも思われる“引き上げ”について考えてみました。 このサイトでも「バレエ上達へのテクニック」の中の「引き上げるという意味」 という記事に 引き上げについて書いているのですが、これを書いたのはずいぶん昔なのでちょっと整理して再考してみようと思います。

<“引き上げ”とは何?>
 「引き上げて!引き上げて!」、バレエの先生から繰り返し言われる言葉なのですが、バレエでの“引き上げ”ってなんでしょう?私は以前にも書きましたが“引き上げる”という言葉があまり好きではありません。むしろ“押し上げる”と言いたいくらい。

簡単に言うと、“引き上げる”とは「身体の姿勢を保ち、重心を上方へ向かわせること」という事でしょうか。

私は“引き上げ”というのは止まっている「形」ではなく動き続ける「動作」であり、「感覚を中心とした身体の使い方」だと思っています。バレエを踊る為の身体の使い方。
そして私がこのサイトで記述する“引き上げ方”はあくまで一部の例に過ぎず、様々なポイントを自分の中で連動させて“自分の引き上げ”を確立して行く事がバレエでの修行のひとつでもあるのです。ですので100人いれば100人の引き上げ方があるはずなんですよ。

<水平・垂直に立つ>
 さて、まず“バレエの姿勢”(スタンス)について少し考えてみましょう。スタンスの基本は「床に対して水平・垂直に立つ」ことです。これがきちんと出来て初めてターンアウトを行うことが出来ます。(ここでは海外の舞台によくある床の傾斜については考えないものとします。日本での素人は水平な床にしか立ちませんので。)
「床に対して水平・垂直に立つ」ってかなり大変なことだという事は皆さんは実感されていますよね?人間の身体はまず背骨からしてS字構造をしていますし、正確に測ると左右の足の長さもわずかに異なり、内臓も左右対称ではありません。それらに打ち勝って「真っ直ぐ垂直な十字のラインを身体の中に作ること」が正しいスタンスを習得することになります。そして、基本では垂直軸は足裏の踵と土踏まずの間に重心を置きます。(垂直に立っている時の位置、動くと位置は変わりますし、先生によってはもう少し爪先寄りに立つという先生もいます。)

“真っ直ぐ”と言っても、背骨のS字ラインを直線にしろというのではありません。バレエの姿勢では背骨を上下に引っ張って伸ばしてより直線に近づけようとしますが、完全にS字ラインをなくすことは不可能ですし、やり過ぎると健康を害します。(以前、床に仰向けに寝てその姿勢をバレエの姿勢だと指導される先生がいましたが、これは間違いです。人間にはお尻の厚みもありますし頭の形も個人差がありますので、寝て真っ直ぐにしたラインが軸のラインとはならないはずです。)バレエを段階を踏んで習得して行く内に踊るのに十分な軸の感覚が自分の中に出来上がって来ます。そのラインで十分なのです。背骨や首を“つっぱって”上下に引き伸ばすことが“引き上げる”という事ではありません。

<身体の使い方はアルデンテ>
 バレエでの身体の使い方の基本は「強い芯と柔軟な筋肉」です。「バレエのお尻はアルデンテ」って言葉、聞いたことあります?まさに「アルデンテ」の状態で身体を使う事がバレエの土台となります。
「“強い芯”って強い背骨のこと?」←違います。私がここでいう“強い芯”とは“身体を支えている筋力”のこと。背骨の筋肉だけはなく骨盤や胴体(体幹)にある筋肉も一緒に身体を支えていて、よく“姿勢筋”“コア・マッスル”等と呼ばれています。
これらの筋肉によって身体が支えられて、他の周りの筋肉によって身体を自在に動かせるんです。

バレエは動き続ける芸術なので身体を固めて使う事は原則的にはありません。力を使う感覚として100%ではなく「余力」を残して身体を使います。その「余力」が次の動きへの準備となったり、“表現”というバレエにとってとても大切なエッセンスを作り出すのです。但し筋肉を中途半端に使う事ではありません。以前から繰り返し言っている「突っ張る」ことと「どこまでも遠くへ伸ばす」ことの違いを感覚的に理解して下さいね。

<身体を支える筋肉>
 姿勢筋と呼ばれる筋肉は「脊柱起立筋(正確には多裂筋)、腹横筋、腸腰筋、骨盤底筋」が中心となって動きます。レッスン用語に直すと「背骨、脇、下腹、座骨」となりますね。これらを鍛えてあげることが上達への近道です!“引き上げ”はこれらの部位の筋肉の使い方と密接に関わって来るからです。

【背骨−脊柱起立筋(多裂筋)】
 では部分的に考えて行きましょう。まず背骨。背骨の筋肉はよく“脊柱起立筋”と呼ばれます。(実際に背骨を支えているのは多裂筋と呼ばれる脊柱起立筋の下に位置する筋肉だそうですが、バレエを習う上では脊柱起立筋という言葉のイメージを知っているだけで充分だと思います。)
「頭のてっぺんで天井を押して」「背骨を伸ばして」「骨盤を立てて」「尾骨を床へ向けて」、これらの言葉はすべて床との垂直ラインを作る為の言葉です。「背骨を伸ばして」と言われるとつい背骨を上へ引っ張り上げたくなりますが、背骨周りの筋肉は上よりむしろ下に伸びやすい性質があり、特にウエストから下の仙骨辺りは下向きにしか伸ばせません。ですので背骨は「上下に伸ばす」のが正解。昔の“なんちゃってバレリーナ”のように胸とお尻を突き出して頭だけ必死で上に引っ張っているような姿勢は間違いですからね!

【脇−腹横筋】
次は脇の筋肉ですね、“腹横筋”。脇の筋肉の一番深い部分にあってコルセットのように胴体を支えています。(ちなみに腹横筋の上に内・外腹斜筋があって腹斜筋は胴体を動かす筋肉です。)脇の筋肉の使い方を習得するのは結構難しいです。脇の締め方についてはの「わきをしめるってどういうこと?」 という記事に使うコツを書いてありますので参考にしてみて下さい。脇の筋肉は筋力がついて来ないと中々感じられない力なのですが、肩や背中の僧帽筋が上がっているとちゃんと使えない筋肉ですから、肩や肩甲骨などをしっかり下げて使いましょう。(腹横筋は脇を締める筋肉ですが、この他にも脇を上げる為に広背筋なども使います。)



【下腹−腸腰筋】


さてそろそろ身体を下から支える筋肉になります。まずは下腹の“腸腰筋”。バレエで“腹筋”と言えばこの“腸腰筋”を指します。腸腰筋は姿勢をキープすると共に脚を前(や横)に高く上げる時に使われる筋肉です。後ろに上げる時も骨盤を安定させる為に使われるのでとにかく忙しい筋肉なんですね。で、前述の腹横筋とか後述の骨盤底筋などが弱いと、腸腰筋は姿勢を支えることに終始してしまって脚を高く上げる力が減ってしまうんですよ。なので、腸腰筋以外の筋肉を鍛えて、腸腰筋様には主に脚を高く上げる為に働いて頂きましょう!
腸腰筋を使う感覚は「おへその下の丹田を内側に引きながら上へ引き上げる」「鼠蹊部のビキニラインを上へ引き上げる」なんて感じでしょうか。また「お腹の内臓を肋骨の中に入れなさい」などとも言われました。とにかく下から身体を支えている感覚です。つまり骨盤が前後に傾斜していると腸腰筋が正しく使えないので身体を下から支えられなくなります。スタンスでは骨盤はしっかり(自分の感覚で)立てましょう!ちゃんと立っていれば引き上げが楽になるので自分で判るようになります。

【座骨−骨盤底筋】

最後に“骨盤底筋(群)”ですね。これが“引き上げ”の要でしょうか?「骨盤の下側を閉じている筋肉」なんです。この部分を軸の真下に置いて上に引き上げることによって「姿勢筋の積み木の土台」となります。(もちろん床をしっかり押している足も“引き上げ”の土台ではあるんですよ。)
骨盤底筋を上に上げるには、両座骨を寄せて上げてみて下さい。私が他の記事で“付け根ポイント”って言葉を使っているでしょう?このポイントは座骨とハムストリングの結合部(左図のピンクの丸)なんですが、バレエ初級者さんって“座骨”って言われてもどこにあるのかがイマイチ判らない、でも(骨盤が正しい位置にあれば)この内腿の付け根を寄せて引き上げることで骨盤底筋が上に向かってくれるんですよ。つまり引き上げの土台を作ることが出来るの。なので私はアドバイスする時に“付け根ポイント”って呼んで意識してもらっています。間違えやすいのは、お尻の大きな筋肉である大臀筋の力で寄せようとしないで下さいね!お尻の下側にある座骨を寄せるんです。
更に感覚が鍛えられている人は「恥骨・両座骨・仙骨ので作られるひし形の真ん中を引き上げる」って感じに引き上げると良いそうですよ。


 以上が身体を支える4つの姿勢筋を使った“引き上げ方”です。 解りました?ちょっと解り難いかも知れませんね。今回はちょっと理屈っぽかったかも(^^;)
私が“引き上げ”ではなくむしろ“押し上げ”だろう、と思うのは、引き上げる為にはしっかりと足裏で床を押していないと良い引き上げは出来ないからです。私の感覚では「押してはい上がる」と言う方が近い感覚なんです。なので“引き上げ”より“押し上げ”の方がピン!と来るんですよ。

 “引き上げ”は踊る身体の土台のうちのあくまで一つなので、“引き上げた”からといって踊れる訳ではありません。でも“引き上がっていない”とバレエを上手く踊れないのも事実です。“引き上げ”って「身体の使い方」だから「筋肉の使い方」でもあるんです。だから筋肉を鍛えると良い引き上げも出来るようになるし、筋トレ等で筋肉を感じられるようにしてあげると速く踊る身体の準備が出来るようになるんです。ですから皆さん、軽い筋トレをしてからバー・レッスンを始めましょう!上記の筋肉以外でも内転筋やハムストリング、背筋など、筋トレして「軽く固まって使えるようになって来たなー」と感じてからバー・レッスンを開始すると全然違いますよ。まずはやってみて下さい。ストレッチばかりがレッスンの準備ではないの。

 そして!!!寒くなって来ましたし、皆さん。ちゃんと★ウォーミング・アップ★をしてからストレッチや筋トレ、バー・レッスンに入りましょうね! 軽く汗ばむくらいになるまで、バーにつかまっても良いので、足踏みや小さいジャンプ等を組み合わせて脚の筋肉を使い身体を温めて下さい。ストレッチの可動域も広がるし、怪我防止に役立ち、筋トレも速く整いますよ!

 それでは皆様、今年もバレエを心ゆくまで楽しみましょう (^o^)/