掲載日:2019/05/13
■ 英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』スカーレット版を観て

 最近巷で評判の英国ロイヤル・バレエ団リアム・スカーレット版の『白鳥の湖』を観ました。先日NHK BSで放映されましたので(NHK様、ありがとうm(ToT)m !!)、ご覧になった方も多いと思われます。久しぶりに感動した『白鳥湖(はくちょうこ)』でしたのでちょっと感想を書かせて下さいね。
(『白鳥湖』ってね〜、すっごく古い呼び方なの。小牧正英先生が日本で初めて全幕上演をした時に『白鳥湖』から『白鳥の湖』に変更したらしいです。)

現在購入可能な英国ロイヤル・バレエの『白鳥の湖』は、
 1982年アシュトン&ヌレエフ版:ナタリア・マカロワ&アンソニー・ダウエル
                 DVD-BOXあり
 
2009年ダウエル版:マリアネラ・ヌニェス&ティアゴ・ソアレス
 2012年ダウエル版:ナタリア・オシポワ&マシュー・ゴールディング
そして今回5月24日発売の
 2017年リアム・スカーレット版:マリアネラ・ヌニェス&ワディム・ムンタギロフ
とあります。

この中で、1982年のマカロワ&ダウエル版はマニアには垂涎の映像ですが(マカロワ・オデットは1976年のABT版の方がいいと思いますがDVD化されていない)今の人にはウケないと思うので、私がおススメするのは2009年のヌニェス&ソアレス版か今回のヌニェス&ムンタギロフ版です。(オシポワ・ファンの方には2012年版も良いのでしょうがそうでないならヌニェス版をお勧めします。あくまで好みですが。)



英国ロイヤル・バレエ 『白鳥の湖』
改定振付・演出:リアム・スカーレット
オデット:マリアネラ・ヌニェス    王子:ワディム・ムンタギロフ
ロットバルト:ベネット・ガートサイド
王子の友人ベント:アレクサンダー・キャンベル
王子の妹たち:高田 茜、フランチェスカ・ヘイワード
上演:2017年5月17日 コヴェントガーデン王立歌劇場

 様々な『白鳥湖』を観てきましたが、また新しい演出に出会う事が出来て、本当に古典バレエの偉大さをつくづく実感させられます。改訂を繰り返されてなお、新鮮な感動を与えられるのは淘汰されてきた演目だからなのでしょう。新しい演出と言っても本家本元のプティパ/イワノフ版をきちんと踏襲している古典バレエの『白鳥の湖』です。

ダウエル版とスカーレット版は趣きが全く異なるので比較するのは難しいですが、ダニエル版では美術も衣装も時代的荘厳さがありましたが、今回は衣装は現代的?で美術は豪華で華麗な宮殿が素晴らしく描かれています。ダウエル版では長いスカートになっていた白鳥達の衣装もチュチュになっていますので嬉しい、やっぱり白鳥はチュチュでなくっちゃ!

 第1幕は衣装はシンプルで洒落ていて踊りと隊形を楽しめます。ダウエル版は民族舞踊色が濃い第1幕でしたが、今回は“バレエ”を楽しめる感じ。男性もよく動きますからダイナミックで見応え十分な第1幕です。
第2幕は正統派、やはり第2幕に手を入れるのは難しいですし、第2幕のあのバレエを観たい人が『白鳥湖』を楽しみに来る訳ですから、いつも通りに陶酔しました。白鳥の衣装がこれまた素敵!ちょっと太めに観えるのでヌニェスにはもうちょっと細く見える衣装にして欲しかった気もしますが、白鳥のイメージ抜群の衣装です。

第3幕は花嫁候補が各国の姫として出て来ます。ボリショイのグリゴローヴィッチ版も各国の姫が従者と共に踊りまくりましたが、今回は各国の踊りとは別にそれぞれの個性を見せて花嫁候補の踊りを踊ってくれます。楽しいですよ! 
英国ロイヤルはね、キャラクターダンスを大事にしているバレエ団なので、とってもキャラクターダンスが丁寧に踊られているんです。ここは是非!見習いたいところ。足のステップもとっても丁寧ですから良く見て下さいね。スペイン(スパニッシュ)・ハンガリー(チャルダッシュ)・イタリア(ナポリ)・ポーランド(マズルカ)の踊りが踊られます。残念ながらロシアの踊りはなし。衣装もとてもチャーミング!です。
第4幕については後ほど。

 さて、オデットのマリアネラ・ヌニェスですが、本当に素晴らしいっっ!の一言です。ビデオの紹介ページでも書きましたが、ヌニェスはオデットを踊るには少々体格が良すぎるので“たおやかなオデット”というイメージではないのですが、彼女のあれほどの筋肉がなければおそらくこの理想の動きは実現できないと思われるので必然なのだと思います。「こうあって欲しい!」と思う動きを本当に完璧に実現している技術はヌニェスならではの物でしょう。相変わらず回転技もスゴイっ! 技術という意味ではダウエル版の時も完璧な技術を披露してくれましたし、やはり若々しい伸びやかさは10年前の方に軍配が上がります。しかし!表現力と円熟性はダントツに進化していますので、感情が揺さぶられるのは今回の映像です。
若い可憐なオデットも良いですが、やはり私は大人のオデットが好きです。不幸な白鳥達の女王としての自覚があり、長年の悲哀があるからこそ、物語の結末でのオデットの行動(原作では湖に身を投げる)が理解出来る気がします。

今回はリアムが「リアルな説得力のある作品にしたい」という意思で制作しましたので、出演者全員がとても現代的な表現でドラマティックなの。ダウエル版は“おとぎ話”、スカーレット版は“人間ドラマ”という趣きです。どちらもぜひ見比べてみて下さい。

 『白鳥湖』の王子ってもともと影が薄くて昔はあくまでもバレリーナのサポート役的な扱いでしたが、最近の王子にはドラマ性があってとても物語に入り込めますね。だって王子のドラマが無ければこの悲劇は起きない訳ですから、王子の心理描写の踊りがあっても良い訳です。ムンタギロフは見た目も本当に高貴でノーブル、そして品位のあるテクニックで、王子役として生まれて来たようです。『海賊』や『バヤデール』みたいに派手に踊れない分、表現が難しいですよね。今回は彼あっての説得力なので、リアムのキャスティングの上手さに感心します。友人ベントのキャンベルとかね!

 特筆するべきはやはりパ・ド・トロワの「プリンシパル3羽ガラス」でしょう!こんな贅沢な制作は私は初めてです。やっぱりプリンパルという立場と役どころが貫禄を育てるんですよね〜。素晴らしいパ・ド・トロワです。表現力たーっぷりで退屈しない!そしてこの3人、第3幕でも踊ってくれますから嬉しいですね。

高田茜ちゃん(私達世代には“茜ちゃん”なんです)は、本当に立派なオーラがあるダンサーになりましたねー。気品があって伸びやかで彼女の芸術性が溢れ出る踊りです。そして日本人らしさも感じられる世界に誇れる日本人ダンサー。今後も沢山拝見したいですね。一緒に踊るフランチェスカも素晴らしいダンサーで、やはり欧米人的な表現なので、この個性の違いを観られるのはとても面白いです。

ベンノ役のキャンベルは本当に“のんきなベンノ”がピッタリで、この作品には道化役が居ないので道化的な役割も上手く演じています。(俳優の濱田岳さんを思い浮かべてしまったのは私だけだろうか)道化の回転技が見られないのは残念ですが、代わりにベンノが飛び跳ねて盛り上げてくれます。ベンノからは目が離せませんね。

 王妃とロットバルトの関係も興味深く本当にドラマティックです。こういうクールなロットバルトも怖いよね。

 最後に、この作品の真骨頂は第4幕にあって、この幕にスカーレット版の特徴があふれています。詳しくは観てのお楽しみなんですが、とてもリアルな解釈になっています。私が感動したのはこの第4幕なんです。とても現代的な主張。白鳥達が本来は人間の娘達であるという事を思い出させてくれる演出です。
また、オデットの絶望と感情の移り変わりがとっても繊細に表現されています。ビデオの利点は表情のアップが観られる事ですが、そのヌニェスの表情も素晴らしい!もちろん身体の動きでも表現し尽くされています。
バレエでこれほどのドラマを楽しめるのは英国ロイヤル・バレエならではですね。

長々とごめんなさい。本当はもっと書きたいのですが観ていない方もいらっしゃると思うので、観てのお楽しみとさせて下さい。この作品は是非お勧め!!持っていて損のない映像だと思います。良かったらお楽しみになって下さい。




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