【 ターンアウトは小さい力で (アン・ドゥオールについて) 】 (2020.09.19 修正) 


 アン・ドゥオール(英語ではターンアウト)は、バレエでの究極の技術&芸術です。バレエ教育の最初の1歩から踊りを止めるその日まで、一瞬とも気を緩めず努力し続けなければならない“土台”だからです。しかし、この脚の回旋を完璧に出来る素質のある人間は世界中でもほんのわずかだそうです。多くの主役級のダンサーさえも、自分の短所や難点に「アン・ドゥオール」と答えるほどです。この世の殆どの踊り手が“努力”を結集させて、完璧ではない自分の身体で理想のアン・ドゥオールを追い続けています。往年の名バレリーナ達にでさえ「いくつになってもアン・ドゥオールには新しい開眼がある」と言わしめるほどです。

ですので私ごときでは、このアン・ドゥオールについて言及するということはとても出来ないのですが、多くの先生方からの知恵と自分で調べた知識をつないで、間違わずに出来るだけ正しく脚を使える方法を記述したいと思います。ご自分の知識や使い方と合わせて探求してみて下さい。
用語として、フランス語の「アン・ドゥオール」とは外回し、「アン・ドゥダン」は内回しのことも指しますので、ここからは脚の外旋を英語の「ターンアウト」という言い方に統一します。

 バレエを踊る上で、ターンアウトをして脚を外側へ向かって回すことは、脚の可動域を大きく広げ、重心の安定を得、脚の美観も得るという利点を実現させます。バレエの脚の動きには骨を中心に脚全体を回す「ターンアウト」(外旋)と、脚を高く上げる「開脚」(外転)とありますが、そのどちらも個人の骨の形と靭帯や筋肉の伸びが大きく影響します。横の開脚が出来るからといって完全なターンアウトが出来るとは限りませんし、骨格的に充分なターンアウトが出来ても筋肉等が硬い場合は横の開脚は180度開かないこともあります。

重要なことは、ターンアウトは必ずしも180度完璧に開いている必要はなく、大切なのは筋肉をどのように使うかということなのです。

<ターンアウトの構造>
ターンアウトを実現する主な条件は以下の4点です。
@ 骨盤のソケットと大腿部の骨の形
A 腸骨大腿靭帯(ちょうこつだいたいじんたい:=Y靭帯)の弾力性
B 筋肉(特に前腿筋とハムストリング)の充分なストレッチと強化
C 正しい筋肉の使い方

上記の@については10〜11歳以前の訓練で多少骨の形を変化させることは出来ますが、ほぼ本人の体質の問題で努力してもどうにもなりません。Aについても幼少期にほぼ柔軟性が決まります。しかし根気強い訓練によって大人からでも多少変化させることが可能です。
Bについては大人からでもドンドン変化します。但し、加齢によって硬くなって行きますので、年齢を重ねれば重ねるほどケアを十分にしなければなりません。Cについてもこの時点からでも変化させ、意識を変えることによって脚の形や動きが大きく変わって行きます。
やはり私達のターンアウトにとって大切なことは、ストレッチと強化と使い方だということです。



 一般的にターンアウトは「開く」と言いますが、これは正確ではなく正しくは「回す」と言った方が適していると私は思います。 ターンアウトは“爪先を開く”のではなく、“脚全体を回す”ものだからです。

上の図は股関節の図と、脚の付け根の骨の図です。太ももの骨である大腿骨の先は「大腿骨頭」と呼ばれる球状の形になっています。股関節の「ソケット」と呼ばれる器状の骨の中で大腿骨頭が自由に動けるようになっているので、脚は様々な方向へ動かす事ができます。大腿骨と骨盤をつなげている靭帯は「腸骨大腿靭帯」(=Y靭帯)と言って、身体の中で一番強い靭帯な為、容易なことでは脚は骨盤ソケットから抜けないようになっています。この構造からも、ターンアウトは「脚を回す」のであって「開く」ものではないという意味がお解り頂けるでしょうか?
ソケットの深さ、大腿骨に対する大腿骨頭の角度、Y靭帯の柔軟性で、大腿部(太もも)を回せる角度の限界が決まります。
ターンアウトは片脚の外旋90度の内、ほぼ7割を太腿の付け根で、残りの3割程度を膝と足首を“ねじる”ことによって外旋を実現させています。まずは太腿を出来る限りしっかりと回せる技術を身に付けましょう。
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<ターンアウトのやり方>
(※ターンアウトの意識の仕方は色々あります、これはあくまで一例です。)

 それではターンアウトのやり方について考えて行きましょう。ターンアウトは脚全体を回旋させる“運動”ですので、形を作って止まっている訳ではありません。ターンアウトは常に動き続けている“動作”なのです。たとえ1番や5番のポジションで立っていても、常に小さい力で脚を回し続けて立っています。人間の脚は常に元の角度(パラレル)に戻ろうとする力が働きますので、無意識でいると回した脚もドンドン元に戻って来てしまします。もちろん動いている時はもっと注意が必要です。

<まずは脚を骨盤から抜く意識>
 基本として1番ポジションでのターンアウトを考えます。
まず、脚を回しやすくする為に、脚を骨盤から抜く努力をします。(実際には抜けません、抜けたら脱臼なので。)

足裏で床を押して、尾骨の先を床へ向け、腰筋&ビキニ筋(腰と下腹)を上に押し上げて骨盤を立てます。腰筋(腰)が垂直に上がることで前腿を斜めに走るライン(黄色の矢印:縫工筋)が引き上げられます。
更に、左図の青い矢印緑の矢印の様にレオタードを着ている部分と脚を切り離すように伸ばします。但し股関節の前の部分は緊張しないようにして下さい。
これで脚は体重の重みから解放され回しやすい状態になります。



<深層外旋六筋で腿を回す>
脚を回す為の一番の意識は、お尻の下側にある“深層外旋六筋”を使う事です。

 外旋六筋については別のページで詳しく取り上げますが、お尻の下の方の深部にある筋肉で、骨盤と太腿骨をつなげている筋肉です。この筋肉を使う(収縮させる)ことによって、太腿を外側へ回す事ができます。


 お尻の表側(殿筋)は“ほどよく”リラックスさせ、お尻下の深部を中央へ寄せるように(青い矢印)意識します。

足裏で床を押して、脚の裏側にあるハムストリング(ピンクの矢印)(内腿)を付け根ポイント(=座骨)(●)で引き上げるようにイメージして下さい。
膝裏をなるべく合わせるように(完全に合わさることはありません)、腿の付け根から膝を回し、両脚の腿の裏側(内腿)をくっつけます。


膝は膝裏を直線に伸ばすことで真っ直ぐにします。膝の表から膝を押し込むようにして膝を伸ばしてはいけません。膝の両側を引き上げるように意識して膝のお皿(膝蓋骨)を引き上げます。爪先と膝の方向は殆ど同じ方向、足首から先だけを開くと大きな故障の原因になります。

ターンアウトは爪先を開くのではなく、骨盤を立ててお尻下を集め、常にハムストリング(内腿)を引き上げ、腿から膝を回す感覚で行って下さい。


<足裏で床を押す>

※ (足裏3点)
足裏で床を押す力は左図の赤い●3点に均等に掛けます。足の指は先へ伸ばし、指の腹青い●でも軽く床を押さえます。



※ (足首は垂直)
1番ポジション時や軸足の時のアキレス腱は床からほぼ垂直に立っていなければなりません。親指側に傾いて土踏まずを潰したり、小指側に傾いて親指側が床から離れてしまわないように、両くるぶしは常に床から垂直に引き上げている必要があります。

足裏3点で床を押し、土踏まずの真ん中を垂直に引き上げる事が出来れば、両くるぶしも垂直に引き上がっていることになります。
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<使いやすいけど、頼り過ぎてはダメな筋肉>
下の図はターンアウトに大きく関係してくる筋肉群の図です。


図1【大殿筋】

図2【大腿四頭筋】

図3【内転筋】

図1はお尻を覆うように付いている“大殿筋”、図2は太腿の膝の上に付いていて何でもこなす?魔法の筋肉“大腿四頭筋”です。これらの大きな筋肉は人が太腿を外へ回そうと力を入れると真っ先に反応し易い筋肉ですが、鍛え過ぎる事で肥大化して硬くなり、他の筋肉の動きの妨げとなってしまいます。
脚をターンアウトさせる為に一生懸命“大腿四頭筋”を鍛えて、結果“大腿四頭筋”が妨げとなり脚が回らない、よくある現象です。(実際には大腿四頭筋にはターンアウトをさせる力はあまりなく、お尻をしめて骨盤を固めて立ったりすることによって力が入ってしまう筋肉です。大腿四頭筋の一番のお仕事は膝を伸ばす事。)
大殿筋の一部はアラベスクの時などには使いたい筋肉なのですが、ポジションでのターンアウトの際にはある程度リラックスしておかないと、表からお尻をしめつける事になり脚のスムーズな動きを妨げてしまいます。

図3の「内転筋」は1番ポジションでお尻に力を入れるとプリッと前に出て来るような脚の内側(脚をパラレルにした時の内側)についている筋肉で、昔は「アンドゥオールには内転筋を使え!」とひたすら言われて来ました。この内転筋はターンアウトを維持する為に積極的に使わなくてはならない重要な筋肉ではあるのですが、内転筋の主なお仕事は脚を閉じる事で回す事ではありません。(ホントは少し外旋のお手伝いもしますがあまり考えなくても良いと思います。) 内転筋を一生懸命前に出してターンアウトをしようとすると、お尻をしめてしまったり前腿を緊張させてしまったりと悪い影響が出る事があります。
脚をターンアウトさせると向かい合うのは裏腿のハムストリングで、ポジションで脚をしめる時にはハムストリングを寄せて来る意識で行った方が上手に内腿をしめる感覚を得る事出来るようになると思います。実際に使われるのは内転筋なのですが、感覚としてはハムストリングをしめる感覚で使ってみて下さい。

“大殿筋”も“大腿四頭筋”も“内転筋”もしっかりと鍛えなくてはならない筋肉です。しかしターンアウトでは意識して“積極的には使わない努力”をしなくてはなりません。これらの筋肉を意識して使って脚を外旋させるのではなく、むしろ「骨」を外旋させるような意識で、お尻下の深部の筋肉(外旋六筋)等を使って、また脚を先へ伸ばしながら外旋させると、脚への負担の少ない外旋が出来るのです。


<使いづらいけど、積極的に使いたい筋肉>


図4【深層外苑六筋】

図5【ハムストリング】

図6【縫工筋】

図4は骨盤と大腿をつなぐ細い6本の筋肉(梨状筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋)を総称した“深層外旋六筋”、お尻のとてもの深い所にある筋肉群で、ターンアウトでは一番積極的に使って欲しい筋肉です。
図5は脚の裏側にあり膝の裏をまたいでつながる筋肉、1番ポジションで立った時の“内腿”と呼ばれる“ハムストリング”、ハムストリングは脚の外側側面を通る「大腿二頭筋」(=外側ハムストリング:脚の外旋を維持)と、脚の内側側面を通る「半膜様筋」「半腱様筋」(=内側ハムストリング:股関節の伸展を維持)で構成されています。
図6は太腿前面に斜めに走る“縫工筋”、縫工筋を上へ引っ張ることで骨盤を安定させ腿を回しやすくします。

 これらは見ての通り、とても細い筋肉ですので大きな力を入れることは中々出来ません。反応も比較的遅く、意識して動かすことが難しい筋肉です。しかし、上記の大きい筋肉群が瞬時に大きな力を発揮する能力と比べて、これらの小さい筋肉群は状態を維持し続けることが得意です。脚を細く保ちしなやかに動かす為には、細い筋肉群でターンアウトを持続させることが大切なのです。太い筋肉と細い筋肉をバランスよく使いましょう。


【腓骨筋】
左の図は膝上外側側面から足の小指側面につながる“腓骨筋”です。以前は腓骨筋もターンアウトで使うように言われていましたが、小指側を強く押して腓骨筋を緊張させると下肢の外側に不要な緊張が加わり続け脚の形が悪くなる事が解って来ましたので、最近はポジションでのターンアウトではあまり意識はしません。但し“フィッシュ”と呼ばれる、踵を前へ出し足を外転させる(足首を外へ捻る)動きをする為には腓骨筋も意識して使えるようになる必要があります。但し“フィッシュ”で使う時もほどほどの力で使わないと下肢の形に影響するので、初級者さんでは腓骨筋はまだ意識しない方が良いと思われます。足首は真っ直ぐに伸ばしましょう。


 お尻を締めて一生懸命強い力でターンアウトをしているのは大きな筋肉群を使っている証拠。それよりも、骨盤を引き上げ(押し上げ)お尻下を集めて脚の骨を長く長く保つ意識で脚を少しづつ回すことで細い筋肉は使われるようになります。ターンアウトは小さい力で行うのです。バレエ全般について言えることですが、バレエは力んで踊らないこと。理にかなって踊ることで軽く美しく見えるのです。

※ 〈付け根ポイント〉
ハムストリングの最上部は骨盤の“座骨”に結合しています。その結合している部分(左の図のピンクの輪の部分)をこのサイトでは「付け根ポイント」と呼んでいます。付け根ポイントは座骨のことを指しますが、骨盤の下側にあり、内側・外側、両方のハムストリングを引き上げる時に意識する大変重要なポイントです。
足裏から頭上までを貫く“芯”が通る所であり、ポアントで片脚立ちする際にはシューズのプラットフォーム(爪先の平らな部分)の上にこの付け根ポイントが垂直に乗る状態が理想となります。


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<感覚を感じてみる>
 では、自分がどちらの力でターンアウトを行っているのか感じてみましょう。
まず第1ポジションで立ってお尻と太腿を強く緊張させて下さい。手でお尻のをつかんでみて、この感覚をよく覚えていて下さいね。
次に、尾骨を床に向けて(あるいは下腹前面の三角を垂直に立てて)骨盤を垂直に立てます。お尻と大腿の緊張を抜いて、お尻の下側深部だけを中央へ寄せるようにしてみましょう。手で握ってお尻上部の筋肉が緊張していない事を確かめます。そのままお尻を手で握ったままドゥミ・プリエをして、次に付け根ポイント(座骨)を引き上げ、脚裏のハムストリングを寄せるようにして1番ポジションへ戻ります。お尻上部の筋肉は緩めたまま行います。

この2つの違いを手でも感じられましたか? 実はお尻の力を抜いて動くというのは大変難しい技術なんです。お尻の力を完全に抜いてしまってはちゃんと立つ事も動く事も出来なくなりますし。しかし手で掴んでみるとお尻の状態がよく解ります。お尻の力は完全に抜く事はありませんが、お尻の上部の違いを感じることができれば、正しい方法でプリエをする訓練へつなげることが出来ると思います。


 大人のターンアウトの訓練は気が遠くなるほど時間が掛ります。また時間を掛けなければなりません。しかし、その時出来る無理のない角度で脚を使うことが、重心を安定させ、ジャンプを高くし、今の自分の100%の力を引き出します。見た目の美しさも大切ですが、私達は素人です。長くバレエを楽しむ為にも我慢して正しい使い方をしましょう。


<バーでの訓練>
 ターンアウトの訓練はバーでのプリエタンデュロン・ド・ジャンブがとても効果があります。特にロン・ド・ジャンブは可動域を広げる効果が高く、ア・テール、アン・レール、高さ90度、ク・ドゥ・ピエからのグラン・ロンデ(脚を高く廻すグラン・ロン・ド・ジャンブ・ジュテ)と、それぞれの段階の脚の高さで繰り返し行って下さい。大切なことは股関節のソケットの中で大腿の球(大腿骨頭)を十分に動かせるようにすることです。
また、ターンアウトを維持する時に使う筋肉は、やはりバーでのプチ・バットマンが効果があります。特にク・ド・ピエの位置で行うプチ・バットマン(プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ)では、正確に行えば深い深層外旋六筋を感じることが出来ます。丁寧に練習して下さい。

最後に、バーでは一生懸命ターンアウトをしてもセンターではつい忘れがちに。しかしターンアウトもプリエも、センターで意識した方がより実力アップにつながります!皆さんの使いやすい正しいターンアウトを見つけて下さい。

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