先頭に戻る
掲載日:2019/11/04
■ 「胃をしまう」

 未曾有の災害がこの国を襲い、多くの方が大変な苦難にさらされました。嵐は過ぎ去りましたが、未だ先の見えない苦痛に身を置いていらっしゃる方、心の平安を取り戻せない方、他様々な苦しみの渦中にいる方が沢山いらっしゃいます。また、バレエを中断せざる負えない方もいらっしゃるかも知れません。一日も早く平安な日常やレッスンに復帰できる事をお祈りしています。 無責任な事はいえませんが、人が前へ進めるのはポジティブな気持ちでいられる時です。どうか希望を失わず、進む道は多岐にわたることを信じて、頑張って頂きたいと心から願っております。

 身辺の都合で更新が遅れてしまい、いつもご覧下さっている方々(…ホントにいるの?(^^;))には大変申し訳ございません。最近の記事は私のとりとめのないおしゃべりばかりでしたので、今回は少し真面目に技術系情報の記事を書きたいと思います。

 ということで今回のテーマは「胃」。胃の位置について考えてみたいと思います。

「胃をしまいなさい!」 こんなアドバイスは受けたことがありますか?これは「横隔膜を閉じなさい」とほぼ同義語なんですが(厳密に言うと違う感覚)、とても大切なアドバイスなんです。

「胃をしまいなさい」「横隔膜を閉じなさい」「内臓を肋骨の中に入れるように」「肋骨(みぞおち)を開かない」、これらは全て胴の部分を真っ直ぐに使う為の注意です。かなり以前に「バレエ上達へのテクニック」の中で「横隔膜は背中から閉じる」という記事を書きました。みぞおちにある横隔膜を閉じるには、背中の肩甲骨より下の部分を真っ直ぐに伸ばして、アンダーバスト周りを背中側から肋骨に沿って回して閉じるという内容が書いてあります。良かったら再度読んでみて下さい。

 「胃をしまう」と何が良いのか? ・・・結論を先に言うと“腹筋が使えるようになる”という効果があります。

胴体部分の腹筋って覚えていますか?バレエでは
“腹直筋”“腹横筋”“外腹斜筋”“内腹斜筋”“腹横筋”
の4つを覚えていれば充分です。プラス下腹にある“腸腰筋”も腹筋と呼ばれていますね。

腹直筋は胴体を真っ直ぐにする力、
外・内腹斜筋は胴体を捩じったり傾けたりする力、
腹横筋は胴体をコルセットのように横から締めて支える力を発揮します。

胃をしまうことで一番使い易くなるのは胃の前に付いている“腹直筋”。腹直筋をどう使うかを考えてみましょう!

上図の腹直筋を見て下さい。胃が前に出ると、この腹直筋が湾曲して伸びている状態になります。筋肉は湾曲していても収縮すること(力を入れること)は出来ますが、一番力を発揮できるのは筋肉の形が真っ直ぐになっている時なのです。

ちょっと試してみましょうか? まず胃を前に出して胸を反らせて胃の前にある腹直筋を縮めるように力を入れてみて下さい。次に胃をしまって(胃を背骨に少し近づけるようにして)腹直筋を直線的にしてから力を入れてみて下さい。どちらの方が力が入りますか?後者の方が力が入るはずです。

腹直筋は大きな筋肉ですので力も強く、この筋肉を使わない手はありません。但し適切に使う事が大切!

「胴体を真っ直ぐにするってそんなに大切?」「先生の胴体は少し湾曲して見えるけど」など、疑問が生じるかも知れません。

胴体を真っ直ぐにするという事は、回転したりバランスを取ったりする時にとっても大切なことなんです。
先生によっては少し胸部が骨盤より前に出ているように見える使い方をされる方がいらっしゃるかも知れません。それはメソッドの違いなどにもよるようですが、よ〜く見てみるとみぞおちから上は多少反って見えるかも知れませんが、みぞおちから骨盤までは前傾していても直線的なラインを描いているはずです。(胃が前に飛び出ているような先生は骨盤も大きく前傾していると思いますよ。)

私はバレエ初級者さんにはまずは真っ直ぐ垂直なスタンス(立ち方)を奨励しています。

重心は、パラレルで立つ時は踵と土踏まずの間、1番ポジションの時は両踵の真ん中、5番ポジションでは両土踏まずの間、片脚軸のアテールでは土踏まずの上か、土踏まずの少し爪先寄り、片脚ルルベならばもちろん重心は爪先(プラットフォーム)の上(あるいは足指と足の付け根の上)となります。

話がそれましたね(^^;)、腹筋に戻しましょう。

“腹直筋”は皆さんもよくご存じですよね?例の「シックスパック」なんて呼ばれている強い筋肉です(ちゃんと鍛えられていればですが)。この腹直筋をしっかり鍛えて使う事で、胴体を真っ直ぐに強く保つ事ができます。回転やバランスではとても役に立つのですよ!

昔の先生の中には「胴体は背中側で支えるから、前側は意識しなくていい」とおっしゃる先生もいました。これは腹直筋を固めてしまって上半身が自由に動かなくなることへの注意の為でした。しかし現在ではどのダンサーもちゃんとそれなりに腹直筋が割れて鍛えれられているでしょう?(バヤデールの衣装なんて腹筋祭りですよね!)腹直筋だけで胴体を支えてはいけませんが、脇をしめたり背骨を伸ばしたりするのと一緒に上手に使って、胴体を固定して下さい。

“胴体を固定する為に腹直筋を使う”というのは、筋肉をぎゅっと縮めて使う事ではなく、適切な長さで固定することです。縮める動きは例えば後ろへ反るカンブレから戻る時などに使います。


 身体を垂直にしている時は腹直筋も垂直に立っていますが、例えば後ろへのタンデュ・デリエールやアラベスクなどの時は腹直筋は前傾します。必ずしも腹直筋を直線的に使えるばかりではありませんが、可能な限り直線的に保って利用すると上手にサポートしてくれるはずです。後ろへ反るのはなるべくみぞおちから上を反るようにして下さいね。(大きくお腹から反る場合は腹直筋は長く伸ばして使います、但し完全に力は抜かないこと。腰を痛めますからね。)

 バレエでは腹直筋より下腹の腸腰筋の方が注目され易いですが、こんな大きい筋肉は使わないと絶対に損ですから、それなりに“しなやかに”鍛えましょうね!
エクササイズの仕方はこちらでは紹介しません。とてもシンプルに鍛えられる筋肉ですから、ネットや本などで調べて下さい。 レッツ!6パック?