[掲載日 2018/02/04]
[最終訂正 2022/08/13]

 プリエで必要な意識


 バレエにおいて一番大切な訓練はプリエタンジュの訓練です。プリエとタンジュはバレエの動きの土台であり、バレエを踊る身体を作る訓練の土台でもあります。それほどまでにこの2つについては奥が深いので文章だけで説明する事は出来ないのですが、私なりのアドバイスを書いてみました。もう一度自分の意識の再確認をしてみて下さい。尚、プリエのやり方については今更ここではあまり記述しません。レッスンでの先生のご注意をよ〜く聞いて下さいね。

 バレエのバーレッスンは基本的にはプリエから始まります。最近はタンジュやカンブレ等、脚の筋肉を動かしたり身体を伸ばしたりするエクササイズが先に組み込まれることが多くなりましたが、バーレッスンがプリエから始まることはとても理に適ったシステムです。

バーでの最初のプリエの練習で大切な事はなんだと思いますか?先生によって多少回答は異なるかも知れませんが、主に「姿勢の確認」「関節の準備」「重心と芯の位置を感じること」だと私は思います。この他にも「身体の伸び」「音楽を感じること」も加えておきましょう。つまり、バーでの最初のプリエ・レッスンとはバレエの訓練を始める準備を“整える”ことなんです。

よくプリエの最初から完璧にやろうと頑張る方がいらっしゃいます。しかし、体の準備を完全に仕上げるのはバーレッスンが終わるまでに行なえば良いのであって、最初のプリエの時に自分の最高のターンアウト、最高の引き上げ、最高の柔軟性と筋力を発揮させる必要はないのです。それよりも“ゆったりとした音楽に身をゆだね、自分の身体と対話しながら身体を少しづつ整えて行く”ことの方がずっと大切!もっと“リラックス”をしてプリエを開始しましょう。

“リラックス”と言っても全身の力を抜く事ではありません。実に様々なポイントに神経を配り、全体のバランスを整えて行きます。

 プリエは第1ポジションから始める場合と第2ポジションから始める場合とあります。どちらが正解という事はありません。日本では多くのお教室のベースとなっているロシア派での訓練が第1ポジションからプリエを始めますので、第1ポジションから始める先生が多いようです。

第1ポジションからプリエを始める理由は芯(アプロン)の感覚と両脚を閉じる感覚を感じてからレッスンを開始するという考えから。第2ポジションから始める場合は、より股関節のリラックスを先に行い、骨盤と姿勢を垂直に立たせる感覚を感じてからレッスンを行うという考え方からです。比較的、初級レベルでは第2ポジションから、レベルが上がると第1ポジションから始める先生が多いようです。訓練の浅い段階では股関節の可動域はまだ狭いでしょうし、ベテランになればレッスン前に股関節の状態は既に整えている事が常識だからだと思います。

<第2ポジション>
 ではまず第2ポジションで考えましょう。私も第2からプリエを始める方が好きなので(^m^)b。
第2ポジションでは両足の間を大体一足半くらい開けます。プリエではこの幅も大切で、狭すぎると股関節がリラックスし難くなるし、広すぎると脚の内側ライン(ハムストリング・ライン)を感じ難くなります。バーでのプリエではこの幅は守りましょう。まだターンアウトはそれほど強くしなくて大丈夫ですが、ここで感じて欲しいのは先程書いたように骨盤と姿勢の垂直ライン、そして脚の内側ラインを(ハムストリングの)付け根ポイントに向かって軽く引き上げること。時々2番ポジションで足の上にドン!と乗ってリラックスしている方がいますが、きちんと足裏で床を押して内側ラインを引き上げて(押し上げて)背骨、頭へと向わせて下さいね!この内側ラインを引き上げる力でプリエした状態から上へ戻って来ます。

上半身も固めないで、肩甲骨を下ろして腕をどこまでも遠くへ伸ばす感覚でカンブレをして下さい。一番腕が伸ばし易いポジションのはずですから。(腕は肩甲骨の下側から、あるいは背中の腰辺りから伸びている感覚で使うこと!)

第2ポジションでは骨盤が前後に傾斜し易くなります。第2ポジションのプリエはよく「せまい壁のすき間に身体を挟むように動く」と言われますので、イメージの通り、頭やお尻がすき間から出ないように心がけて行いましょう。

<第1ポジション>
 第1ポジションは第2よりターンアウトは難しくなります。第2では“骨盤と姿勢の垂直ライン”を意識しましたが、第1ではもっと細い感覚“座骨(ハムストリングの付け根ポイント)と背骨・頭をつないだ垂直線”を強く意識します。両脚内側のハムストリングを付け根ポイントで引き上げる事で強く閉じて来ます。(※正確には実際に脚を閉じる筋肉はハムストリングではなく内転筋ですが、ハムストリングを引き上げて閉じるように意識すると上手に閉じる事が出来ます。)ここでもターンアウトよりも骨盤を立てる意識や、両脚を裏側の力で閉じること優先して下さい。

自分の重心や芯が足裏のどこにあるかを強く意識してプリエを行って下さい。

<第4ポジション>
 第4のプリエは1〜5のポジションの中でも一番難しいプリエであり、故障すらも引き起こす危険性があります。無理なターンアウトはせずとても注意して行わなくてはなりません。まだターンアウトの訓練の浅い人は前後の歩幅を狭く、両足の重なりを踵側の半分だけで行うと(第3ポジションから前後に足を開いた第4のこと)、股関節が力まず、無理に重ねた時より速く開けるようになります。
第4のドゥミ・プリエは踏み切り等に使われる大切な動作です。ここでも大切なのは骨盤と背骨の垂直な意識ですが、両側の腰骨を横に並べて、自分の重心が両足の間のどこにあるかをしっかり感じてプリエをしなくてはなりません。

(※第4ポジションのグラン・プリエ)
第4のグラン・プリエは人間にはとても無理な要求をする動作です。先生の中にはドゥミ・プリエをきちんと習得していれば第4のグラン・プリエは不要と考える方もいらっしゃるほどです。実際にクラシック・バレエでは4番のグラン・プリエは踊りでは出て来ません。
注意しなくてはならない点は、グラン・プリエに降り切る時に重心のグラつきがあると膝や股関節に負担を掛けますし、下で思いっきりターンアウトした状態からそのまま上がって来ますと、股関節がかなりゆるい人で無い場合は股関節・膝・足首が強く捻じれる恐れがあります。私は第4のグランプリエでは大人素人は少しゆるめのターンアウトで行う方が良いと考えています。骨盤を傾けず同じ角度で膝を開くことの方が大切です。それでも全く問題は生じませんので。それよりも無理に膝を開いて骨盤が傾斜する方が余程悪い問題を引き起こします!

<第5ポジション>
 第5ポジションはポジションの中で一番ターンアウトが大きく、また両脚をクロスしているので脚を閉じる内転筋の力も一番強く必要となって来ます。無理なターンアウトで骨盤の傾斜が起こり易いですし、不必要なほどお尻の大きな筋肉(大殿筋)や前腿(大腿四頭筋)等に力が入ってしまいがちです。脚の筋肉はやはり内側のハムストリングを動かす感覚で使います。
イメージとしては身体が両足の中心で串刺しになっている感覚。串に沿って上下運動を行います。
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<全ポジション共通>
 プリエ全体で大切なことは「足首・膝・股関節の動きのバランス」「上下に反発する力」「足裏とくるぶしの感覚」「なるべく踵を床につけておくこと」です。

 「足首・膝・股関節の動きのバランス」とは足首・膝・股関節の3つの関節がスムーズに動くことです。当たり前に出来ているような気がしていますが、案外難しい動きのはずです。通常のパラレルで行えばスムーズに動くこれらの関節の連動が、ターンアウトにした途端、足首に力が入ったり、膝を捩じって折ったりと、上手く行きません。プリエでは姿勢を維持したり脚を折り曲げる為に筋肉は使いますが、力んで関節に力を入れるようなことはしません。但し関節に力は入れなくても、プリエを始めた途端にストンと落ちてしまうように力を抜く事ではないということは既にお分かりですよね?

 ストンと身体が落ちてしまわない為に「上下に反発する力」が必要になります。
「脚は関節から抜く」”、という記事にも書きましたが、脚は股関節に深く押しつけるのではなく、股関節から引っ張り出すような感覚で使う必要があります。もちろん実際には脚は股関節から抜けたりはしませんが、プリエで沈む時にもこの引き出している感覚のまま沈んで行きたいのです。膝を折って脚は沈みますが骨盤は逆に背骨を通って天へ向かわせる感じ、そんな努力が必要となります。この感覚を習得しないとセンターで動きが重くなるだけではなく、脚が太くなります!ので気を付けて。

 プリエやア・テールではまず足の裏の3点(↓赤い丸)で床を押しているか、足指を伸ばして床を押しているか(緑の矢印)、土踏まずの真ん中を引き上げているか(青い丸)、両くるぶしの下のライン(赤い矢印)が意識の上で長く垂直に伸びているか、という「足裏とくるぶしの感覚」がとても重要です。

「プリエをする時には膝と爪先は同じ方向に向ける」という鉄則は何度も注意されますが、この「足裏とくるぶしの感覚」を守ることによって正しい角度のターンアウトで動くことが出来るようになるのです。何故ならこれらを守って動くには、骨盤の位置と角度、ターンアウトが正常でなければ、上手に動けないはずだからです。無理なターンアウトをしていたり骨盤を傾斜させたりしていると、くるぶしの下のラインのどちらかが短くなったり( 足首が傾いたり)、3つの赤い点で均等に床を踏めなかったり、足指のどれかが浮き気味になったり、と様々な間違いが現れて来ます。実際には第4ポジションやセンターでの動きでは必ずしもこの垂直ラインを守れないこともありますが、バーレッスンではしっかり習慣として身につけましょう!特にア・テールの軸足では大切な意識です。

<2022.08.13 追記>
但し、プリエで腰が下がるに従って足裏の力は抜いて行かなくてはなりません。足裏にガチガチに力が入っているとスムーズなプリエが出来ないからです。私の感覚では徐々に足裏を広げて行くような、土踏まずを下げて行くような感覚があります。完全に脱力をすると足首が緩んでグラついてしまいますが、足裏の力のコントロールも必要なテクニックのひとつです。

 グラン・プリエで踵が上がるタイミングは個人の筋肉やアキレス腱の長さに影響されます。「なるべく踵を床につけておく」ように、自分の出来る範囲で踵を上げるタイミングはなるべく遅くするように意識しましょう。上がる時は早く踵を床につけて上がって来ること。

 筋力が弱くグラン・プリエでグラついてしまう方には、私はゆっくりと音楽をいっぱいに使ってプリエを行うことを奨励しています。ゆっくりとした速度でプリエを行うことは筋力をアップさせるだけではなく、身体に意識を向け易くなります。プリエの速度は本来は一定ではなくて、下がり始めが少し速め、深くなるにつれゆっくりで、一番下の地点では一瞬で上への動きへ切り替え、そしてゆっくり上がって最後は少し早めに脚を閉じる、こんな感じに行きと帰りと同じ速度で行います。下や上で時間を余らせないようにじっくりと行なってみましょう。大丈夫、何十回も行う訳ではないので、これくらいでは脚は太くはなりません。きちんと正確に筋肉が使われていればクラシック・バレエのレッスンで脚が太くなる事はないのです。(残念ながら私の脚は既に太いので説得力ないんですよね。行うは難し(^^;))

また、グラン・プリエは股関節を畳む大切なエクササイズではあるのですが、必ずしも一番深い位置まで腰を下ろさなくてはならない訳ではありませんし、深いグラン・プリエが出来ないからと言ってバレエが踊れない訳ではありません。人によってグラン・プリエが難しい体質の人も居ますので、深さに執着しなくても大丈夫ですからね!

 ここでの記述はプリエで必要な意識のごく一部に過ぎません。「今はここ、次回はここ!」と少しづつ身に付けて、また確認し続けて下さい。

プリエでは力まず、リラックスして身体を大きく動かすこと! ターンアウトの筋肉や体幹の引き締め等はこの後に続くタンジュやデガシェで段々と目覚めさせて行けば良いのです。一度実践してみて下さい。


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