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掲載日:2017/11/16
■ 「自習の難しさ」


 「自習」がとても効果があることは解っていることなのですが、バレエにおいての自習はとても危険性をはらんでいる物でもあります。先生によっては初級者の自習を嫌がる先生もいらっしゃるくらいです。

誰にも監視されずに誤った形で繰り返し動くことはその誤った動き方を体に教え込んでいるようなものなので、悪いクセを付けてしまうのです。

 私が見た1つの例をお話します。あるオープンクラスでとても熱心な生徒さんとご一緒になりました。正直に言ってそのクラスに参加するにはあまりにもスキルの足りない方でしたが、オープンクラスは自由参加なのでそのような方も多くいらっしゃいます。レッスンの前後にウォームアップもストレッチもそこそこに熱心にアラベスクや回転などの練習をしています。彼女はいつもお稽古場に一番乗りで30分以上は集中して練習するようです。「慣れこそものの上手なれ」ではないですが、段々と慣れて行き2回転回れるようになるとか、ルルベバランスが出来るようになるなど、変化が見られます。

しかし気の毒な事ですが、どれをとっても“バレエ”の動きではないのです。思いっきり肩を上げて、お尻は緩みっぱなし、膝も緩みがち。もともとしっかり体型であった前腿はそれなりに発達して来ているようで、正直見ていられませんでした。しかし、お稽古場では生徒同士の注意は原則禁止です。そして恐らく赤の他人が注意してもその方は自習は止めないと思いました。結果、歪んだ姿勢でバレエのパを“こなす”だけに特化してしまった癖がついてしまい、かなりな時間を掛けてもその癖は抜けないと思います。

人間はなんとか希望の動きを実現しようと調整が出来てしまう生き物です。しかし形に厳格なバレエの世界では“出来れば良い”というものではありません。世界のトッププロ達でさえ、自分のリハーサルにはきちんとアドバイザーの先生を付けています。現在は気軽に録画が出来るので、ビデオ録画という手を利用するのも良い手のひとつだとは思いますが、それも正確な形を知っていなければ見たその動きが正しいのかどうかの判断はできません。「目を養う」というのもバレエにおいては大切なスキルの1つなのです。

 とはいえ、例えば踊りの練習で、体に踊りを覚え込ませる為の“踊り込み”の時間は必要だと思いますし、レッスン中にたった1、2回練習しただけで技は出来るようには中々なりません。「自習」が悪いわけではないのです。大切なのはやり方とその動きを体で微細に感じられるレベルに達しているかどうか、なのだと思います。ですので初級者の自習を善しとされない先生がいらっしゃるのです。

 例えばピルエットの練習。工夫もせずに同じ失敗を繰り返すのは失敗を体に教え込んでいるだけです。1回ごとに失敗した原因を考えて、どこか変化させて再チャレンジをするべきなのです。そして適度に繰り返しても出来なければ、私はその日はそれ以上ピルエットの練習はしない方が良いと思います。後日、先生に見てもらいアドバイスを頂いてからまた自習。ある程度練習しても出来なければまた見てもらうとか、ビデオで録画して確かめるとか、やり方を変えなければいけません。先生にアドバイスを頂いてもすぐにその通りに動ける訳ではありませんから、自分がアドバイスに忠実に動けているかの確認をしなくてはなりませんし、それを実現できる筋力が備わっているのかにも疑問を持たねばなりません。筋力が足りない場合は他の筋肉や勢いなどで代用してしまうケースがとても多いのです。
バレエでは「慣れこそものの上手なれ」とはならないのです。残念ながら、がむしゃらに繰り返していても正確な技術は身に付きません。

自分をコントロールできる技術、正しい形との違いを見極める感覚、それらの物が自習では必要です。

それにはもっともっと自分自身に神経を向けられなくてはなりません。前述の彼女も、鏡に思いっきり肩の上がってしまっている自分が映っていて、それを注視しているのです。なのにそれを直さないのはおそらく気づいていないから、目に入っていないのです。バレエを知らない人達がただ脚が高く上がっているアラベスクを見て「きれい」と思っても、バレエの本当の「きれい」を知っている人間からすると腰や胴が開いていたり、重心が引けていたり、胴を短く使っていたり等、とても「きれい」とは言えないことがあります。更に自分である程度動けるようになると、重心のズレ等は見た時の違和感として感覚で解るようになります。(ビデオを見ていて自分が一緒に踊っている感覚になることはありませんか?)先生(あるいは正しい形)と自分の違いを探せる細かい意識を持てることが上達への早道なのです。

 「自習」はうるさい先生もいないし自由で楽しい時間です。ですが、その時間で自分に悪い癖をつける危険性があることを十分に承知して臨んで下さい。大人バレエは焦って頑張ってもいきなりの成長は難しいです。それよりもじっくり土台を作って、正しい筋力も上げて、何より感性を育んで鍛錬することが「美しい大人バレエ」への近道だと私は思っています。私もレッスン後によく自習をしますが中々理想通りに出来るようにはならないです。少しづつ訓練して地道に上達し(私の年齢ではそろそろ現状維持に近いですが・・・(- -;))、理想に近づきたいと心から思っています。

自己満足の果ての自己流バレリーナ(“なんちゃってバレリーナ”)になるより、ターンアウトや高度な技は充分に出来なくても、手先足先・動きの美しいバレリーナ(“美魔女ババリーナ”)の方がとても他人の目には好ましく映るものですよ。 「自習」は正しいやり方でほどほどに。