力を抜くって難しい


 レッスン中に自分の動きに夢中になっていると、よく「力を抜いて」「そんなに力まないで!」と注意を受けることがあります。実は「力を抜く」って結構難しい技術なのです。

「力を抜いて!どんどん抜いて!」「芯以外はすべてリラックス!」なんて言われても、いざ本気で力を抜くと全身すべての力が抜けてしまう。これは、まだ筋肉が出来ていなくて、筋肉の使い方を感じられない方なら誰しも当然起こってしまう現象です。

先生方は「力を抜いて」と言っていても、ご自身は実はきちんと力を入れて動いたり立ったりしています。筋肉が出来上がっている人は無意識でも必要な筋肉を使って立っていることが出来るからです。正しく訓練されて発達した筋肉を持っている人は、力の入れ具合の調節が自由自在に出来ます。ですので、“100%の力を入れずに必要な筋肉を使うことが出来る”、“わずかな力で姿勢を維持する事が出来る”、先生方はそんな状態ですので「力を抜いて」とアドバイスをされているのです。皆さんも“バレエに必要な筋肉を、力まずに、意識せずに使うことが出来る”そんな状態を目指しましょう!

<まずは力んでも良し!>
 力を抜けるようになるためには、まずはしっかりと“細くてしなやかな良い筋肉”を身につけなくてはなりません。しかし筋肉とは力を入れないと発達しないもの。まずは筋肉を作らないと力を感じることも抜くことも出来ません。ですので、初級者さんくらいまではバーレッスンでは多少力んで動いても構いません。但し、自分が力んでいる事を感じながら筋肉に力を入れましょう。呼吸もちゃんとして下さいね!
そして力んだ後には小まめに筋肉をゆるませてリラックスさせましょう。力を入れ続け過ぎると硬い筋肉がついてしまいます。

「筋肉に力を入れる」と言っても、筋肉がついていない時点では筋肉を感じられませんよね?ですので、まずはイメージして身体を動かすことです。背骨を垂直に立てて、腰筋とビキニ筋で骨盤を立てて、丹田(腸腰筋・ビキニ筋)に力を入れて、付け根ポイント(ハムストリングの付け根付近)を引き上げて、脇の下を上げる。これだけでもかなりな力を使っているはずです。ここで大切なポイントは、背中の僧帽筋や肩甲骨は決して上へ上げないこと!これさえ守れば、バーでは上記の姿勢を強めの力で保ちながら脚を動かしてもOKです。(僧帽筋や肩甲骨の下げ方は「肩を下げるということ」を参照。)
そして筋肉ができて来たら、その筋肉を緩める感覚が判るようになるので(力を抜いても立っていられるようになるので)、そうしたら忘れずに、筋肉の力を少しづつ抜いて動くように力の入れ具合を変化させて行くのです。筋肉が出来た後までも力んで動いてはいけません。本来バーはリラックスした状態から始めて、徐々に体を造って行くエクササイズですので、筋肉を感じられるようになったらきちんと筋肉をゆるめましょう!

<力の抜き方>
 さて、バーでは少々力み気味に動いてもOKでしたが、移動の多いセンターでは柔らかい動きが要求されますので“力を抜いた”動き方が必要となります。手足も柔らかく動かしましょう。速いアレグロの時でさえ、乱暴に突っ張った手足の使い方は見苦しく見えてしまいますので余裕をもった動かし方をして下さい。また、適度に力を抜いてリラックスした状態の方がバランスは取り易くなります。

まだ筋肉が十分についていない方では、力を抜くとグラグラしたりして辛いと思いますが、やがてはしっかりと筋肉が身体を支えてくれるようになりますので、焦らずに半分〜8割の力で身体を支えるようにイメージして行ってみて下さい。
そしてある程度筋肉の力を抜く感覚がついて来た方は、まずは筋肉の2割程度の力を抜いて姿勢を保つ努力をしてみて下さい。但し、背骨周りの“芯”となる力については殆ど力は抜かずに、上へ伸び続けてエネルギーを頭の頂点から天へ抜く感じ、そんな意識を続けて下さい。

「どのように力を抜くのか?」これは各人の感覚なのでイメージでお伝えすることしか出来ないのですが、私の場合は、一言でいうと「ソフトクリームの周りだけが溶けるように、筋肉の“芯”だけ立てて周りは下ろす」そんな感覚です。例えば、背中の“芯”は引き上げますが僧帽筋は溶かして下ろす感じ、脇下の“芯”は8割引き上げますが皮膚などの“周り”は溶かして下ろす感じ、そんな感覚です。感覚は人によってそれぞれですので、自分の抜き方を開発して下さい。

先生方が時々使う「釣鐘を吊るすように」「落ちたハンカチの真ん中をつまみ上げるように」“芯”だけ引き上げて“周り”は下げるのです。

そんな感覚をイメージして、筋肉の「力を抜く」意識をしてみて下さい。
大丈夫、バレエを学ぶ方は誰もが通過して来た感覚です。意識さえしていれば皆さんも必ず「力を抜いて」踊ることが出来るようになります!

ページ先頭へ