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■ パラレル歩行のススメ

 時々駅などでお団子頭に白いタイツを履いて脚を外開きにして立っている姿勢の良い児童を見掛けることがあります。彼女達は十中八九バレエスクールに通う子供達です。レッスンで四六時中脚をターンアウトして開いているので、レッスン外でも脚を外開きにする癖がついているようです。こういう癖は大人やプロのバレリーナにも表れます。しかしレッスン以外で外股歩き(外開き歩き)を続けていると、実は美観以外にも思わぬ弊害が起こって来ることがあります。

 子供の頃には先生から「常に脚は外へ向かって開いている(外旋している)感覚でいなさい。」みたいな事をよく言われました。これはバレエにおいては良い心掛けなのですが、バレエ以外の生活の中ではあまりお勧め出来ない心掛けです。特にハイヒールを履いている方や、中高年以降方の脚に負担を掛けてしまう歩き方なのです。

人間の関節はもともと(わずかな捻じれはありますが)基本的に爪先と膝は同じ向きを向き、爪先と膝を進行方法へ向けて2本線上を歩くように出来ています。この歩き方をここでは「パラレル歩行」と言いますが、正常なパラレル歩行では爪先が真正面に対して10〜15度程度外を向いた角度で歩きます。その角度で歩く事が人間の脚の筋肉を一番良いバランスで使う事が出来るそうです。

ここで太腿周りの筋肉について整理しておきましょう。下の図1〜4をご覧下さい。
(筋肉の名称などは覚えなくても大丈夫です。腿の構造をイメージして下さい。)
図1 大腿四頭筋

図2 内転筋

図3 ハムストリング

図4 腸脛靭帯(橙)と
大腿筋膜張筋(緑)

腿の正面図
腿の正面図
腿の裏面図
腿の(外)側面図


 バレエで歩く時は爪先(膝)を外開きにし、腿裏のハムストリングを使って付け根を引き上げて一直線上を爪先重心で歩きます。しかし普段の生活での歩行においては、リラックスして歩いているのでハムストリングを引き上げて歩いている訳ではありません。重心が下がる分、爪先を開いて歩いていると脚の外側に負担を掛けて歩いてしまう事が多いようです。脚の外側ばかりに負担を掛けて歩いていると様々な弊害が出ますが、一番気になる弊害は「脚の内腿が緩み外側が硬くなり脚の形が美しくなくなる!」という事と「膝の外側にばかり負担が掛かるようになる」という事です。更に普段は2直線上を歩きますので内腿の緩みは増すばかり!

「脚の内側」とは、両脚をパラレル状態にした時の内腿の筋肉、すなわち“内転筋”のことです。内腿のたぷたぷした緩みを克服するには内転筋の強さが大きく関係して来ますが、「私はバレエではいつも内転筋を意識してターンアウトしているから大丈夫!」などと思っている方、電車で座っている時に長時間両膝を閉じて楽々と座っていられますか?

ここで私が言う内転筋の強さとは、両脚を閉じ続ける筋力の事です。試しにきちんと踵を床に付けて脛(すね)が床と垂直になるくらいの状態で椅子に座って、背骨を垂直に伸ばし両膝を閉じ続けてみて下さい。どうでしょう?簡単に長時間閉じていられますか?だんだん辛くなっては来ませんか?
簡単にいつまででも閉じていられる方は大丈夫ですが、すぐに辛くなってしまう方は内転筋の「閉じる」力が不足しています。その為、どんどん逆の脚の外側の筋力に頼って重心も後ろに下がりがちになって歩いてしまいます。内腿にブヨブヨとした脂肪がついてはいませんか?

バレエでターンアウトをする時は内転筋を前へ出すような使い方をして脚を外旋させます。またはアッサンブレで脚を閉じる時などは脚の付け根を引いて腿裏のハムストリングで両脚を閉じるような意識で脚を閉じます。しかしそのどちらの動きも、「パラレル状態での両脚を閉じる筋力」は鍛えていないのです。
締まった内腿を得るためにも、普段の歩行はパラレルで細めの2直線上を歩くように心掛けましょう。また、椅子に座る時にはきちんと両膝をそろえ続けて座ります。座ったり横になったりしながら両膝の間に薄いクッションなどをはさみ押し続けるエクササイズもとても有効です。(他にも内転筋の鍛え方はネット検索すると沢山検索できます。)

バレエの動きやポーズは様々な方向で引き合う力のバランスの調整で身体をコントロールします。バレエ=バランス力と言っても過言ではありません。筋肉の成長もバランスが一番大切なのです。(解剖学に詳しい方ならば拮抗筋の重要性はご存じですよね?)
例えば脚ならば、腿前の大腿四頭筋と腿裏のハムストリングの筋力バランスは大体2対1くらいの強度が理想です。パラレルで脚を横へ開くにはお尻の筋肉(中殿筋)と腿外側の筋肉(腸脛靭帯・大腿筋膜張筋)等を使いますが、その反対に閉じる時は腿内側の内転筋を使います。これらのバランスが悪いと脚がグラついて腰・股関節・膝・足首等、様々な箇所に緊張と故障をもたらすのです。もちろんバレエの技が安定しないのは言うまでもありません。

日頃私達は前腿の大腿四頭筋を大きくしないようにと意識し過ぎて、腿裏のハムストリングばかり発達させています。特にベテランの方は意外と大腿四頭筋の筋力不足となり易いようです。しかし、前腿の筋肉(大腿四頭筋)は不恰好にまで大きくしてはいけませんが、ハムストリングや内転筋と共にバランス良く鍛えることもとても大切なことなのです。特に中高年になって全体の筋力が衰えてくると、前腿の筋力不足は膝の故障にダイレクトにつながって来ます。中高年になったら「か細い脚」への執着は控えて、それなりの「しっかりした強い脚」を育てましょう。プロのバレリーナの前腿って結構しっかりしているものですよ。

パラレルで姿勢良くしっかりと歩く事は脚の筋肉をバランス良く鍛えてくれる理想のエクササイズです。レッスンが終わったら、普通のパラレル歩きに戻して帰宅して下さい。
(※5本の足指をしっかりと押して歩く事もお忘れなく!)