「プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ」(クドゥピエでのプチ・バットマン)


 バーレッスンの後半に行われるプチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ(クドゥピエでのプチ・バットマン)は、バーレッスンの中でも難しい部類に入るエクササイズです。苦手な方も多いと思いますがこの動きはターンアウトに必要な深層外旋六筋や、膝下から下を速く動かすバッチュの筋力を養う大変重要なエクササイズですので、注意深く丁寧に練習して下さい。

まず言葉の意味から説明しますが、「プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ (Petit Battement Sur le Cou-de-pied)」という言葉は、“プチ”(小さく)、“バットマン”(打つ)、“スュル”(上に)、“ク”(首)、“ピエ”(足)、という単語の集まりで「足首の上で小さく打つ」という意味になります。
「前あるいは後ろのクドゥピエから始まり、膝下をわずかに真横に出し、後ろあるいは前のクドゥピエへ戻す」という動きです。

<スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ>
スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ (以後クドゥピエ)の形は下記の通りです。

(ク・ドゥ・ピエ・ドゥ・ヴァン:前のクドゥピエ)

図1

図1を横から見た図
 
図2 巻き込み型

左の図1は日本の基礎クラスではよく使われるクドゥピエの形で、爪先を足首につけて踵を離します。一般に“ロシア派”などと呼ばれますが、日本はロシア派から派生した流派の先生が多いので一般的に「クドゥピエ」と言うとこの形になります。
“カマ足”にならないようにしっかりと踵を前へ出して下さい。
 

右の図2は“巻き込みのクドゥピエ”や“足首を包んだクドゥピエ”などと呼ばれ(“ラップ・ポジション”のクドゥピエとも呼ぶらしいです)、ロシア派では前のクドゥピエとして使われる形です。こちらも大変美しいとされ身につけたい形ですが、よく訓練された脚でないと中々きちんとは出来ません。軸足の足首を動足の土踏まずで巻き込むように形を造りますが、図1の形と共に足首はしっかりと伸ばさなくてはなりませんので大変柔らかい足首関節が必要となります。


(ク・ドゥ・ピエ・デリエール:後ろのクドゥピエ)

図3

図3を横から見た図

後ろのクドゥピエは1種類しかありません。後ろは踵を足首に付けて爪先は離します。時々後ろのクドゥピエの高さが高くなる方がいますが、クドゥピエの床からの高さは前後で同じ高さにしなくてはなりません。後ろが高くなる方は膝が充分に開いていない状態の方が多いです。しっかりとターンアウトを行い、膝は充分に横に張って下さい。


<プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ>
それではプチ・バットマンでのコツですが、まずはかなり動足に振り回されますので、しっかりと軸足を作って下さい(軸足の作り方は「強い軸足をつくる」を参照)。


図4

図5

図6
膝はしっかり横に張り、付け根ポイント(座骨)付近のお尻下を中心に集めるように意識します(図4)。お尻の外側の大きな大殿筋の力は抜いて下さい。
膝を遠くへ離して、膝から上の部分は腿の下側で支えるようにして保ちます(図5:ピンクの線)。膝上の前面には板のような物があると想像して、膝上がその板より前へは行かないように固定します(図5)。
膝の下には床と水平なバーが1本あると想像して(図6:黄緑の線)、そのバーへ膝を引っかけるイメージで膝を置くと上手に固定することが出来ます。軸足が動足に引っ張られますので、軸足側の腸腰筋(あるいは腰骨)はしっかりと上へ引き上げます(図6:赤の矢印)。
膝から上の部分が固定できたら、膝から下はブラブラと少ない力で動かせる状態にしておきます。

 膝から下の動かし方は、下図のように軸足に対して鋭角に横へ出します。ロンデ・ジャンブのように円形の動きになってはいけません。また横へ動かす距離は膝を曲げたままの小さい動きで大丈夫です。膝を伸ばすほど大きく動かすのはプチ・バットマン以外の別の動きになります。
“バットマン”は“打つ”動きですから、打った拍子で外に弾くという意識で行いましょう。確実に軸足を打つように(打つ時に動足と軸足が離れていないように)気を付けて下さい。


以上が基本的な「プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ」の動き方になります。
プチ・バットマンのドゥ・ヴァン(前)は、図1と図2(巻き込み型)のどちらでも行えるようにしなくてはなりません。
図1と図2以外にも、動足の指先だけをフレックスにして床につけ、床上で動足を動かす、というチェケッティ派のプチ・バットマンもあります。

(プチ・バットマン・スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ・セレ(バッチュ))
 他にも、軸足をルルベやポアントにした状態で、前は爪先で軸足の土踏まず(あるい前のくるぶし)を速く打ち、後ろは踵で軸足の後ろのくるぶしを速く打つ、「セレ」(またはバッチュ)という動きがあります。「セレ」のコツは、前では下から土踏まずを打つように(膝から下は上下に動かします)、後ろでは軸足のくるぶしを動足の踵で後ろから打つように動かします。(後ろは膝から下は上下ではなく横に動かします)(※上下に動かすセレもあります。)
「セレ」は白鳥やシルフィードで出て来る大変優美な動きですからバーでしっかりと練習しましょう。図4のように腸腰筋や外旋六筋でしっかりと骨盤を固定出来ないと、ポアントでセレを打つことはできません。

 練習するのが憂鬱なくらいのプチバットマンですが、その訓練で得られるものは大切なものばかりです。がんばって練習しましょう!


<余談>
 時折、スュル・ル・ク・ドゥ・ピエ(クドゥピエ)のことを「クぺ(クッペ)」と表現される先生がいらっしゃいますが、正確にはクぺとは「5番ア・テールまたは5番シュス―(ルルベ)の状態から片足をスュル・ル・ク・ドゥ・ピエの形にして、再び5番の位置に戻す、あるいは5番を通って足を入れ替えてもう一方の足をスュル・ル・ク・ドゥ・ピエの形にする」という一連の動きのことを言います。すなわち“パ”の一つですね。これは軸足プリエを伴って動くこともあります。よくアンシェヌマンの中で「クッペ、クッペ」と左右の足を入れ替えたりしますよね?そんな動きです。ですので正確には「クぺで」ではなく「クぺの位置で」と言うのが正解です。
バレエの用語には方言も多いですので、そのクラスでの習慣や流儀に従って下さいね。

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