脚を高く上げる −横−


★ 横へ脚を上げる[グラン・スゴンド(グラスゴンド)] ★ ―――― 

 脚を3方向に上げる中で、一番各個人の骨格が影響するのが横のアラスゴンドに上げる場合だと思います。横へ脚を高く上げる為にはターンアウトが必須であるということは、バレエを学ぶ者にはほぼ常識のお話ですね。パラレルの時よりもターンアウトをした方が腿の大腿骨のでっぱり(大転子)が骨盤の骨に当たらなくなる為、脚が横に上がる角度が高くなります。大腿骨が廻る(外旋する)角度は、骨格によって大きく変わります。もちろん大腿骨がよく廻るからと言って必ずターンアウトが180度開ける訳ではありませんが、骨盤に対して大腿骨が大きい角度で廻る(開く)事は、脚を高い位置に上げた時にバランスを取りやすい姿勢を造ることが出来る為、とても有利に働きます。
 ではターンアウトが180度開かなければ、横に高く脚を上げるグラスゴンドは出来ないのでしょうか?そんなことは無いと思います。世界中のプリマ・バレリーナのうち、本当に完璧に股関節が開く(大腿骨が廻る)人はごくわずかです。すべてのプリマが、シルヴィ・ギエムさんや上野水香さんのような骨格を持っている訳ではありません。しかし、例えばジゼル第2幕の美しいグラスゴンドは世界中のプリマが美しくやってみせます。そう、角度の度合こそありますが誰でも努力次第でジゼルのアラスゴンドは上げる事が出来るのです。

<骨盤の傾き>


 上の図は、横に脚を上げた時の骨盤のイメージです。ピンクの部分が骨盤、水色の部分は背骨を表しています。脚を前後に上げる時は骨盤は後ろや前へ傾斜させましたが、横に脚を上げる時は骨盤は横に傾斜をさせます。左図のように脚が低い位置にある時はまだ骨盤は傾きませんが、右図のように脚の高さが上がるに従って次第に骨盤は横に傾斜して行きます。
骨盤を横に傾斜させるとそのままでは必然的に上体も傾きますが、基本のアン・ファス(正面)を向いたスタイルでは肩と肋骨は出来るだけ水平を保てるように、腰椎と胸椎(ウエストとみぞおち)で長いカーブ(上・右図の赤い矢印)を作り、肩の水平を実現させます。バランスを取る為に背骨は土踏まず真上の垂直ラインから爪先寄りへずれて行きますが、この背骨が垂直ライン(上・右図の黄緑の点線)から出来るだけ大きく外れないようにすることが、形を美しく見せるコツです。
アラスゴンドが苦手な方は、この骨盤の傾け方があまり良くないように見受けられます。上手に骨盤を傾ける為には股関節と骨盤周りを柔らかくしなくてはなりません。まず横開脚などのストレッチをして、水平垂直な骨盤に対してターンアウトした脚が横方向に可動域いっぱいまで開くようにしましょう。上半身を横に倒すストレッチもして下さい。(正確に)手で支えて上がる角度までは脚は必ず上がるはずです。
(※ 横開脚のストレッチは一時的に内腿の筋肉を弱くすることがありますので、横開脚の強めのストレッチはレッスン後あるいは夜の就寝前などに行って下さい。)

 次に骨盤の傾け方です。バランスを取る為には、なるべく傾けた骨盤を軸脚の真上に置く事が理想です。しかし股関節や腰周り全体が固いと傾けた骨盤は動脚側へ引っ張られ軸脚の真上に乗らない状態になります。骨格的に骨盤を軸脚の真上に正確に置けなくても、小さなズレなら構いません。しかし大きく軸脚上からそれた位置に骨盤が行ってしまうならバランスが取れずに誤った筋肉を使うことになり、その高さに脚を上げる事はまだ無理だという事です。脚を太くしない為にも、舞台の上でどうしても必要な時以外は我慢して正確な位置で上げるように心がけましょう。
ここで、動脚につられずにしっかりと床に立つ為には強靭な軸脚が必要となります。まずは軸脚をしっかりターンアウトさせる為に、骨盤を軸脚から離すように浮かせます(詳細は「脚は関節から抜く」を参照)。軸脚の上に座り込むように腰で軸脚を上から押してはいけません。軸脚の付け根に円形のリング(左図:赤い輪)のようなものがはまっていると考え、軸脚側のそのリングは水平を保つように軸脚側の腰骨を上へ引き上げます(左図:青い矢印)。



 床でのポジションの時は両脚付け根の付け根ポイント(座骨)を寄せて締めていますが、脚を上げるにつれ次第に力を抜いて下さい、付け根ポイントや(骨盤底筋など)お尻を締めたままでは脚は高く上がりません。お尻の筋肉は深い部分を使いますが、あまり意識をしなくて大丈夫です。お尻の力より下腹(腸腰筋)の力で脚をキープしましょう!

 また、脚の起動時の足裏の利用ターンアウトは前後の時と同じように神経を使って行います。足裏にはスケートの刃が付いているように爪先の方向へ一直線に軽く床を押しながら足裏を滑らせて下さい。

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<骨盤の分離>
 前項で前後に脚を上げる時、骨盤を2枚の板のようにイメージしましたが、今度はその板を身体の正面から見て下図のように分離させてイメージして下さい。(実際の身体の構造ではなく、あくまでも自分の感覚としてのイメージです。)
1番や5番ポジションで立った時は下の図@のように2枚が横に並んでいますが、脚を高く上げた時は図Aのように軸脚側の板は水平、上げた脚側の板だけ傾けて行きます。
「骨盤の板は両側とも床と垂直を保ちながら、パカリと2枚を割る(離す)、軸脚側の板は水平に、動脚側の板はもう片方の板と離すように傾ける」、そんな感覚です。(実際の骨盤は上図のように全体が傾きます。)

   <正面から見た、骨盤の2枚の板の感覚(グレーの部分は軸脚の位置)>

図@ ポジション時

図A 脚を高く上げた時

 下図の3枚は誤った感覚です。

軸脚に骨盤が寄っている

動脚に骨盤が引きずられている

2枚の板とも傾いている
(感覚として間違っている)

 一番大切なことは軸脚から頭までの“芯”を保ち、腸腰筋を伸ばして、骨盤を絶対に前や後へ倒さず垂直を保つ事です。脚は必ずしも真横でなくても構いません。
一生懸命に脚を上げようとするあまり、骨盤が大きく前に倒れてしまう方が大変多いです。床が水平な日本のお稽古場では骨盤を傾ける必要はありません。尾骨は下へ向けて下さい。きちんと上がった脚は、一番高い位置では床の上にある時より更にターンアウトされているはずで、踵は必ず爪先より前に出ているか、真横の同じライン上に並びます。踵が爪先より後ろになってしまうなら、その高さは無理に上げていることとなり、大腿四頭筋などの違う筋肉で脚を上げていることになります。また、骨盤が後ろに倒れ腰が後ろに落ちた状態で脚を上げた時は逆に踵が爪先より前になり過ぎます。この状態になっていると軸足のルルベは出来ませんので、軸足がルルベできるかどうか確認してみましょう。正確な位置に脚が上がっているならば、軸足のルルベはすんなりと行えます。
そして脚は骨を遠くへ伸ばしながら上げ、「脚を高く上げたいと思ったら身体を上へ伸ばす」も忘れずに行って下さいね。

 エカルテ・ドゥ・バンやエカルテ・デリエールでは肩を水平から傾けますが、基本はあくまでも胸から上を傾ける感覚です。一緒に肋骨も傾きますが、肋骨の一番下の骨はあまり傾けないイメージで形を造ります。“芯”(ピンクの矢印)は天へ伸ばし、軸脚側の脇の下、あるいは軸脚側の肩甲骨の下には床までのつっかえ棒(赤い線)があり、その棒を縮めずに軽く上から抑えるような感覚で軸脚側を支えます。

(追記 2015.03.30)
※ エカルテ・ドゥ・バンでは身体全体を斜めの方向へ向けますが、身体が正面に対して開き過ぎになる傾向があります。上げた腕側の脇を少し前へ出す様に意識して上げた腕側の背中(肩甲骨)で脚を上げるような、そんな意識で上げると美しく上げることができます。但し腰は正確な角度を保ち、脇につられて片側だけ前に出し過ぎないように!上げた腕は上げた脚よりわずかに前になるような感覚です。(胸だけわずかに捻る感じで)



<“芯”(軸)の位置> (追記 2014.06.19)
 下記の図は、かなり脚が高く上がる日本人のプロの方の身体のラインです。少し斜め前から撮った写真を図にしていますので正確ではありませんが、イメージを読み取って下さい。脚の高さや上半身の傾斜、個人の骨格によって“芯”(軸)の位置は多少変わりますが、意識して頂きたい点を記述します。


左と中央の図は、ア・テールで両脇が水平なアラスゴンドの図です。頭部(首)が土踏まず(爪先寄り)の真上になっていることに注目して下さい。(黄緑の点線) 
また、脚の高さによって骨盤の傾きが変わり、“芯”(軸)の位置も脚の高さが上がるに従ってごくわずかに爪先寄りに移動します。

右の図は“エカルテ・ドゥバン”の形です。脇を傾ける為、背骨(首)の位置が軸の垂直(水色の点線)から少しズレています。更にポアントで立つ為に“付け根ポイント”を爪先の真上まで移動させていて、そのラインが“芯”(軸)の土台となっています。“芯”はなるべく垂直で直線であることが理想ですが、中々そんな訳にはいきません。「・背骨から天へ抜ける力」のページにも詳しく書いていますが、“芯”は身体をコントロールする為のエネルギーの通り道で、そのラインを通って地と天を押し続けることで身体のバランスを保ちます。

このように、脚の高さや、ア・テールとポアントの違いなどから、骨盤の傾斜角度や“芯”の位置が変わります。また骨盤の傾斜角度や位置も個人の骨格によって左右されますので、上記の図の形が絶対ではありません。最近は高く脚を上げることが求められる時代ですが、本当に大切な事は四方に良く伸びた身体で、無理のない形を保つことです。 年令が上がってくれば自然と脚は上がらなくなって行きます。その時に自分がどのように動くかによって長くバレエを続けられるかどうか道が分かれます。努力は大切ですが、無理のない動きで故障のないバレエ人生を過ごして下さい。

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※ <脚を上げる方向>(脚の位置を譲る)
 ここで記述する内容は指導する先生によって考え方が様々です。「このような考え方もある」と、とらえて読んで下さい。
 脚を上げる位置は、前後なら上げた脚の爪先が軸足の土踏まずの真正面か真後ろ、横は体の真横が基本であり理想です。しかし充分なターンアウトもままならず関節も筋肉も柔軟性が乏しくなって来た中年以上の人間には、正確な位置で脚を高く上げる事が難しくなって来ます。無理に正しい位置に上げる為にターンアウトがおろそかになったり、あまりにも高さを犠牲にするようなら、脚を上げる位置を少し譲って、きちんとターンアウトされた美しいラインの脚を見せる方が良い、という考え方があります。大きく位置をずらしてはいけませんが、前後なら上げた脚の爪先を軸足の踵の前か後ろ辺り(1番タンジュの位置)、横ならば真横ではなく上げた脚の踵が爪先より後ろにならないギリギリの所まで上げる脚の方向を前にずらします。この方が無理なく上げた脚の美しいラインが出せるはずです。
但し、これから身体を造る児童にはこのような指導は行いません。正しい位置に上げることで股関節が廻って行くようになるからです。しかし中高年の方や成長期が終わってからバレエを始めた方には同じ要領で訓練をしても中々正確な形にならず、反って悪い影響を及ぼしてしまう事が多い気もします。これは先生によって意見の分かれるところではありますので、ご自分の先生の考え方に基づいてレッスンをして下さい。

※ <生まれつき脚が高く上がる方へ>
 生まれつき軽々と脚が肩や頭の上まで上がる人は少なくない数います。最近の若い人は骨格が欧米人化していますので増えてきたようにも思えます。私もこの体質の体で生まれて来ました。この体質の人は苦労せずに脚が開いてしまう為、さまざまな弊害を抱えることも多いものです。
まず、前や横では角度的に脚が骨盤の上に乗ってしまうため深筋が鍛えられず、中途半端な高さでの脚のキープが難しくなります。児童に多い現象ですが、勢いよく上げれば上がるのにゆっくり上げるとヨロついたりします。後ろでは、前のページでも書きましたが腰を2つ折りにして脚を上げる為、軟骨に負担が掛り腰を痛め易くなります。脚が上がり過ぎてしまう為に体勢を変える時により難しくなったりもします。これらの自分の“弱点”をよく理解して丁寧な脚上げを心がけましょう!

 まずは肋骨と骨盤を離すように胴体を良く伸ばす事です。腸腰筋(下腹)を長く伸ばす様に力を入れ、僧帽筋や肩甲骨を下ろして“芯”を天へ伸ばしながら、呼吸は止めず、少しゆっくりめに骨を遠くへ引っ張りながら脚の上げ下げを行います。ターンアウトは忘れずに!デベロッペではなくバットマン(膝を伸ばした状態)で上げ下げを数回繰り返しましょう。最高位まで脚が上がらなくても構いません。横の場合、上体は脚の高さに従って軸足側へ移動しますが、あまり大きくブレないようにコントロールして下さい。どの筋肉を使っているかを感じながら、外腿が疲れて来たら止めて下さい。沢山行い過ぎると逆効果になります。繰り返しますが、 脚は下げる(閉じる)時こそがターンアウトの訓練のチャンスです。ゆっくり空気を押す様に下ろして下さい。また上げた足の甲が緩んでいると脚の骨を遠くへ伸ばせません。甲は土踏まず側から甲側へ突き上げるように使って伸ばしましょう。この訓練で大分筋肉は鍛えられるはずです。

<腕の位置>
 腕を2番のアラスゴンドに広げて脚を横へ上げて行くと、どうしても腕が脚の邪魔になって来ます。腕の肘より先は真横よりわずかに前に置きますが、それでも脚の高さが肘より高くなると邪魔になってしなう事は防げません。ロシアやヨーロッパでは舞台の傾斜に合わせて骨盤を前傾させていましたので(現在も)、それに合わせて上半身は前へ出ています。その為脚を腕の後ろに上げる事が問題なく出来ました。しかし骨盤と芯を垂直に立たせようとすると、(重心は前寄りに取ってはいますが)、脚は腕の後ろには出来ません。
これは正直、矛盾してしまう問題なのですが、バレエの基本ではアラスゴンドの脚は腕の後ろに上げるという決まりがある以上、脚は腕の後ろに上げなければなりません。その為、骨盤の垂直は出来るだけ譲らず(腸腰筋をしっかりと引き上げて)、肋骨から上を立てたままでわずかに前へ出す要領で、脚をアラスゴンドに上げます。もちろん骨盤の傾斜は多少伴いますが腸腰筋を引き上げる事によって大きな傾斜を防ぐことが出来、腕が脚の邪魔にならない位置まで肋骨から上を前へ移動させる事が出来るはずです。この問題にはこの方法で対処するしか仕方ありません。実際に踊る時は脚側の腕は上へ上げることが多いので、この問題は頻繁には発生しないはずです。尚、脚が低い位置にある場合にはこのような事は行わず、肋骨から上はなるべく骨盤の上(実際には骨盤真上よりわずかに前寄り)に置きます。但し、脚が真横に上がる人ばかりではありません。角度を譲って少し前寄りの角度に脚を上げる場合は、腕を広げる角度を少しせばめて行って下さい。

<アラスゴンドは前へ攻める!>
 これはアラスゴンドで脚を上げる時、特に舞台上でアンファスで上げる時に強く現れる(感じる?)現象なのですが、お尻が重い分、重心が後ろに引きずられることが多くあります。その対策として、重心は特に意識して前側に置くようにしてアラスゴンドを作りましょう。身体の“芯”は垂直に保ったまま、“芯”を天へ伸ばしながら、わずかに身体の正面へ向かってスライドして立つ感じです。但し、前かがみにならないように気を付けて下さい。腸腰筋の引き上げは絶対に忘れずに!

 以上から「脚を高く上げる」ためのコツはイメージが湧きましたか?沢山の注意する事があり一度に全ては行えませんよね。レッスンのたびに1つ1つ、少しづつ習慣にしていけば必ず出来るようになります。これらの注意はバレエに慣れたほとんどの方は無意識に行っていることなのです。しかし逆に真面目な生徒さんに限って、先生の目安とするアドバイスを強く守り過ぎ「骨盤はこうでなければ」と構造的に無理な方向で違う筋肉を使いがちです。クラシック・バレエでは体の構造的に軽やかに動けないような動作は殆どありません。 一番大切なのは、基本を守って軽やかに脚を上げること!全身を伸びやかに使って軽々と脚を上げて下さい。

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