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掲載日:2021/01/16
■ お腹を伸ばそう!

 少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます!
新年早々に世の中は益々シビアな状況になり、苦しむ方々のニュースを耳にするたびに心が痛みます。他人事ではなく、明日は私もあるいは皆さんの身にも起きるかも知れない災いです。
幸い今回は首都圏の大手バレエ・スタジオ等は営業を継続してくれていますが、油断せずに更なる感染防止に努めて下さい。レッスンでは感染しない、なんてことは絶対にありませんからね!!特に更衣室で大きな声でお喋りをしている方は、実は周りの方からはとても不快に思われているという事実をしっかりと認識して下さい。
スタジオが閉鎖されないように、皆さんで無事にこの難局を乗り切りましょう!


<後ろ脚が上がらない>
 今年最初の記事は、バレエのポーズの象徴とも言えるアラベスクについて少し考えてみたいと思います。

美しく後ろにアラベスクの脚を上げるには、数えきれないくらいの様々な要素が必要です。柔軟性、筋力、技術、表現力、それらがバランスよく使われて初めて“美しいアラベスク”となります。いくら脚だけ高く上がっても上半身が緩んでいるような姿では美しいアラベスクとはならないのです。

私が年齢が高くなって一番に感じることは「アラベスクが上がらなくなった」という事でした。若い頃は軽々と上がっていた脚なのに、「こんなに後ろ脚が重く感じるようになったのはいつからだろう」と思います。前や横にはまだそこそこ上がるのに後ろが一番上がらない。

人間は前や横より後ろに脚を上げることが一番難しい構造をしています。直立して骨盤を真っ直ぐに立てた状態では、脚は前に60度、横に45度、後ろには15度しか開かないと言われています。その構造に逆らって脚を高く上げて行くのですから、大変なはずですよね?

スプリッツ(開脚)でもバーでの両手グランバットマンでもそれなりに脚は開くのに、なぜアラベスクとなると脚が上がらなくなるのだろう?若い頃とどこが変わったの?

答えは…上半身の柔軟性…だと思います!

そう、いくら一生懸命スプリッツをしても、グランバットマンで脚を放り投げても、上半身が硬ければアラベスクで後ろ脚は上がってくれないのですよ。

<脚を上げる為には骨盤を倒す>
下の4枚の図は、上げた脚の高さに従って骨盤が前傾する様子を表しています。


       (出典:「クラシックバレエ テクニック」

黄色の矢印をみて下さい。段々と骨盤が前に倒れて行くでしょう?このように後ろ脚を高く上げる為には骨盤は前に倒して行かなくては脚は上がりません。

しかし、アラベスクでバランスを保つ為には胸から上は起こしておく必要があります。
それを実現させる為には背中が上手に湾曲しなくてはならないのです。

 よく先生に「貴女は背中が硬いからアラベスクが上がらないのよ!」と言われたことはないですか?だから前屈して腰を伸ばしたり、カンブレで後ろへ反る練習をしましたが、本当に注目しなくてはならないのは、背中ではなくてお腹なの。

<背骨について>
少し背骨のお勉強をしましょう。


背骨は首から、頸椎・胸椎・腰椎と分かれています。
基本的に肋骨に覆われている部分はあまり曲げる事が出来ないので、ウエスト部分の腰椎が一番曲げやすい部位となるのですが、腰椎は背骨の中で一番負担が掛かる部位なんです。背骨の骨と骨の間(椎骨の間)には“椎間板”と言われる軟らかい組織(右図ピンクの部分)があって、これが圧迫されたり繰り返し負担が掛かったりすると、潰れてしまい、骨と骨が当たってしまったり、背骨を通る神経を刺激してしまったりします。

ですので、腰椎だけではなく上部の胸椎にも背中を湾曲させるお手伝いをしてもらいましょう。

残念ながら通常人間はあまり胸椎を湾曲させる必要がないため、胸椎は腰椎より湾曲し難い構造になっています。特に身体の前後を肋骨で覆われている部分はあまり曲げる事が出来ないので、アンダーバストのみぞおち部分(上:中央の図の水色の部分)を中心に大きな湾曲を描けるように、ストレッチをして下さい。
よく先生から「カンブレは胸から反りなさい!」と言われるでしょう?胸から反って行ってウエストの湾曲につなげて行くのです。


椎間板をつぶさないように、背骨全体を長く伸ばしながら背中の湾曲を作って下さい。


よくウエスト部分ばかり反らせる意識でストレッチをしている人を見掛けますが、あれはとても危険です!そしてね、背中側って長く伸ばしても行くけれど、曲げて行く部分でもる訳です。ストレッチって伸ばすことでしょう?では伸ばす必要があるのはどこ?お腹側ではないですか?

身体って、筋肉や皮膚や筋膜などでつながっていますよね?ですから、どこか一か所だけストレッチしてもダメなんです。(厳密に言えば全身を伸ばしてほしいのですが)、お腹にフォーカスするのであれば、お腹が伸びる部分、すなわち鎖骨辺りから恥骨までのお腹全体の部分を伸ばす気持ちでストレッチをして下さい。肩や肩甲骨、背中の僧帽筋などが上がってしまっているとお腹は充分に伸びませんので、背中上部はゆったりと下ろして下さいね。


<骨盤を回して胴体はねじる>
そしてもう一つ!アラベスクを高く上げるには、骨盤を前傾させるのと一緒に、少し骨盤を上げた脚側に回してあげないと出来ないのです。

「アラベスクで骨盤を開いちゃダメ!」と注意されますよね?あれは軸脚側の脚の付け根が、上げた脚側に引っ張られて内側に回ってしまわないようにする為の注意なんです。骨盤は大きく開いてはいけないの、でも少しならばいい。意識としては軸脚側の骨盤は前へ向けて、上げた脚側の骨盤は少しだけ開く、という感じ。現実には骨盤は1つなんですけれどね。詳しくは、このサイトの「バレエ上達へのテクニック」の中の「脚を高く上げる − 前後 −」編に記述してあります。かなり昔に書いた長い文章なので、読みづらいかも知れませんが、少し修正しましたので良かったら読んでみて下さい。

でも骨盤を回したとしても、アラベスクの基本は両肩あるいは両脇がなるべく前を向いていることでしたね? という事は、胴体をねじらないとアラベスクの形を作れないわけです。



先程の背骨の中で曲がり易いのは腰椎でしたが、ねじり易いのは胸椎のみぞおち部分なんです。腰椎って、ねじっているようで実は骨はねじれてないの。ねじれているのは胸椎の一部なんです。 ですので、その胸椎の一部(みぞおち付近)にフォーカスして、ねじりのストレッチを行うことが必要となって来ます。

胴体をねじるストレッチは色々あります。下図のように長座で行っても良いですし、他にも四つんばいで片手の肘を曲げたまま天井に向けて上半身をねじるストレッチなども効果があります。がんばってみて下さい!



 さて、アラベスクを高く上げる為にはお腹を伸ばさなくてはいけない訳が、なんとなくお解かり頂けたでしょうか?
身体の柔軟性は年齢と共に失われて行きますが、お腹の部分は股関節のように硬い靭帯に守られている訳ではありません。地道にストレッチをして行けば次第に伸びて行く部分なのですよ。

但し!柔軟性だけではいけません。例えば、どんなにお腹を伸ばしても、腰に負担を掛けないで安定して立つ為には下腹の力は入れ続けて反らなくてはなりません。また、体幹が安定しないと骨盤を大きく倒してバランスを取ることもできません。両手バーでの後ろのグランバットマンで脚が上げ易いのも、両手でバーにつかまることで体幹が安定し、骨盤を前傾しやすくする事が出来るからです。筋トレもサボってはいけませんよぉ〜。


<余談>
 最後に余談となりますが、下の左側の写真はワガノワの女の子の写真ですが、すっごく胸椎が曲がっているでしょう?ロシアのダンサーはみんな胸椎がかなり柔らかいです。しかし、大人がこの上げ方をするのは(体質次第ではありますが)かなり危険です。大人は右側の写真の上げ方をめざしましょう。自然でとても美しい形です。


もうひとつ余談。下の写真はご存知の方も多いと思いますが、「インサイド・バレエ・テクニック」というバレエ解剖学についての有名な本の表紙なのですが、これ、ものすごくダメな形ってわかります? 腰だけで反っているでしょう?普通の人はこのような反り方をしては絶対にダメです!本の中にも腰だけで反ってはいけないと書いてあるんですけれどね。(^o^)b


それでは皆さん、これからもがんばってお腹を伸ばして美しいアラベスクを追及しましょう!

今年もよろしくお願い致します! m(^^)m