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掲載日:2020/09/26
■ 「正しくターンアウト!」

 「ターンアウト!」「ターンアウト!」「ターンアウト!!」 クラシック・バレエを踊る上では嫌でも常に動き続けなければならない脚の“動作”です。もうウンザリな課題ですが、やらなければ先生に叱られるし、他人を見ると自分よりずっと爪先が開いているように思えるし、自分のビデオを観ればあまりの“ウチアシ”(充分にターンアウトしていない状態)に絶望してしまいそうになるし、追及しても追及しても中々成果が得られない技術ですよね (T_T)。

「ターンアウト(アンドゥオール)は爪先を180度開くこと」と思っている人は今すぐ、“まともな”本やウェブ・サイトでターンアウトについて調べた方がいいです!今すぐ!

<ターンアウトとは?>
「ターンアウトとは?」という話を始めるとめちゃくちゃ長くなりキリがなくなるので、ごくごく限定的な言葉で表現すると、「骨盤を垂直に保ち、両脚の太腿を股関節から可能な限り外に回して膝を外側へ向ける行為」と表現したいと思います。更には「膝下と足首も少し回す」と書きたいところですが、初級者の方は後者のこの意識は持たなくていい、いえ今は持たない方が良いと思います。

ターンアウトというのは「バレエ・スタンス(姿勢)を正した上で、大腿を自分の可能な限り外側へ“回す”動作」。つまり“開く”のではなく“回す”(回し続ける)動作であることを忘れないで下さい。

<完璧なターンアウトが出来る人は少ない>
 完璧に膝をMAXまで外に向けて無理なく爪先を180度開ける人って、国籍にかかわらずあまり居ないそうです。別に欧米人だから180度開けるのではなくて、例えばワガノワバレエ学校のビデオなどでは“開ける骨格の子供が入学して、尚かつ毎日あらゆる訓練をしているから開けている”という現象に過ぎません。開けない子は最初からいないし、訓練しても開けなかった子は退学になるのでその映像には映っていないの。更には開けているようでいて実は無理をしていたり。
一方、世界的なバレエ団でも、例えば英国ロイヤル・バレエ団などのレッスン映像では180度爪先が開いていないプロ・ダンサーは沢山います。度合いにもよりますが、「爪先が180度開いていないとオーディションには受からない」という事ではない、ということですよね。

つまりターンアウトとは「正しくターンアウトさせる筋肉を使いきれているかどうか」が大切なんです。

…と、私は常々言っているのですが、それは現実。理想はやっぱり180度開いて欲しいのがターンアウト=バレエなんですよね。

<バレエでは完璧なターンアウトが理想>
 現在のバレエの技術って、根本的には“両脚が理想的に完全に開いている人が踊るための技術”なんです。完全に近く脚が開くことによって、ターンアウトの恩恵を100%得る事ができるの。ターンアウトの恩恵=“見た目の美しさ”“股関節の可動域の広がり”“バランスの安定”“無駄な筋肉をつけることなく細い脚で踊る事ができる”。これらの物を完璧に手に入れられたらどれほど楽にバレエが踊れることでしょう!

でも現実には完璧に“理想的に”開けている人はあまり居ません。
完璧に開いているように見えるダンサー達でも、“ターンアウト・コンプレックス”は持つそうだし、踊りの中で完璧に使い切り続ける事は出来ないし、常に訓練していないとどんどん閉じて来てしまうのもターンアウトの筋肉なんです。

<不充分なターンアウトの問題>
 ターンアウト(外旋)が不充分な私達は、例えばタンデュ・アラスゴンドに脚を出す時に「爪先の向いている方角に足を出しなさい」と指導されます。それが安全な動き方だから。だから少し斜め前にアラスゴンドの足を出します。でも本来は爪先は真横を向いているはずなんですから、足も真横に出るはずですよね? 横移動のグリッサードを考えてみて。斜め前に足を出したら真横には進めないでしょう?なので爪先は斜めのまま、足は横に出して移動します。

開脚(外転)についてもそう、アラスゴンドの高いデベロッペ、横開脚が完璧で背骨の動きも柔軟ならば、骨盤が垂直に立って(骨盤は横には傾きます) 上げた足の踵って爪先より前に出ます。でもそこまでの柔軟性のないダンサーは少しだけ骨盤を前傾したり横にも少し多めに傾けて脚を上げています。今は高い高さが要求されるから仕方なく。アラスゴンドってね、本来は脚を上げれば上げるほど自然と膝は後ろへ回って行くんですよ。

バレエって本来はそういう身体を持った人の芸術なんです。

う〜ん、考えて行くとターンアウトが不充分な私はどんどん悲しくなります (ToT)。

でも、もう浮上しましょう!

 完璧な身体の人間しかバレエが出来ないのならば、世界のバレエ団の数は激減します!完璧な体を持っていたって踊る才能に恵まれているとは限らないし、まずバレエを踊っているとも限らない。ならば不充分の身体でも、可能な限りの動きを手に入れて踊りましょう!というのが最近のバレエ教育です。(ロシアやフランスのトップは未だ違うかも…)

それに、素人にとっても観るだけではなく、やってみて楽しめる芸術にしないとバレエの未来は先細りになります。これ、とても大切なことですよ!

<ターンアウトの矛盾>
 バレエの教育って矛盾も多いし、バレエの技術も実はごまかしみたいなことが沢山あります。

例えば…「5番ポジションでは両膝をしっかり伸ばしなさい!」と言われたことがあります。でも完璧な5番を作ると実は前脚の膝をわずかに緩ませないと形を作ることが出来ません。殆どの人は足の横幅より膝や腿の横幅の方が広いはずだから。
最初から「前脚の膝をゆるめて5番に立ちなさい」なんて言う先生はいないし、そんな教育をしたらしっかりと両脚のしまった5番で立てなくなります。5番ポジションは、まず骨盤を立てて、“可能な限り”ターンアウトをして、“無理のない角度で”膝と足首を回して、膝のお皿を引き上げ、両腿の裏側(内腿)でしっかり締めて両脚をクロスさせる、そうすると緩んだ感覚のない両膝での5番になるんです。「膝を伸ばす」って膝のお皿を押し込んで、限界まで膝の裏側を伸ばすことではないんです。

他にも「ターンアウトの為にお尻の力を抜いて!」、お尻の力を完全に抜いたら動けませんし、ジャンプも出来ません。お尻はターンアウトの為にお尻の下側(外旋6筋)だけは力を入れ続け、それ以外は臨機応変に力をコントロールしなくてはなりません。でも少なくとも移動やジャンプの無いバーレッスンの時には、お尻の上の方の力はあまり要らないの。バーでのお尻って、ほぼ下の部分を集める事にだけ集中していれば良いし、その方が膝は回るしバランスだって安定します。

先生のおっしゃることは嘘ではない、言葉が足りないだけ。でも声掛けって、瞬時に発しなくてはならないから長い言葉での説明って難しいのも事実です。イメージ(感覚)で動きを説明することも、(人に寄りますけど)効果のある指導方法ではあります。

「ターンアウトの矛盾」は人間の脚は両側180度に開くようには進化していないのに、あたかも開いているように見せて踊らなくてはならない、という現実。ターンアウトの恩恵は沢山あるけれど、無理なターンアウトの弊害も山のようにあります!

<“無理”は自分を壊して行く>

“無理なターンアウト”

無理なターンアウトって、「膝と足首を限界以上に回して爪先を開くこと」だと私は思っています。たとえ限界まで膝を回しても膝下と足首を回さないと爪先は180度開かないし、体質的に大腿があまり回らない人もいます。



少しわかりづらいですが、左の写真は理想的な膝の角度、右の写真は無理に膝下から爪先までをねじっている写真です。違いが判りますか?右の写真は膝が前を向いているのに爪先はかなり開いてしまっているでしょう? 左の写真程に膝が開く人は少ないですが、出来れば膝は60度以上は回し、そこからプリエで膝が向く角度を限界として爪先を開きます。これが正しい1番ポジションです。5番は更に膝下から爪先を開く必要がありますが、素人は踵と爪先を完全に重ねる必要はありません。完璧に重ねなくてもバレエはちゃんと踊れますから。


…それでも180度“近く”まで爪先を開かないと美的にプロとしては通用しないのかも知れません。でもその結果としてのダンサーの下半身の障害は他のスポーツと比べてトップクラスに多くて深刻だそうです。

「プロだから無理なターンアウトをしてもいい」では決してありません。仕方なく限界を超えてまでターンアウトをして、最近ではなるべく故障をしないように皆さんエクササイズやケアを必死でやっているの。それでも怪我をする。
この部分は反張膝(しなる膝)の問題と同じくバレエ界の「闇」。

ダンサーやバレエ教師の多くは限界を超えて膝や足首を捻っています。開いているようでもしっかり見れば膝の開きが不充分な脚を沢山見ます。これは一部の人にある、成長過程で無理に下肢(膝から下)を捩じって訓練を重ねて来た結果、下肢(脛骨)が捻じれて形成されてしまった「正常ではない脚の状態」です。「脛骨外旋(けいこつがいせん)」と言うそうですが、膝に対して爪先が捻じれているので、ターンアウトをしていない時の脚の安定感は悪くなります。

「ターンアウトしていればいいんでしょ?」 ←そんな訳ないでしょ!
人間の生活ではパラレルで動いている時間の方がずっと長いし、ターンアウトしっ放しなんて百害あって一利なし! そしてこういう弊害は高齢になってから吹き出すように出て来るんです。

私の師匠や高齢の先生方で腰や脚に何の問題のない方はまずいません。

きれいにパッカリと股関節が回っていた先生でさえ、現在は人工関節です。他にも半月板が欠損していたり、腰椎がつぶれていたり、人生の殆どを通して踊ってきた先生方の現状がそうなのです。

“脛骨外旋”も問題ありますが、そうでない素人でも膝と爪先の向きが違い過ぎるターンアウトをしている人を山ほど見ます。膝や足首の靭帯のゆるい人では爪先が180度以上開いてしまっている人もいます。こちらの方がもっと最悪です。関節を保護する筋肉も不十分ですから。

「爪先と同じ方向へ膝を向けてプリエ」これはプリエでのターンアウトの基本。
ターンアウトのポジションでは膝を伸ばした状態では膝と爪先の方向は少しズレています。(初級者さんは同じ方向へ向けて立って下さいね!)しかしプリエで股関節・膝・足首を曲げることによってそれらの靭帯が緩むのでより膝が開き、膝を爪先と同じ方向へ向けてプリエすることが出来ます。そして、膝が向けないほどの方角まで爪先を開いていたら、それは膝下と足首の捻り過ぎとなるのです。

バーレッスンで見ませんか?爪先が膝より遥かに開き過ぎている人、膝が前に落ちてプリエをしたり、骨盤がタックイン(後傾)してプリエをしている人。そんな人を見つけたら、自分がそうなっていないかを真っ先に確認して下さい。一生懸命の間違った努力があなたの身体を壊さない内に!

<正しいターンアウトが自分を守る>
 努力や探求が悪い訳では決してありません。ターンアウトをする努力はやり続けなくてはなりません。しかし自分の今の身体の使い方が間違っていないかどうか、ということには常にアンテナを張って、痛い箇所が出て来たならば、そのまま放置せず、動き方を変えなくてはなりません。マッサージで一時的に楽になったとしても、何の解決にもなりませんからね。

ターンアウトが不充分でコンプレックスを持つ人が沢山います。でも忘れないで!(あえて強い言葉で書きますが)「180度完璧にターンアウトできる脚の方が正常ではない」ということを。人間の脚は180度開かなくていいんです!それが人生の最後まで楽しく過ごせる土台だから。

何度も言いますが、なるべく長くバレエを楽しんで、旅行もして、トイレにも自力で行けて、楽しく人生を終わりましょうよ。

素人の正しいターンアウトとは、「自分を守りバレエを末永く楽しめる範囲の角度で開いて筋肉を鍛えること!」だと思います。ターンアウトが不十分だから脚が太くなるのではないんです、筋肉の使い方が悪いから太くなるの。正しい筋肉の使い方を感じる為に、出来る限りの無理のないターンアウトを追及しましょう。 ちゃんと正しい意識でレッスンやエクササイズをして行けば、必要十分な程度には殆どの人がちゃんと開くようになるそうですよ!

最後に。YouTube等のネット動画サイトには沢山のターンアウトについての情報が載っています。他にも様々なバレエ情報のwebサイトが存在します。しかし多くのターンアウトについての情報は「開くこと」だけに注目していて、「安全に動くこと」や「故障した後の障害」については語っていません。お手本なのにひどいターンアウトをしている画像も沢山ありますし、そんな状態の生徒の写真を得々と載せている教師もいます。何が正しい知識なのかは、その情報を載せている人物の経歴を調べたり、必ず出来るだけ多くの情報を得て、検討して自分なりの結論を出して下さいね。プロや教師がやっているからって、必ず正しいこととは限りませんし、素人にとって(人間にとって)は良いことでないかも知れません。まどわされずに「安全な道」を進んで下さい。