■ 自分はどこに並ぶべき?

 はじめてのスタジオに行った時など、初心者の方は自分はどこに並んだら良いのか、迷う方がいらっしゃるようです。確かに時にはそのクラス毎の流儀のような並び方のあるクラスもあり、そんな時はなるべく最後列か間の列や組に入って様子を見るのが一番だと思います。バーならば端以外、センターでは先頭列以外、ワルツでは先頭組以外か組の後ろ側の位置で行うという感じでしょうか。

 最近オープンなクラスのレッスンで時々違和感を感じることがあります。それは、そのクラスではまだ先頭を務めるには技術が伴わないレベルの方が、自ら積極的に先頭に立ってしまうというケースです。
おそらくその方の積極性の表われであると思うのですが、バレエでは少々困った事態を引き起こしてしまうことがあります。

 近年、素人のレッスンでは「同じレッスン料をお支払しているのだから、どこに並んでも良い。」と考える方が増えているように思われます。これも間違いではありません。考え方のひとつです。積極性のある欧米人と異なり、“奥ゆかしい”日本人は後ろへ下がる傾向がありますが、“遠慮”も度が過ぎると時間を無駄にしたり、自分の為にならないことがあります。自信があるならば、どんどん前へ出て演技をして良いのです。
しかし、時としてあまりに技術レベルの低い方が先頭に立って動いてしまうと、同じ組の方と移動幅が合わなかったり、後列の方の場所を詰まらせてしまう結果を招いてしまいます。理想的には、大きく動けて音楽性が正確でアンシェヌマンを間違えない方から、同じレベルの方が一緒の組になり動けることが望ましいのです。しかし児童のクラスならば先生が位置を決めることも出来ますが、毎度メンバーの変わる成人クラスではそれは不可能ですし時間の無駄になってしまいます。

 本来バレエの世界は実力者優遇の世界です。それはバレエという芸術が、ショービジネスではないにしろ「商業芸術」の分野に属しているからです。より多くのお客様を劇場へ集めるダンサーやバレリーナがバレエ団を存続させます。その為バレエ教師はより実力のある踊り手を育てようとしますので、レッスンでも実力順に先生から見やすい位置、動きやすい位置を与えられるものなのです。
今でこそ素人バレエが成立する時代になりましたが、もともとは“しのぎを削る”プロの世界。実力順はそこから派生した習慣とも言えるでしょう。しかしレッスンの並び順が実力順というのは、習慣だけではなくちゃんと意味もあるのです。

 通常、上級者が先頭や前列に位置していることはとても他の方にとっても大変良い事なのです。それは他の方へお手本を見せてくれるという点だけではなく、スムーズに場所移動が行われレッスンが速く進むという利点もあります。上手な方の真似をすることは自分の実力アップに大変役立ちます。アンシェヌマンの順番はもちろんのこと、音の取り方、移動の距離、動く角度、様々なことを上級者は教えてくれます。

 子供の頃よく先生から言われた言葉は、「先輩の動きをよく見なさい!各パをどこの位置で始めて、どこの位置で終わっているか、どこの音でどのポーズになっているか。注意力のある人から上手になって行くのです!」という言葉でした。これは今でも忘れずに意識しています。

 もちろん、自信や余裕のある方には積極的に先頭に入って頂きたいと思います。少し不安があっても積極的に動きたい時には先頭列に挑戦するのも良いでしょう。但し、他人の邪魔にならないことが前提です。自分が他の方の邪魔になっているかどうかへの気配りは必要なことだと思います。

 余談ですが、オープンクラスに新顔の上級者が来るとセンターでは大体3通りに分かれるようです。周りを見て判断し先頭でお手本を示してくれる人、他の皆さんに動きを合わせて間に混じる人、そのレッスンの様子を見る為、あるいは大きく動く為に最後尾に入る人。人それぞれですが共通して言えるのは、どこに入っても迷惑にならない振る舞いをしていることです。(もちろん上級者でも無神経で迷惑を掛ける人はいますが。)

 素人のバレエは同じレッスン料を払っているのですから、どこに並んでも構いません。しかし自分から先頭を務めるのならば、それなりの責任を負うのだという意識はもって努める気概を持ちましょう。(失敗してはいけないと言っているのではありません。)群舞も見せるバレエという文化は「和」を大切にします。心配りをしてレッスンに臨み、上手な方はたくさん参考にして自分もどんどん上達して下さい。