「お尻をしめる」ということ


 私がバレエを再開して先生から頂いたアドバイスの中で、「お尻をしめない」という意識は私を大変困惑させたアドバイスの一つでした。なにせ子供の頃から「お尻をしめなさい!」という注意の中で育って来たので、一生懸命お尻に力を入れて自分のグラつきを押さえていたものですから。今なら「お尻をしめる」「お尻をしめない」、どちらのアドバイスも正しかったのだと解かります。しかし、まだ筋力も知識も伴わず、バレエの動きで「お尻の力を抜く」という感覚自体がよく感じられなかったのです。今はお尻の使い方の説明をする時には 「お尻は外側からしめず、内部や底部を集めて使う」と説明しています。まさにそんな感覚だからです。

 皆さんの中にも同じ疑問を抱えている方がいらっしゃるかもしれません。ここで一度、お尻について簡単に分析してみましょう。実際にお尻と脚は直接つながっていますので、「お尻の力」はそのままターンアウトに大きな影響を及ぼす力でもあるのです。

まず、臀部というものがどのような構造になっているのか、ざっと下の図を見て下さい。


図@ 大殿筋:(真後ろから見た図)

お尻の殿筋という筋肉は何枚もが重なって出来ています。大殿筋は一番表側にある筋肉で、お尻に手を当てた時に簡単に触れる筋肉です。
大殿筋の主な働きは、股関節の伸展(骨盤と脚を真っ直ぐにすること)と、脚を外旋(ターンアウト)させること、です。
ジャンプの時や直立姿勢になる時に大きく使われます。

A中殿筋:(横から横から見た図)

大殿筋をはがすと、その下には中殿筋があります。
中殿筋の主な働きは、脚の外転(脚を開くこと)と、脚の内旋(逆ターンアウト:内脚にすること)です。また動かした太腿を維持する事にも役立っています。


B小殿筋と深層外旋六筋:(横から見た図)

中殿筋をはがすと、その下には小さな小殿筋があります。
小殿筋の主な働きは、中殿筋のサポートです。
小殿筋の下に位置する部分にある細い筋肉群が深層外旋六筋(以後、外旋六筋)です。これはターンアウトで大変大切な役割をする筋肉です。


C深層外旋六筋:(背面から見た図)

深層外旋六筋を背面:真後ろから見た図です。
外旋六筋は、外旋させた脚を維持することに役立ちます。
また、両側のこの筋肉を中心へ引き寄せることで骨盤を安定させることにも利用できます。


(お尻をしめない)
 一般的に「お尻をしめる」と言われたら、まずは大きな大殿筋に力を入れて外側から強い力で両側からお尻を押さえるような締め方をします。しかし想像しても解かるように、外側を覆っている大きな大殿筋で締めつけられたら、中にある中殿筋達の筋肉は自由に動かす事が出来なくなってしまいます。これが「お尻はしめない」というアドバイスにつながります。

(お尻をしめる)
 しかし、お尻の筋肉を完全に使わなくなってしまうと、大殿筋で骨盤を立てることも、外旋六筋でターンアウトを維持することも出来なくなってしまいます。そこで、お尻の深い部分にある外旋六筋や、中殿筋を使って、骨盤を立ててターンアウトを行う為に、お尻の内部や底部を中心に集めるようにして深層筋を使い、ターンアウトと骨盤や脚の安定を得る。これが「お尻をしめる」というアドバイスになります。むしろ「ターンアウトを行う努力をした結果、お尻の内部がしまっている」と言った方が近いかもしれません。


 簡単に「お尻の内部を集める」などと言われても、初級者の方にはまだすぐには動かせない方が多いと思います。この「お尻の外側の力は抜いて、お尻の内部や底部の力を集める」というコツは、実はとても高度な技術でもあるのです。

まず初級者の方は体がグラつく時に、つい外側の大きな大殿筋をしめて身体の安定をはかりがちです。大殿筋を締めなくても身体を安定させるには、腸腰筋(下腹の筋肉)と脊椎起立筋(背骨の横の筋肉)を中心としたしっかりした体幹が出来ていなくてはなりません。バーレッスンでしっかりとビキニ筋(=鼠径部)を引き上げて、強い腸腰筋を作りましょう。(ビキニ筋の詳細は「・ビキニ筋で支える」のページを参照して下さい。)

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【 お尻の内部の筋肉の使い方 】
 ターンアウトを行うには、「大殿筋」「大腿四頭筋(外腿の筋肉)」「内転筋(内腿の筋肉)」等の大きな筋肉を意識して使うより、「深層外旋六筋」「ハムストリング」「縫工筋」「腓骨筋」等の細い筋肉を意識して使うと良いと、「・ターンアウトは小さい力で」のページで説明をしました。

大きな筋肉というのは瞬発力があるので、ターンアウトではまず最初に大殿筋などの大きな筋肉が主導して脚が外旋され(まわされ)ます。しかし、これらの大きい筋肉は強い力はあるものの、その状態を維持し続けることを苦手とする筋肉です。そこでターンアウトを維持して動くためには細い筋肉を上手く使って、脚の疲労を防ぎ、腿の肥大化を防ぐようにします。
また、大きい筋肉で外側から押さえず、深い内側の細い筋肉で力を中心に集めて動くことで、脚の自由度が飛躍的に増加し、大きく動くことも速く細かく動くこともスムーズに行えるようになるのです。

< 骨盤を立てる >
お尻の内部をスムーズに使うには、まず骨盤がなるべく正確に立っていなくてはなりません。骨盤が正確に立って初めて、付け根ポイントが使えるようになるからです。骨盤は“腰筋を垂直に引上げ、ビキニ筋で下から支える”ことによって、正確な角度に立てることが出来ます。自分にとっての骨盤の正確な角度は、付け根ポイントがスッと楽に引き上がるようになるので、感覚として判るようになります。


腰筋とビキニ筋の使い方

ビキニ筋の使い方
(正面から見た図)

ハムストリング と
付け根ポイント
(ピンクの部分が
付け根ポイント)
(背面から見た図)


< 付け根ポイントを寄せて引き上げる >
お尻の内部を集める為には、両側の付け根ポイントを中心に引き寄せて、上に向かって(内臓の中に入れるように)、上へ引き上げます。まず、その感覚を感じてみましょう。
  1. 両手でバーを持ち1番ポジションで立ちます。骨盤を理想的な角度で立てて下さい。

  2. 大殿筋に力を入れて外側からお尻に力を加えます。(お尻をロックする)
    そのままの状態で横に片足だけタンジュ・ジュテ(バットマン・タンジュ)を繰り返します。

  3. 次に、大殿筋の力を抜いて(ビキニ筋は引き上げたまま)、両側の付け根ポイントを寄せて上へ引き上げるように意識して、横のタンジュ・ジュテを繰り返します。
2の感覚と3の感覚の違いが判りましたか?3の付け根ポイントを寄せる感覚が得られたならば、それがお尻の内部や底部を集めた感覚です。バレエの動作の殆どは、この付け根ポイントを寄せた感覚のまま行います。

大殿筋の力を抜き、お尻の内部や底部を上手に集めることが出来るようになると、飛躍的に身体が軽く動くようになります!外側は柔らかく内側はそこそこ硬いお尻。ぜひ探求してこの感覚を身に着けて下さい。

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