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掲載日:2019/09/18
■ 「バレエは子供の頃から始めないとダメなの?」 
 
 「バレエは子供の頃から始めないとダメ」という言葉をよく耳にします。何が「ダメ」なのかという問題があるとは思うのですが、「子供の頃から始めないとプロのバレリーナにはなれない」という意味だとしたら、今の私の意見としては“YES”と答えます。ここで“プロのバレリーナ”の定義を“国内外のメジャーなバレエ団で踊る”という狭い範囲にあえて設定するならば (それ以外のダンサーがプロではないという意味ではないですよ!子供がまず最初に“バレリーナ”に抱くイメージで設定しています)、成長期を過ぎてからバレエの訓練を始めた方がそのレベルの技術を身に付けるのは、ほぼ不可能に近いと私は思っています。

昔は男性などに成長期後からバレエを始めてプロになれた方が多くいらっしゃいましたが、それは男性は女性より股関節が開いていて筋力もあり、また男性ダンサーが少なかった時代的背景もあり可能であったと思われます。現在では男性ダンサーに求められるレベルも高くなって来たので、成長期後からでは男性でも難しいと思います。

とはいえ、私の意見など半世紀近く素人バレエを習っているに過ぎない人間の意見なので、必ずしも正解ではないかも知れません。しかし多くの方の意見でもあるでしょう。

 子供の頃から正確な訓練を適度な量で積んできた人の身体はまず姿勢に表れるので、見ただけで判る時があります。でも絶対の判別ではありません。

子供の頃から習っていても、とてもそうとは思えないような人は沢山居ますし、とても重要なことを習得しないで大人になってしまったような方も多く見受けられます。

確かにバレエは身体全体を使って動く運動ですので、幼少期から習得した方が速く習得できる傾向はあります。また、子供の頃にバレエを習っていたとか、他に体操やスケートなどの、微細に体をコントロールする訓練を積んで来た人は習得が速いようです。

でもね、身体全体を使う動作だからこそ個人差がとても大きい運動なんです!

ですので、「何年習ったから何が出来るようになる」とか「何年習ったからどの踊りが踊れるようになる」とかでは測れないのです。柔軟性があるから上手な訳でも、筋力が強いから上手な訳ではありません。もっと言えば、回転が得意だから良いダンサーという訳でもないし、表現だけ上手くても良いダンサーとは言われない。環境、身体能力、表現力、知性、根気、集中力、舞踊センス、と様々な能力が影響してバレエは上達します。

 「大人から始めたのでは、トゥ・シューズを履いてバリエーションを踊れるようにはなれないでしょうか?」

そんなことはありません!

確かに、中高年以上の年齢からバレエを開始した場合は、ポアントを履きこなすことも難しいかも知れません。でも100%不可能だとは誰にも言えないの。

なぜなら知識も指導技術も文明も進化しているから!

昔はね、ビデオ映像なんてありませんでした、先生の動きの見よう見真似。昔はね、“バレエ解剖学”なんてありませんでした、無理やり開いて外腿を使って踊ってた。昔はね、先生から「開いて!開いて!伸びて!伸びて!」とは言われたけど、どこを使ってどう開くのか、どう伸ばすのかは理論的に教えられることは少なかったです。

今なら、からでもインターネットからでも映像からでも情報が取れて、ストレッチをしてエクササイズをしてレッスンしてボディケアをして映像鑑賞をして…、様々な成長ツールがあるんです! 子供は身体で感覚的に学ぶけど、大人は頭を使って知識からも学べるんです!これは強味。余裕があれば、個人レッスンやバレエ・トレーナーによる個人エクササイズなども出来る時代です。昔よりも速く成長することは可能なの。

但し、残念ながらバレエ三昧で生きられるほど大人の世界は甘くない。時間だって費用だって限られる中で努力するしかありません。たとえ毎日猛烈にレッスンしても個人差が大きく影響するから必ずしも上手になるとは限りません。だから自分の理想・目標をどこに置くかが大切なんです。

バレエを楽しむだけの人、それもいい。バリエーションをノーミスで踊れるようになることを目標にする人、レッスンをノーミスで動けるようになることを目標とする人、それもいい。他人から見て「きれいだなぁ」と思われるような動き方を身に付けることを目標にする人etc、様々で良いのだと思います。

そこに「子供から始めないとダメ」なんて定義はありません。

 子供からバレエを習っていても、雑な動きの人とか、技術は上手なのに本当につまらない踊りしか出来ない人とか、そういうちっとも美しくない人は沢山居る。それよりも大人からバレエを始めても、丁寧に丁寧に訓練して、心から表現して、諦めない人の方がずっと見応えのある動き方をするものなんです。

子供は身体も軽いし突然に難しい動きも習得出来てしまうこともありますが、大人にしかできない「表現」ってあるんです。私達はよく「子供踊り」とか「子供っぽい踊り方」なんて言い方をしますが、型にはハマっていても何の感情も感じられないような動き方をするベテランが結構多いのです。バレエ教師であってもです。これは技術ばかりを重視した昔の日本のバレエ教育の弊害。

 筋肉はね、度合いはあれ、死ぬ直前まで発達させる事ができるんですって。バレエだってね、歳を取って出来なくなる事も多いけど、出来るようになる事もまた多いんです!どれほど神経を使って集中してレッスンをしているか、空いている時間に何をしているか、それが進化出来るかどうかの鍵です! あきらめた先には何もないし、それどころか退化が待っている事もある。

大人からでもね、バレエは“きれいに踊れるように”なります! ちゃんと努力すれば。

但し、バレエの“きれい”には本当の頂点はありません。どんなトップ・ダンサーも先へ先へと美しさを追求しているんです。、バレエ(舞踊)能力を磨くって生涯掛けて行うことなんです。だからとてもとても時間が掛かる。

 きれいなシングルも廻れないのに勢いダブルでブンブン廻るとか、軸も取れていないのに脚を蹴り上げるとか、どんなに高く跳べたって床から離れた瞬間の指先が緩んでいるとかドシン!と床に降りるとか、そんなバレエでは進化はありませんからね!

きれいな表現をしたいなら、沢山良い映像を見て、自分の中でイメージを作って動く事。表現ってね、「腕はこうで顔はこっちで」で動くのではないんです。自分の感情からイメージに沿って自然と手足が動くの。

(余談ですが、私の師匠は同じアンシェヌマンを異なるイメージの2曲でやらせたりすることがありました。どう表現するかは自由でいいの、でも同じように動いてはいけないんです。だって曲によって音楽の表情が違うから。溜める部分や、速い部分など、曲に合わせたり曲から受ける自分の感性に従って動くべきなんです。それが“舞踊”だから。)

「バレエは子供の頃から始めないとダメ」なのではなくて、「バレエはものすご〜いっ努力をしないとダメ」というのが正しいのだと思います。

皆さん、死ぬほど神経使って頑張って身体を動かしましょうo(^^)o
楽しむことも忘れずに…。


(もうひとつ余談なんですが、知り合いの方に「バレエは子供の頃からやらなきゃ絶対にダメ!」という考えの人が居ました。彼女は大人からバレエを始めて、でも自分の満足できるレベルまで上達できなかった事が辛かったそうです。その夢をご自分の娘さんに託されて、本当に幼児期から厳しい要求を娘さんにしていました。やがて思春期になって、娘さんは壁に当たり、バレエを止めてしまいました。「プロになれないならやりたくない」「真ん中で踊れないならやりたくない」「(例えば就職などで)自分の踊りのレベルが下がるようになるならもうやりたくない、辛い」とおっしゃったそうです。彼女にとってバレエとは「踊れる自分」であった訳ですね。親子だからか「似た価値観だなぁ」とも思いました。バレエに打ち込んで来た娘さんの気持ちもよく解るんです。それくらいの想いでレッスンして来たのでしょうから。人の考え方は自由です、本人が良ければそれでいい。でもまだ思春期です、実はプロになれないかどうかはまだ判らなかった。でも母親の声も先生の声も彼女には届かなくなってしまったんですね。私がとても残念に思ったのは、早々に諦めてしまった事と、あんなに楽しそうに踊っていた彼女がバレエを止めてしまったこと。いつか、バレエでなくても良いので何か踊ることを再開して楽しんでくれると良いのですが…お節介かな。

人の人生に正解はありません。だから迷います。いくつになっても迷います。でも、自分にとって何が大切なのかはなるべく見失わずに生きて行きたいと思います。大切なものを失わずに居られることはとても幸せなことだから。)