頭部は胸から始まる(エポールマンについて)


 バレエの美を構成する3大要素、
「エポールマン」「ポールドブラ」「アンドゥオール」
この中で感情やイメージを番一伝達するツールが「エポールマン」です。しかし「エポールマン」ほど 「教える」「教わる」ということが難しいものもありません。「エポールマン」こそ“個性”であり “芸術”を表現するものだからです。“個性”や“芸術”は人から教われるものではありません。 但しバレエとしてのセオリーはありますので、ここではその最低限のセオリーに基づいて少しだけ ご説明させて頂きますね。

そもそも「エポールマン」とはなんでしょうか?大意的には身体の向きや首の方向のことを言います。 「クロワゼ」「エファセ」「アンファス」と主に3種類の身体の向きがあります。それに首の向きや角度が無限に組み合わさってその時のポーズが決まります。例えば「右足前5番クロワゼ」と言われれば、基本として私達は身体全体を左45度に向け、胸部を少しだけ正面へ捻じり、顔も正面へ向けます。しかしここへ「スパニッシュのテイストでイキに!」と言われたら、左肩を少し引いてアゴを少しだけ上へ傾けたりします。「村娘のテイストで可愛らしく!」と言われたら、上半身を少し前傾させ顔を更に右へ捻じるかも知れません。どちらもイメージが身についていれば頭・胸・肩が一緒に動きます。どのようにしたらこの胸部から上を美しく見せる事ができるのでしょう。

まず基本として、アンファスで顔を正面に向けた状態を考えます。

 
僧帽筋と肩甲骨を下します。イメージとして両耳を1本の棒が水平に貫いていると考えて下さい()。その棒の両端をそれぞれ手で後ろから握るとします。 まず棒をそのまま上へ上げると首が長く伸びると思います(緑の垂直線)。そして棒を前方へほんの少しだけ回転させる(赤の矢印)と首の後ろ側が伸びて(青の矢印)アゴを自然に引くことができます。この状態が顔の一番の基本位置です。
左の図は首の筋肉の図です。緑の部分は「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)」と言って、首の前面についている筋肉で鎖骨と繋がっています。オレンジの部分は「肩甲挙筋(けんこうきょきん)」と言って、首の裏側にあり下は肩甲骨まで繋がっています。「肩甲挙筋」は僧帽筋や肩甲骨を下すことによって長く伸ばすことができます。どちらの筋肉も頭部を安定させる大切な筋肉で、長く保つことで首の美しいラインを造り出します。


 顔の動きは必ずバストポイント(アンダーバストの中央、みぞおちの辺りで身体の深部、“芯”の通るライン上にあると考えて下さい)から始まります。「見る」という動作はバストポイントで見ると言っても過言ではありません。クラシック・バレエでは首から上だけ動くという事は殆どないことなのです。
「のぞく」時も「反る」時も、顔はバストポイントから頭上まで長く長く大きなカーブを作るように、更に首の後ろも長く伸ばすように作ります。これが頭部の垂直方向の角度の基本となります。水平方向の角度は様々ですが、正面に対して頬の横をどう見せるかを意識して動かすとキレイなラインになりやすいようです。




次は胸部の作り方です。まずは必ず僧帽筋・肩甲骨を下します。胸部の鎖骨下からアンダーバストにかけて乳房の下(裏)には“大胸筋”という大きな筋肉があります(上右図:ピンクの部分)。その大胸筋を真横へ引っ張ります。この引っ張りはピルエットなど回転をする時に身体を安定させる大切な力となりますので、8割程度の力で常に引っ張り続けている習慣を身に付けて下さい。

また、鏡に向かって身体を真横に向けた時、肩甲骨の盛り上がりがどの程度背中から出っ張って見えるかには個人差があるのですが、バレエではあまり出ていない方が美しいとされています。“芯”が垂直に立ち僧帽筋を下ろして胸筋が真横に引かれているならば、肩甲骨の位置はほぼ正しい位置に収まります。更に堂々としたエッセンスを加えたいならば、上図中央の絵にある赤い矢印の様に肩の端を後ろに向けてほんの少しだけ回転させてみて下さい。少しだけ肩甲骨が背中の中に入ります。この時、肩甲骨を強く背中に押し込むと大胸筋が上へ上がってしまいますので、ほんの少しだけ回すようにします。但し、それに逆らって上腕は前側方向へ回転させなければなりません(※下記追記を参照)ので、おのずと回転させられる範囲はごくわずかになるはずです。あとは脇の位置を意識することで胸部の方向や角度を調節します。

<追記 2017.04.10>
(上記の記述に「上図中央の絵にある赤い矢印の様に肩の端を後ろに向けてほんの少しだけ回転させてみて下さい。〜それに逆らって上腕は前側方向へ回転させなければなりません 」という記述がありますが、正確には上腕を前側(内側)方向へ回すのは主に腕を横のアラスゴンドにした時で、この時は肘も少し内側へ回し手首は少し外側へ回します。そして腕を前にしたアン・ナヴァンでは逆に上腕を外側へ回し肘は内側で手首は外側、腕を下したアン・バーでは上腕はわずかに内側へ肘から手首までは外側へ廻します。
非常にややこしいですね。実際にはアラスゴンドの時の腕の使い方をまず覚えて、そこから肩と脇や肘下等の使い方等を意識して形を作ると自然と上記の回し方になります。脇の使い方やアン・ナヴァンの詳しい作り方についてはこちらの「わきをしめるってどういうこと?」を参照して下さい。<追記 終了>


このように首・肩・胸部・脇とさまざまなポイントを連動させて美しいエポールマンは作られます。初級者でありがちな誤りは、胸から上だけを動かすべきエポールマンを、体全体、あるいは腰の方向も伴って動かしてしまう事です。また顔を横へ向ける際(特に後ろへ反る場合に)首の後ろ側を縮めてしまっていませんか? 例外はありますが、バレエで表現を付ける為に動かすのはあくまで胸部から上であることを忘れないで下さい。顔をどのような方向に向けるにしても首の後ろは限界まで伸ばし、胸からの頭上までの緩やかなカーブラインを造ります。(首を折らない!)

また、ポーズを作る時、舞台正面から見えているのは身体の前面ですが、背中をいかに美しく見せるかを意識すると意外と美しいエポールマンが得られるものです。バレエでは、背中側の意識は前面と同じくらい大切です。しかしまずは先生のお手本やビデオなどでイメージを頭に入れ、実践して研究することが美しさへの第一歩です。楽しんでバレエの雰囲気を味わいましょう!


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