ポアントの立ち方1


 バレリーナを象徴する美しいサテン地のポアント・シューズ(トゥ・シューズ)、バレエを始めた人には誰しもが憧れるシューズだと思います。しかしご存知の通りポアント・シューズの先は大変に細く、踊る為にはその細い場所に全ての体重を掛けねばなりません。バレエでのバー・レッスンは全てこのポアントの上に立つ為の訓練と言っても過言ではないほどです。しかし逆に言えば、普段のレッスンで身体がキチンと造られていて、ポアントで立つ感覚を習得してしまえば、ポアントはそれほど恐れるものでもありません。バレエ上級者が普段では時々しか履いていないポアントを、踊りの練習が始まった途端に履きこなして踊れてしまうのも、普段のレッスンがポアントの為のレッスンである証拠です。もちろんポアントを自分の足の延長のように履きこなすには毎日の訓練が必要です。しかし素人の私達にとってはポアントに囚われて身体の訓練が不十分になるよりはバレエ・シューズでのレッスンも大切にしなければなりません。

 残念ながらポアントは、出来れば体重が軽くて恐れを感じない子供の内に身に着けてしまう方が上達が早いです。一度身体が覚えてしまえば思い出すのも容易ですので、大人でバレエを再開した人の方が、大人からバレエを始めた人よりはポアント・ワークの上達は早いものです。しかし感覚で身に着けて来たからこそ、自己流で立ってしまっている人が多いことも事実です。多くのバレエの先生も深く掘り下げた指導はせず、動きながら自分で調整させてしまう事が多いように思います。ここで一度「ポアントで立つ」ということをじっくり考えてみましょう。

<ポアントのサイズ>
 ポアントは足にぴったりのサイズを選ぶことが大切です。履いている内に多少伸びて来ますので、少しきつめの物をお勧めしますが足指が重なってしまったり曲がってしまうようなサイズや足裏でしっかりプリエを出来ないようなサイズは誤りです。また、ポアントで立った時に踵部分が余って踵と靴の引き紐部分の間に隙間が出来てしまうようなサイズも大き過ぎます。詰め物を使用する場合は、詰め物を着けて靴の中に隙間の出来ないサイズを選びましょう。指の長さが足りない部分にはシリコンや脱脂綿、ストッキングやタオルの生地などの好みの詰め物をします。写真は踵のゴムが付いていませんが、多くの日本人は欧米人のように踵が出ていないので、靴が脱げないように踵のゴムを付けましょう。ゴムや紐は必ず自分で縫い付けるようにします。その人によって好みが様々ですので正解はありません。例えば私はゴムや紐は中敷近くの深い所から付けています。こうすると中敷が足裏にフィットしやすく感じるからです。皆さんも色々と研究して好みの場所を探索してみて下さい。
ポアントは技術の上達や足の変化、踊りの種類によっても選ぶ靴が変化して来るものです。また試着しただけでは本当に自分に合うか実は判らず、お稽古でしばらく履いてみて判断がつくことも多いです。時々他の形の靴も使用したりして自分に合う靴と出会って下さい。

<ポアント図解>
ポアントの各部分には主に以下のような呼び方があります。
@青い線:プラットフォーム 床に接触する靴先の平らな部分。細いと回転がラクで、広いとバランスがラクになります。
Aピンクの矢印:ワイズ 靴全体の横幅の事をいいます。EやXの数で表されますが、ピンクの矢印部分だけではなく靴全体の横幅です。ピンクの矢印の部分と、踵に近い部分の横幅のバランスは靴の形によって変わります。
B水色の矢印:ヴァンプ 靴の先の部分の長さを言います。ヴァンプの長さは自分の指の長さや立ち方が影響して来ます。ドゥミ・ポアントをし易い長さの芯地が入ったヴァンプを選びましょう。
C黄色の矢印:クラウン 甲の高さのことです。外国製の靴はこのクラウンが高い物が多いです。甲の部分に隙間が出来ないようなサイズを選びましょう。
D黄緑の線:ソール 底裏に付いている板の事です。柔らかめ、固めとあります。
E紫の矢印の紐:引き紐 靴上部の周りの布が浮くのを防ぐ為にありますが、あまり影響はしません。大きく布が余るようなら靴のサイズが大き過ぎですし、引き紐のない靴もあります。しかし紐はしっかりと結びましょう。
F赤い線:シャンク 中敷の板の事です。長いフルシャンクと踵部分をカットした短い3/4シャンク等に分かれます。
Gグレ−で囲った部分:ボックス 靴先の部分全体の事をいいます。広かったり細かったり固かったり柔らかかったり、デザインも様々です。自分の足にフィットする形を選びます。


<ポアントの立ち方>(ア・テール)
 それでは、ポアントでの立ち方についてのお話をします。まずポアントでア・テールに立つ時に大切なことが2つあります。「絶対に重心を踵の上に置かないこと」と、「必ず5本の足指で床をしっかりと押していること」。当たり前の事ですが、意識から抜けることが結構あります。

 まず踵についてですが、ポアントを履いて踊る時は殆どと言って良いほど踵をしっかりと床に付けている感覚はありません。踵は少し浮いているか床に接しているだけ。ジャンプや着地、回転で強く床を押す必要がある時だけはしっかりと踵を床に押し付けますが、それ以外では重心を土踏まずか指先に置いています。脚のハムストリングを股の付け根ポイントで上に引き上げているので、重心は踵には乗らないのです。しかし踵を使っていないわけではありません。踵はきちんと上から(正確には土踏まず側斜め上方向から)下へ押しています。この下へ押す力が無いとハムストリングを伸ばして引き上げることが出来ないからです。
「踵で宙を押す力」この感覚をマスターして下さい。

<追記> 最近の指導では「踵は出来るだけしっかりと床につけて使った方が怪我が少ない」という方針があります。ポアントを履いていると踵で床をしっかりと押し難いのですが、なるべく踵は床に着けて使う事を心掛けて下さい。但し、踵の真上に重心をドンと乗せて立つような立ち方はしてはいけません。

※ 初級者の方は、自分の足首が足底に対してLの形で付いているのではなく、足首は土踏まずの真上に 逆さのTの形で付いていると想像して立ってみて下さい。重心が土踏まずの上に移動する感覚が解ると思います。

※ ポアント・シューズの中に中敷が短い“3/4シャンク”というシューズがあります。中敷が短い為に足裏の力が弱くても甲が出やすく、シャンクが足裏にフィットし易いのですが、踵が後ろに落ち、重心が後ろに下がってしまう恐れがあります。ハムストリングを引き上げ続ける訓練が出来るまでは足裏の力の訓練の為にも、私は初級者の方にはフルシャンクのポアントをお勧めします。

※「付け根ポイント」の説明は「ターンアウトは小さい力で」のページに詳しく書いています。

 足指はポアントの靴の中で必ず5本全てが床を押すことが出来なければなりません。もしア・テールで立った時にきちんと指で床を押せず、指が浮いた状態になっているならば、それは靴が足に合っていません。ポワント・ワークではア・テールからポアントに移動する時に足指を最後まで押し続ける事がとても重要なテクニックとなります!必ず5本の足指で床を押せる靴を選んで下さい。足指で床を押すことによって土踏まずは小さく押し上げられ、ハムストリングを引き上げることで更に土踏まずは強く上へ引き上げられます。土踏まずを引き上げる中心は小指側・親指側に偏らず、足の両側面の真ん中で引き上げるようにします。足指で床を押して立つということはとても重要なことなのです。
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<ポアントの立ち方>(ポアント)
 次にポアントに立った時の状態を考えてみましょう。直立で立った時の理想の形は以下の写真の通りです。


 個人の脚の形にもよりますが、理想としては足首が直線まで伸び、プラットフームの上にきちんと足首と土踏まずが乗っている状態が一番安定性の良い状態となります。プラットフォームは全面床に接着していて、小指側や親指側、前や後ろへ傾いてはいけません。

下記の図はポアントで立った時の状態ですが、一番左端が正解。真ん中2つは足首がプラットフォームに乗っておらず、一番右端は足指を握ってしまい指がきちんと伸びていない例です。



左は靴の中での足の状態です。
足の指は床に向かって真っすぐに伸ばし、赤い矢印のように軽く靴底を押しています。土踏まずは脚の付け根にある“付け根ポイント”に向かって青い矢印のように上へ引き上げます。ソールの土踏まず部分を含めた黄緑の部分全体で体重を支えられる事が理想で、足指の先は靴の中でプラットフォームから浮いているか接しているだけの状態で踊ります。(個人差や好みで指先の使い方は多少変わります。足指の力がついて来たら指先で床を押すことが出来るようになって来ますが、最初は指先で床を押すことより立てた靴先の上にきちんと足首が載っていることに注意して下さい。)
靴のボックス部分が柔らかくなり過ぎ、指先だけで体重を支えたり指が曲がってしまうようなら靴を新しくする必要があると思います。無理な状態で踊り続けると、故障や痛みで違う筋肉を使って動いてしまう結果を招くからです。



 ポアントはついバランスに気を取られ、足首から下の部分は無感覚の癖で立ちがちです。しかしこの足首から下の使い方が軸脚の強さにとても影響して来ます。きちんと意識して立つように心がけて下さい。
個人の脚の形にもよりますが、理想の安定した立ち方は、
プラットフォーム→土踏まず→足首→膝→付け根ポイント(あるいは腸腰筋:丹田)
のラインが一直線で床と垂直になることです。




(追記:足首が真っ直ぐにならない方)
 「甲は大人からでも変化する」のページでも詳しく書きましたが、骨の状態から足首が真っ直ぐにならない方がいらっしゃいます。このような方は残念ながら正確な立ち方が出来ない為にポアントで長時間立っていると足首が痛くなったり、前腿が発達してしまったりしてしまう事多いです。なるべく足首に負担を掛けないように、体重に注意すること、足指を伸ばし土踏まずをきちんと引き上げてなるべく負担を減らして下さい。趣味の範囲でしたらポアントを楽しむことも可能だと思います。

(余談:昔のトゥ・シューズ)
 今でこそ、大変足に馴染みやすい“しなる素材”で造られているポアント・シューズですが、昔はもっともっと硬い靴でサイズもメーカーも限られた中から選ばねばなりませんでした。足に合わせて靴を選ぶのではなく、靴に足を合わせたという感じです。詰め物も現在のように市販の物はありませんから、タイツやストッキングや脱脂綿などを利用して工夫をしました。足指が血だらけなんて当たり前ですから、足指はテープやバンソコだらけです。サテン地ではなくキャンバス地で、バイアステープが紐になっている練習用のポアントなんて靴もありました。丈夫なロシアのポアントが手に入るようになっても、ソールが大変厚く丸みがあるのでナイフで削ったり、シャンクは自分で切って加工しました。今の靴は本当にありがたいですね。
とても踊り易くなった靴のおかげでポアント・ワークも大分変わりました。ポアントとア・テールしかなかった立ち方に、ドゥミ・ポアントの要素が取り入れられるようになったのも靴の進化のおかげです。次の「ポアントの立ち方2」ではそのドゥミ・ポアントについてお話します。


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