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掲載日:2017/02/17
■ ‘かかと’は爪先ほどに物を云う

 足(足首から下)について先生から「爪先を伸ばしなさい!」と言われるのはバレエの最初の第1歩ですよね。次に足について言われるのは「土踏まずを引き上げなさい」か「踵(かかと)を前へ出しなさい」かな? 実は踵って足の美し〜い動きや形を作る為には爪先以上に重要な役割を担っている部分です。

「踵に意志がない!」「踵で表現して!」とは私が師匠達に言われて来た言葉。A師匠は現役時代に芸監(芸術監督)から「お前らの踵には色気がねぇ!」って言われたそうです。“踵の色気って何ぞや?・・・”。
“踵の意志”、“踵の表現”、“踵の色気”って、つまり踵の置き方のことを指しています。指先から指の付け根→土踏まずを通って柔らかく床を踏みしめる様とか、強く足裏をこすって前へ出すシャッセ、あるいは妖精のように上からふわりと置く様にとか。
例えば師匠から「ミルタの踵で!」なんて指示をされると、しっかりと強く踵を前へ出す使い方をしなくてはなりません。「ミルタのパ・ド・ブレ」(=細かく刻んで水平に静かに動くパ・ド・ブレ)はよく言うけれど「ミルタの踵」って、あんまり言わない。でもすぐにイメージできる良い比喩だと思います。

<ミルタの踵>
 “ミルタ”というのはバレエ作品「ジゼル」に出て来る、森の幽霊(ウィリー)の親玉。強い意志を持ち、深夜の森に迷い込んだ男達を踊り狂わせて死に至らしめてしまいます。下の写真がミルタ。

 長いスカートからのぞく足がとても印象的でしょう?長いスカートのロマンチック・チュチュって足首から下しか見えないから足の使い方がとっても重要で、爪先だらりなんて絶対に許されません。ウィリーやシルフィード、花のワルツやパ・ド・カトルなど、長いスカートを着る役は沢山あります。短いクラシック・チュチュでも、キトリのヴァリエーションの最後に出て来るパ・ド・シュバルや、前アチチュードの時など、踵の美しさが注目されますよね。

<ターンアウトは膝を引っ張ってから“廻す”>
 「踵を起こして!」「踵を前出して!」と先生方はよく注意をされますが、実はその前に絶対に意識して行わなければならない事があります。それは「膝を外へ廻す」こと! 当たり前のことでも本当に実践できていますか?自分はやっているつもりでも、更に大腿骨を骨盤から抜いて(膝を遠くへ引っ張って)膝を廻してみるともうひと捻り出来ることが良くあります。ここで大切なのは膝は“開く”のではなく“廻す”のです!

 足のターンアウトを促す為に先生方はよく踵を注意します。しかし膝より先に踵を出すように意識して動かしてしまうと、脚は膝などで捻じれてしまいがちで、その状態でジャンプや着地をしたら大きな怪我につながってしまいます。本来ターンアウトは脚の付け根から廻し始める意識が理想ですが、初級者さんにその意識はまだ身に付きません。ですので初級者さんには「ターンアウトをするにはまず膝を遠くへ引っ張って廻すこと」と考えて頂きたいと思います。但しお尻をギュッと締めて膝を廻すと今度は腿に無理が掛かってしまいますので、お尻の大きなお肉は意識しないでお尻の下の方の筋肉(ハムストリングの付け根ポイントや骨盤底筋、外旋六筋などと呼ばれる所)を“締める”というより“寄せて垂直に上げる”という感じで使って、膝を外側へ廻しましょう。膝を遠くへ引っ張る時には骨盤も一緒に引っ張られないように脚の付け根(あるいは腰骨など)をきちんと引いていて下さい。力学的にも付け根が固定されていないと膝を遠くへ引っ張ることは出来ません。お尻の尾骨を床へ向ける(骨盤を立てる)事をお忘れなく!

 膝を“開く”のではなく“廻す”というのは、膝を開こうとすると脚の前面(第1ポジションの時の脚の前面)だけを使いがちで、膝を廻そうとすると脚の両側面を使って更に膝が廻り易くなる為です。繰り返しますが、脚を廻そうとする時にお尻に力が入っていると脚は廻り難くなります。

 そして膝を廻した先にあるものが“かかと”です。ターンアウトでの踵の使い方は、踵の側面を意識することです。基本的には床に近い方の側面を意識して脚を廻して下さい。例えばドゥ・ヴァン(前)なら外くるぶし付近、デリエール(後ろ)なら内くるぶし付近、横のアラスゴンドの時は外くるぶし付近です。(アラスゴンドに脚を上げた時は脚が高く上がるほど脚が外旋して外くるぶしが内くるぶしよりも床に近い状態となります。その逆の状態になっているのであれば、それは脚が内側に廻ってしまっている証拠です。自分にとって脚の高さが高過ぎるか、脚を出す角度が真横過ぎることが考えられます。)

<前後横での“かかと”の使い方>
 ドゥ・ヴァン(前)の時には膝を廻して外くるぶし付近(下図:青線)を前へ押し出します。アダージォ等で上げた前脚を安定させる為には、外くるぶし付近の踵を空中に浮かぶ架空の板(下図:緑の線)の上に乗せているイメージで動くと上げた脚が安定します。上げた前足を下ろす時には内くるぶしが天井から吊り下げられて引っ張られているような感覚(下図:オレンジの点線)で下ろすと踵が爪先より前へ出て美しいラインになります。


デリエール(後)の時は膝を廻して内くるぶし付近(下図:ピンクの線)を後ろへ出す感覚で後ろ足を出します。上げた脚を空中で安定させる為には前と同じく、内くるぶし付近を空中の板(下図:緑の線)に乗せているイメージで動いたり、外くるぶしが天井から吊り下げられているような感覚(下図:オレンジの点線)で動くと後ろ脚が安定します。後ろ脚を下ろす時は、その空中の板を内くるぶし付近で押す感覚で脚を下すと踵が爪先より前へ出て美しいラインとなります。


<膝を廻せば踵は8割前へ出る、あとは2割の強さ>
 ここまで「ターンアウトにはまず(尾骨を下に向けて)お尻の力を抜いて膝を引っ張って廻せ!」と書いて来ました。踵を出す事ばかり考えてターンアウトをするよりはこの使い方の方がずっと安全に脚を廻すことが出来ます。しかし、それで美しい“ミルタの踵”が完成する訳ではありません。最後の一押しが必要!ここで初めて床上の踵の一押しが必要となります。爪先から踏みしめる時でも、足裏で床上を滑らせる時でも、最後にクイっと踵を前に押して床を踏みしめる強さが“ミルタの踵”を完成させます。この強さを体で感じて美しい踵の形を作って下さい。“色気のあるかかと”の為に Let's try!

(※脚はプリエをした時の方が膝も爪先も横へ開きます。自分のターンアウトの限界を意識せずに足を置いて膝を伸ばすと当然膝は捻じれて、きちんと立てなくなります。「限界を意識する」というのは“緩める”ということではなく、“立つ事が可能なギリギリの角度に踵を置いて、両脚のターンアウトでその状態を保つ”ということです。無理のない踵使いをして下さいね。)