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掲載日:2017/10/28
■ 「無い物ねだりは時間のムダ」


 "無い物ねだり"は時間の無駄だということは当たり前の話なのですが、バレエの修行を積んでいると時々悩まされる感情ではないでしょうか? 「あんな風にスタイルが良かったら」「せめてあと5cm身長があったら」「自分に回転の才能があったら」「もっと子供の頃からバレエを始められていたら」、生まれるコンプレックスは多々様々です。パリ・オペラ座のオーレリー・デュポン他、さまざまなトップ・ダンサーが「コンプレックスのない人間なんていない」と言います。レベルが変わっても誰でも悩まされるのが"自分にはない物への憧れ"ではないでしょうか。

 身体を細くしたり筋肉を付けたりすることは出来ますが、生来の身体的特徴は克服できるものではありません。また、過去にさかのぼることも人間にはできませんよね。叶わない欲求にいつまでも翻弄されるのは、本当に時間のムダだと思います。それでもつい思ってしまう考えてしまう、そして気分が落ち込んでしまう、人間とはやっかいな生き物です。

身体と同じく心も訓練が必要なのだと私は思っています。歳を重ねるということの最大目標は心の訓練をすること、心を育てることだと感じています。ですので、つい考えてしまうネガティブな感情は自力でなるべく早く切り替えてしまいましょう! いくら考えても手に入らない物は手に入りません。ネガティブな感情って浸っていると結構気持ちが良い時もあります。(「私って可哀想」症候群?)"つい考えてしまう、つい思ってしまう"のは当たり前(^^)b。そこからいかに早く切り替えるか、プラスへと転じられるかは訓練によって大分楽に早く出来るようになると考えています。

「あきらめて投げやりになれ」と言っているのではありません。視点を変えたり、全く違う世界のことへ頭を切り替えるのです。

例えばバレエのことについて言えば、全てがダメというタイプはあまり居ないんです。回転が苦手でもジャンプが得意だったり、バランスが得意だったり、あるいはアームスや上半身の動きは大人からでもどんどん綺麗にして行けますし、情緒的表現は若手より年齢を経た人の方が不思議と胸に伝わって来たりします。得意な事をより伸ばして行きましょう。プロではないのですから何もグルグル何回転も出来なくても良いんですよ、綺麗に好ましく見えれば良いのです。せっかく趣味でバレエを訓練する幸せを得ているのですから、それを踏まえてバレエに向かっていましょうよ。プロの方は「バレエ=完成度を上げる」ですが、私達は「バレエ=楽しむ」ことが大切なのですから。

技が出来なくて落ち込んだ時は、他の技にも注目してみましょう。きっと得意な事があるはず!自分をきれいに見せる方法はとても身近に沢山あって、例えば"腕を背中のウエストから伸ばして大きく動かす"とか、"小さなステップでも爪先をギリギリ伸ばして床を踏む"とか、"指先を整える"、"クロワゼやエカルテでは脇を少しひねる"とか、"両脚をしっかり遠くへ伸ばすこと"もとても印象に残ります。これらだって技の一つなんですよ!プロの方だってあまり美しくない方っているでしょう?そんな細かい所でも差が出るのがバレエなんです。

また、ついバレエのことにばかり捕らわれがちですが、一歩バレエの世界から出れば貴女には貴女が秀でていることが沢山あるはずです。だってバレエ上級者が子供の頃からレッスンに費やした時間を他の事に費やして、彼女達とは違う体験をしているのですから。どんな時間を過ごそうと丁寧に真剣に生きて来たのなら、その体験は必ず自分の「人としての厚み」に貢献しているはずです。自信を持ちましょうよ!本当に大切な物はバレエの技術ではなく「人柄」です。

多くの物事には二面性があります。例えば背が高く手足が長ければ美しくは見えますが、身体のコントロールは背の低い方より比較的難しくなります。背の低い方はコンパクトである分、速い動きに優位性が出ます。細かいアレグロの動きや速い回転は背の高い方より動き易いはずです。小気味よい印象的なアレグロを踊れるのは背の少し低めのテクニシャンなダンサーです。 またガリガリのダンサーは白鳥には向きますが、カルメン等のセクシーな役には色気が不足します。昔の画一的な審美性とは違い現在は多様性に富んだ新しい魅力が尊ばれる時代になりました。特にお稽古場が中心である素人バレエでは個性を大切にして、今の自分が一番きれいに見える方法を追及して行くべきだと私は思っています。

人生が本当に短いと実感するのは、年齢を経て「あとどれくらいバレエのレッスンをしていられるだろう」と思う時や、病気をした後に無事に生きていられる事へのありがたみを痛感したときではないでしょうか? たった1回切りの人生のとてもわずかな時間です。マイナスな感情にとらわれる事がどれほどもったいないことか!! 自分を幸せに出来るのは自分自身だけです。限られた時間をどんな気持ちで埋めたいですか? 不安や不満ではなく、幸せな気持ち充実した気持ちで人生の時間を埋めたいと私は思います。変えられない既に起きている物事はそれ自身にはあまり意味がなくて、自分がその事をどう受け止めてどう処理するかで、人生は変わります。自分から行動したり気持ちを切り替えたりしなければ、多くの物事は変わらないのですから。

つい"無い物ねだり"の感情になった時は、自分の良い所を考えて!楽しいことを考えましょう。貴重な時間を無駄に費やさないで下さいね!

PS.
努力すれば得られる物であれば、それは"無い物ねだり"ではないですからね!精進しませう!