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掲載日:2017/05/07
■ 私も師匠も歳を取る

 ゴールデンウィークを利用して10年以上ぶりに古巣でA師匠のレッスンを受けて来ました。A師匠は私よりお年上で大変お綺麗なエレガントな女性です。とてもフォルムにこだわりをもつ先生で、大人にもあまり妥協は許されませんでした。ターンアウトが不充分な私はいつもコンプレックスを抱えるばかり(T_T) しかし大変多彩なパを練習させて下さるので、私は殆どのパをこの先生に鍛えて頂いた感じです。

古巣に戻っても知り合いはもう数人だけ、私も含めて皆さん歳を取りました。ママさんになっていたり、還暦を迎えていらしたり、話題は身体の話ばかりです。仲間いわく「先生も丸くなったよ〜」。昔は『アラスゴンドは限界まで体の真横!』『アラベスクの踵は背中の中心!』と目標がきっちりされていましたが、『もうそろそろ妥協していいわよ』と、無理のない位置でのアラスゴンドを許して下さるようになりました。

先生はプロを育てる必要もあった方なので、プロ志望の児童を育てるに当たって目標を厳格に明示する必要がありましたし、まだ若かった私達にも自分を甘やかさない事を要求されたのです。しかし今のクラスのメンバーを見ても年齢層が上がり、先生の理想を実現できる生徒がいないという現状に、お考えを変えられたのかも知れません。児童やジュニアにはまだまだ厳しいレッスンをされているそうですが。

そんな中でもA師匠はきっちり180度ターンアウトのポジションを取られます。「生徒には正しいお手本を見せなければならない」というのが先生の信条でしたから。でも実は先生の身体はもうボロボロ。股関節も膝も骨が変形してしまっているのです。それでも脚こそ高くは上げませんが、美しい形を追求される先生の姿に、若い頃以上の美しさを感じたのは私だけではないはずです。

 はっきり言って、限界を超える先生のやり方が正しいのかどうか私には言及はできません。なぜなら私の仲間も師匠もバレエを訓練して来た殆どの人が、何らかの故障を体に抱えているからです。残念ながら“ターンアウト”という動作は人間には元来備わっていない動き方ですので、追求すればどうしても無理が出ます。骨格的に適している方でも故障が出るほどです。
しかし他のスポーツでも、例えばマラソンなどでも長く走り過ぎると必ず故障が出て来るのだそうです。理由は「人間は長く走るように作られた生き物ではないから」ということだそうです。妙に納得できますよね?
しかし何事も安全ばかりを優先出来ないのがプロの世界。ターンアウトの無いバレエでは美しさは半減どころか台無しになってしまいます。プロの世界は厳しいです。
でも素人の私達は違う。

「身体に悪いからバレエはやらない」、そんな事が可能であればとっくにバレエを止めています。それでも自分の人生の中でバレエがどれほどの恩恵を私に与えてくれたかは数えきれません。バレエは運動効果はもとより、自分を律する努力の源であり、他者と交わる場でもあり、何よりの癒しでもありました。もちろんバレエ無しの人生もあったでしょうが、バレエと一緒に人生を歩めて幸せでしたし、これからも出来るだけ長くレッスンに参加したいと思っています。その為にはどうしたら良いか?私が出した結論は「もう無理はしない」でした。

無理をしてターンアウトもしないし、無理をして連続レッスンもしない。ポアントを履いていて甲や足裏が痛くなったら早めに脱ぐ。

とても“ぬるい”、気持ちの悪いレッスンかもしれません。しかし可能な限りは追及するし、それで楽しくない訳ではありませんので。
中高年になったら「安全に、末永く」を目標としたレッスンを意識することを私は強くお勧めしたいです。

 少し話を変えますが、このA師匠はとても厳しく正しい追及をして下さるのですが、“どうしたら出来るようになるか”、はあまり教えて下さらない先生でした。
“どうしたら出来るようになるか”これは教師には物凄く難しい課題です。なぜなら生徒さん毎に問題は違いますし身体も違います。自分ではこうやれば出来るようになったのに、そのまま教えても出来ない生徒さんも沢山います。自分の身体は一つですしね。自分には筋肉が備わっているので出来るのですが、初級者の生徒さんでは筋肉が弱いので、別の筋肉で動こうとして全く違う場所にクセが出たりします。できれば生徒さんにレッスン外で筋トレをして欲しいのですが、それは個人の自由です。プロ志望の生徒さんは目標が定まっているので強制できますが、それ以外の生徒さんは「出来るようになる」より「楽しい」を優先させたい生徒さんがいても、それは間違いではないし気持ちも解りますので許容しなくてはなりません。本当に難しい。

それに、大抵バレリーナにまでなれた先生は「練習すればすぐに出来るようになった、なんとか出来た」方が多いので、練習を繰り返しても一向に出来るようならない人間の苦悩が判りません。“どうしなければいけない”は解っても、“どうしたらそれが出来るようになるか”が解らない先生も現実には多いのです。大体、誰に対してもパーフェクトに“どうしたら出来るようになるか”が解れば、それは神様で、神教師ですよ。名教師どころじゃないですよね。
大勢を教える場合、実際はある程度パターン化する間違い方等があるので、その注意や、いくつかのコツを提示して、あとは本人の探求に任せるしかありません。個人レッスンになればもう少し個人に合わせた指導も出来ますが、それでも全ての問題に対して“どうしたら出来るようになるか”が提示できる訳ではなく、教師も一緒に悩んで行くしかないのです。なんとも頼りなく感じるかもしれませんが。

 私が沢山の先生に指導を受けて、とてもメリットを感じる点はこの“どうしたら出来るようになるか”という“コツ”複数のパターンで聞くことが出来ることです。A先生のコツでダメならB先生のコツで出来るか試す、そんな事が可能になります。それでも苦手な動きは出来なかったりしますけど。
(但し、色々な先生のレッスンを受けるデメリットもありますし、私はまだ基礎レベルの生徒さんにはあまり多くの先生のレッスンを同時期に受ける事はお勧めしません。)

 A先生は“理想の形”を教えて下さった方、一方B先生は”出来るようになる方法”を追及して下さった方、しかし追求するあまり毎度同じパを繰り返すB先生でもありました。反復練習は大切ではありますが、そればかりでは正直少し飽きてもしまいますよね。バランスって難しいですなぁ。


 久しぶりに昔の師匠のレッスンを受けて、その凛としたお姿に感銘し、また高度なパが出来なくなっている自分を再認識したり、その上で自分の在り様を再度考える機会に恵まれた1日でした。
皆さんも時々「自分のバレエ」を再度、考えてみては如何でしょう?