背骨から天へ抜ける力


 この項までの様々な所で、「重心を上へ移動させる」「引き上げる、押し上げる」という意識を 述べてきました。その力はまさに、身体の中を突き抜けて行く、あるいは風のように通り抜けて行く という感覚=エネルギーです。このエネルギーは必ず床から始まり、 枝葉のように所々で手や足などに分流はしますが、殆どが中心となる“芯”を通って頭のてっぺんから 天へ抜けて行きます。その経路は
「土踏まず→付け根ポイント→ビキニ筋(丹田)→腰筋の深部→背骨→首→頭」
の道筋で1本になり、ほぼ背骨のラインと重なります。
理想はそのラインが床に対して垂直になっている状態ですが、ポジションで直立している以外は そうそう垂直に出来るものでもありません。そのため、その1本の“芯”は直線ではなく、 強い針金のような曲線で作るしかありません。 針金の通るポイントは上記と同じ、大切なことはその針金をなるべく必要以上に大きく曲げないことです。



 上の一番右のアラベスクの図を見て下さい。“芯”の針金(水色の矢印) は大きく湾曲しています。しかし、要所のポイントを 通過していることと、エネルギーが頭の上から天へ向けて抜けて行くことは守っています。 例えアラベスクでパンシェをして上体が大きく床へ向けて傾いても、胸から上は必ず上へ向かって 起こしていますので、一番太いエネルギーはやはり頭の上から天へ抜けることとなります。 時々、胸を大きく反らせたり前屈したりして頭上が天へ向いていない時があります。この場合は胸や腰など 天井に一番近い、向かいやすい部分からエネルギーを天へ向かって放出します。 どのような体勢を取っていても床からのエネルギーは必ず天へ向わせる事が大切です。

 
 左は脊柱の図です。レッスンでよく使われる脊柱の部分を表す解剖学の言葉として、上から「頸椎(けいつい)」「胸椎(きょうつい)」「腰椎(ようつい)」「仙骨(せんこつ)」「尾骨(びこつ)」という言葉を使います。バレエではこのS字の脊柱がなるべく直線になるよう上下に伸ばします。
図から見て判るように、実際の背骨の中心は背中の表面より大分深い所にあります。指で背中表面から背骨を触れる所は、背骨の出っ張った部分で中心ではありません。


 ここで、背骨の中心は空洞と考えて“芯”の針金は筒状になっていると思って下さい。 床からのエネルギーは背中の深い所にある、その背骨の空洞を通して頭上から天へ抜きます。
「天へ抜く」と表現したのは、その力が100%MAXの力で上下に引っ張る、「突っ張った」状態であってはいけないからです。 バレエで使う力とは必ずほんの少し余力を残した力でなくてはなりません。「突っ張った」状態の 身体では次の動きへ素早く移る事ができないのです。また時には下半身でバランスを取りながら 上半身は動かさなければならない踊りもあります。


僧帽筋・肩甲骨をきちんと下ろし、“芯”の針金を整えて、床からのエネルギーを天へ抜く。 常に心がけて実践してみて下さい。

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