【 まずは骨盤を立てて! 】
(2020.08.13 修正)
まずどのような運動もですが、身体を動かすことの最初の基本は
「正しい姿勢」で立つことです。
バレエにおいて正しい姿勢を意識することは、一瞬たりとも忘れることが出来ない呪縛のようなもの。
しかし、この姿勢こそが私達を正しい動きへ導いてくれます。バレエの永遠のテーマでもある「アンドゥオール (ターンアウト)」と「姿勢(スタンス)」、深く追及して行きましょう!
バレエを踊る上で最も効率の悪い姿勢は、
「骨盤が寝ている!」ことだと私は思ってます。
アンドゥオールが苦手な一昔前の日本人には、無理なアンドゥオールをするために
“骨盤が前傾してしまい、
ハト胸で前腿肥大”の「なんちゃってバレリーナ」がお稽古場に沢山いました。
実は元の私もそんな一人でした。
骨盤が大きく傾斜すると、出尻になり腰を故障、重心が前寄りになり太もも前面の大腿四頭筋が発達し過ぎたり、脚裏のハムストリングを使い難くし、膝に負担が掛り膝の故障に至る、etc…という悪い事づくめへの道につながります。そんな悲劇に至らないためにも早期発見&早期修正に努めましょう!
“骨盤を床に対して垂直に保つ” 意識は、アンドゥオールを安全&正確に開いて立つ為の最優先事項です。
バレエにおいて一番大切なことは、
足の裏から頭の更に上まで、床と垂直なラインを「感覚」として身体の中に作ること
、身体の重心を中心線に集めて上に上げることです。
このラインをここでは
“芯”(アプロン)という言い方をしますが、
この“芯”をマスターすることが技術を飛躍的に伸ばす
「鍵」なのです!
但し、実際の人間の身体は平面ではありませんので、各パーツを垂直に一直線にすることなどできません。
骨盤も実際には器のような形をしており、全く傾斜の無い状態では立つ事すら出来ません。
しかしこの骨盤が大きく傾いてしまうと、この垂直ラインを切断して身体を自由に動かすことが
出来なくなってしまいます。
すなわち
「肉体の呪縛(重さ)にとらわれたまま動く」という感じになり、手足、胴体のすべてが重くなってしまうのです。
時々、「私は体型が出尻だから仕方ないわ」と諦めて努力しない方がいらっしゃるようですが
、それは単なる言い訳です。なぜなら骨盤と背骨は骨自体は接着しておらず、それらを
つなぐのはあくまで筋肉や靭帯です。「肉」である以上、変化は可能なのです。無理なアンドゥオールは止めて、
正しいストレッチ&エクササイズを根気良く続けて行けば、必ず骨盤は立って行き、
「骨盤底部の筋肉をしめる」
という感覚を感じることが出来るようになるはずです。但し、何事も急いては故障のもと。注意深くゆっくりと頑張って身体と対話しながら努力を続けましょう!
(※強固な出尻の方は下記をご一読下さい。)
<骨盤の立て方>
まず、骨盤の立て方です。これはバレエとは関係なく「お腹が出ている」と思っていらっしゃる方にも
共通して有効な方法です。
骨盤は「骨盤を立てようと」意識して立てると、逆に立て過ぎてしまったり、とても力を必要としたりして長く保ち続けることが出来ません。骨盤は
「背中の腰の上部(あるいは肋骨)を垂直に引き上げ、骨盤前面の鼠蹊部(そけいぶ)(=腸腰筋 ※ビキニ筋と私は呼んでいます)で垂直に下から支える」(あるいは腰の上部で下腹前面を上へ釣り上げて来るようにイメージする。)ことによってスムーズに正しい状態を保つことが出来ます。肥満体系でない限り、出ていたお腹もきちんと肋骨の下に収まって来るはずです。

もし解り難い場合は、
骨盤前面の両腰骨(腸骨:前腸骨棘)と恥骨を結んだ三角形を垂直に立てるように意識してみて下さい。但し、立て過ぎて恥骨部分が前に出過ぎたりする(“タックイン”状態になる)ことも多いので気をつけて下さいね。
あるいは、骨盤の最下部である
座骨や尾骨を床に向ける意識でも骨盤を立てる意識を感じることが出来ます。(座骨とは床に座った時に床と接する骨の部分で、お尻下を外側から指で押すと触ることが出来ます。下の右側の図を参照して下さい。)
但し、傾いている物を立てるには充分な
スペース(高さ)が必要です。ただ骨盤を立てるだけではなく、
腰筋(あるいは肋骨)とビキニ筋(丹田や腸腰筋)を上に引き上げて骨盤が立つスペースを作って下さい。(※特にプリエから直立に戻る時に意識して!)
骨盤が理想の位置になると座骨(付け根ポイント)が楽に上に引き上がるようになります。
お尻の殿筋部分は出ていても構いません。逆に全くお尻が出ていないのは立て過ぎのタックインの可能性が高いです。
大切なのは腰から肩甲骨下までの背中のラインが良く伸ばされて、床と垂直に近い角度で直線を描いて見えることです (メソッドやスタイルによってはラインが少しだけ前傾したりわずかなカーブを描いたりします)。
※“腰筋”は
「・腰筋を上げる」、
“ビキニ筋”は
「・ビキニ筋で支える」のページに詳細が載っています。
※ 私がこのサイトでよく使う“付け根ポイント”という造語は、部位的には“座骨”の位置になります。座骨には腿裏のハムストリングが付着しており、このポイントが内腿(=裏腿)側を引き上げる起点となります。
バレエを始めたばかりの方には「座骨」と言うより、「脚の裏側を引き上げる起点」と理解して頂く方が効果があるようなので、“付け根ポイント”と呼ぶようになりました。
左図のピンクの丸部分が「座骨=付け根ポイント」となります。付け根ポイントは片足で立った時の細い1本の“芯”が通る所、脚の内側ラインを引き上げる起点と記憶しておいて下さい。
長くなりましたが、このように意識して立てた位置が骨盤のほぼ正しい位置です。自分にとっての理想の位置は各人で微妙に違いますが、訓練によって自分にとっての「正しい」位置を確立して行って下さい。
今は意識して力を加え続けないとその位置に保てないかもしれませんが、その位置を安定させる為に
全身の筋肉が支えるようなれば、小さい力で保てるようになります。今はその位置の感覚を忘れずに覚えていて下さい。
上の図は一般人とバレリーナの骨格を横から見た図です。
背骨のS字ラインがバレリーナの方がより直線に近く、その結果骨盤の傾きがより少なくなります。
但し繰り返しますが「骨盤を垂直に立てる」というのはあくまでも意識の中でのこと。
骨盤の傾斜は人間が立つ上で必須の現象ですが、その角度、保ち方がバレエではとても大切な要素なのです。また背骨のS字も直線にはなりませんし、真っ直ぐにし過ぎてもいけません。S字のまま長く伸ばす感覚でいて下さい。
このまっすぐな姿勢ラインを手に入れる為には全身の訓練が必要になります。
しかしこのラインが踊るすべての土台なのです!どのようなプロの方でも日々これを追究しています。
自分にとっての理想的なラインを探して私達も頑張りましょう!但し背骨を突っ張り過ぎてもいけませんよ。
<余談>
昔のロシアのバレリーナに顕著にみられる印象ですが、骨盤を前傾させて胸を反らせているような姿がビデオなどで
よく見られます。これは外国の舞台の床が前に向かって傾斜している為の対策としてなされている手法であって、日本の素人には全く不要な対策です。アンドゥオール・体幹・腸腰筋の訓練が正確に出来ていないとあの姿では踊れません。私達はまずは水平な床の上に垂直に立つことを第一に考えて訓練しましょう。
<強い出尻の場合>
強い出尻のことを「腰椎前彎(ようついぜんわん)」といい、これは膝を伸ばして立った時に骨盤が大きく前傾した状態になる人のことを言います。軽度の傾斜の場合は誰にでもあるものですし、意識して直せば直りますので問題はありません。重度の場合は、例え一時的に直せても維持し続けることが困難だったり、意識しても前傾を直せない現象が起こります。このような方は、まれに遺伝や幼児期の発達の影響で「
腸腰筋が短い」可能性があります。背骨と腿の骨(大腿骨)をつなぐ腸腰筋が固かったり短かったりする為に、直立しようとすると背骨が引っ張られ前へ前傾、骨盤を立てようとすると膝が曲がるという現象が起こるのです。
腸腰筋
強い出尻は腰の骨の間を詰まらせたり、前腿(大腿四頭筋)が肥大してしまったりして、決して良い状態ではありません。根気よく腸腰筋のストレッチをして、腸腰筋を伸ばし弾力性を育てましょう! 但し無理は禁物ですよ。
(次に腸腰筋を伸ばすストレッチをご紹介しますが、無理に鼠蹊部を伸ばすと怪我をしてしまう場合があります。強い痛みを感じるほどには伸ばさないように気をつけて下さい。)
腸腰筋のストレッチを2つご紹介します。息を吐きながらゆっくり行って下さい。
うつ伏せになり左図のように片脚を立て、もう一方の脚を後ろへ伸ばして膝と足の甲を床に付けます(図では後ろの膝を伸ばしていますが、後ろの膝は曲げて床に付けた状態で行って下さい。) 立てた片脚の脛(すね:青い線)は出来るだけ床と垂直にします。最初は背中が丸くても腰が曲がっていてもかまいません。その状態で下腹や鼠蹊部(赤い線)を伸ばします。
余裕が出来たら、腰で大きなカーブを描きながら(腰は折らないように) 上体を起こしたり捩じったりしてみて下さい。
うつ伏せになり、左図の様に上体を可能な範囲で起こします。腰は折らないように大きなカーブを描きながら行って下さい。両脚を少し開き、下腹部分(赤い線)を伸ばします。
余裕が出来たら今度は上部のみぞおち付近を伸ばして行きます。肩は下げて首の後ろは伸ばして行って下さい。
腸腰筋は深い部分にある強い筋肉ですので、ストレッチには時間が掛ります。しかし地道に伸ばせは必ず伸びて行きます。バレエを踊る上で腸腰筋は要!大事に育てて行きましょう。
ほとんどの人は充分な長さの腸腰筋を持っています。骨盤を傾斜させてしまう主な原因は筋肉の弱さと意識の不足です。ご一緒にがんばりましょう!!