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掲載日:2019/2/11
■ 「バレエと自信」

 「自信を持って踊りなさい」「自信を持って動きなさい」と先生から言われるように、バレエと“自信”は切っても切り離せぬ関係です。ここでいう“自信”とは「踊れる自信」「美しい表現が出来ている自信」という意味ですが、“自信”がなくて動き始めると大抵美しくも踊れませんし、技は失敗を繰り返したりします。これはスポーツ等の他のパフォーマンスについても共通の現象だと思います。「自分は出来る!」と思って技を行うことは、何よりの強力な“おまじない”なのです。

 多人数のバレエクラスでウォッチングをしていると、とても自信に満ち溢れている人と全く自信がないように見える人が居たりします。私自身も初めて参加するクラスでは慣れない先生のパに戸惑い萎縮したりすることもありますし、時には明らかに自分が一番下手なメンバーになってしまった経験等もあります。この時の気分は本当に「自分が情けない」一色になったりしてしまいます。人の性格はそれぞれですので、そんな気分にはなった事のない方もいらっしゃるでしょう。しかし多くの方が「自信を持てないタイミング」に遭遇した事があるのではないでしょうか?

 バレエという習い事に来る人達の中には自己表現欲の強い方も多かったりして、自分以外の皆さんがとても上手なダンサーのように感じてしまうことも多いです。更に競争意識の強い方もいますので威圧感がスゴかったり・・・(^^;)。バレエってね、一部“ハッタリ”の世界でもあるのですよ。

 例えばコンクールやオーディション、自信の無さそうな雰囲気の人は審査員から見向きもされません。何故ならバレエとは「踊りを人に見せる」つまり“発信する”パフォーマンスを行うものであるので、“発信できない”人は必要とされません。プロとして舞台に立ちたいならば「私を見て!」「私の表現を感じ取って!」という欲求が踊り手の中に必要だからです。

趣味の世界ではそんな欲求は必ずしも必須ではありませんのでマイペースでも構わないのですが、例えばセンターレッスンで横に並んだ時にやはり“発信している人”に目が行きますので、“発信している人”に多くの注意やアドバイスが先生から与えられがちです。本人がそれでも良ければ結構ですが、バレエでは“発信していない人”はやはり損なのです。

 “自信の表れ”ってまず単純に感じ取れるのは姿勢の印象からですよね。ベテランと初心者さんの一番の違いは姿勢と目線です。ベテラン族は胸筋が横に張れていて視線が(良い位置に)上がっているんです。逆に自信のなさそうな人って、猫背だったり下を向いてしまっていたり、他人ばかり見てしまう。(地味なベテランもいますけど) 胸筋の張りが物凄く大事だということはバレエを習得すればするほど実感して来ることなのですが、まだ感じられない方はとても“胸の張り”をおろそかにしてしまう。“胸の張り”は回転する時にも姿勢(バランス)を維持する時にもとても重要なアイテムです!!皆さん、上手に踊りたいならきちんと胸を“横に”張りましょう。但し「胸を張る」って、胸を「出す」ことではありませんからね。

役どころによっては老婆や絶望を表したりする場合に猫背になったりしますが、大抵の場合は皆さんが表現するのはお姫様やお貴族様、明るい村娘などです。そんな人達は猫背になって下を向いたりしませんよね? レッスンが始まったらもう姫の気分で動き始めましょう。センターでは周りを睥睨(へいげい)するように上から目線で踊って下さい。

センターレッスンで生徒さんがあまりにダラダラとしている時に、「姫として踊って下さい!」「この場では貴女が一番偉いと思って踊って!」と言っただけで、ガラリと雰囲気が変わります。くすぶっていた空気がムンムンと“発信する空気”に変わるんですよ。そして表現力が全然変わるの!これは技術が上手かどうかという問題ではなく、人間の「自分をコントロールする力」に起因するんです。イメージが人を動かし、発信する心が人を感動させるんです。(だからイメージって大切なんですってば!皆さん、ビデオ等で上手な演技を沢山観てね!)

 でも、心の底から自信100%の人って本当はどれほどいると思います?実際は殆どいません。逆に言えば、技術に100%の自信があったらその人はもうそれ以上伸びないの、自分に満足してしまっているから。バレエはどんな些細な動きでも完璧にこなすって難しい、素人であればまずありえない。先日現役プリンシパルの先生が「私、最近こうやって足を出す研究をしているのよ(足裏について)」とおっしゃっていて、それほど美しく動けているのにまだ探求を続けられる精神に感心しました。これこそ“バレエ人”ですよね。

 みんな自信が不充分の中で、演技する時は自信を持って、自信があるように自分に暗示して、動いているんです。「自信家で怖そうだなぁ〜」と思った相手が、スタジオ外では意外と普通だったりするものですよ。ですので皆さんも自信を持って演技をして下さい。

 「そんな簡単に自信なんて持てない」「だって私、下手なんだもん」「周りの人の眼が怖い」「笑われている気がする」「スタイル悪いから」・・・、みんな本音はそうなんだってば!!みんな自信は無いの。でもね、バレエのレッスンは基本的には自分と先生だけの世界なの。他人の眼なんて忘れていい!他人を感じなければいけないのは迷惑をかけないように位置や順番を守る事だけ。先生は注意はしますけど、それは貴女を上達させる為にしているの。その注意もその場で出来なければいけないことではなくて、その意識を持てるようになって欲しいだけ。そして貴女がいつか出来る様になることを教師は待っているんです。上達して欲しいから!上達して踊れる楽しみを全ての生徒さんに味わって欲しいから! だから先生の視線を恐れる必要はありません。先生にはすべてをさらけ出して、そして適切な注意を貰えるように“発信”をして下さい。

 先生に見てもらうために何も先頭に並ぶ必要なんてありません。何故なら日本の小さなスタジオでは先頭列って結構見え難いの。ワルツでも最初の組って俯瞰で見ていて、与えたアンシェヌマンがその場に適切だったかどうか、上手く動けているか、レベルはあっているか、先頭組がこなせるか、等も同時に見ています。先頭列って、鏡が見えたり、前に人が居ないので動き易かったりする利点はありますけれど、教師側から見ると、先頭組だから優先して見たりはしませんし、先頭組だから上手なんだとも全く思っていない。レッスンはオーディションとかではないですからね。ただ、できれば先頭組にはお手本になれる程度に動ける人が望ましいとは本音では思っています。ま、先生にもよるでしょうけれどね。 だから先頭争いなんて無駄なんだってば。(~o~)b (まあ、ワルツの時には前列にいたいとは思うかも知れませんが)個人注意が欲しければ2列目以降がおススメです。

 時々ね、自信をはき違えている人も確かに居ます。私の友人は何故か親しくもないある他人から、レッスンの度に注意をうけるらしい。注意をするその彼女の口癖は「大人から始めた人って」とか「バレエってそういうものだから」だそうですが、彼女の踊りを舞台で観ると、全くの初級者で爪先さえも伸びていない。どう見ても他人を指導するレベルでないんですよね。本人は良かれと思ってしていても相手には迷惑なだけです。そんな人間にはならないように時々は自分の事を外側から考えましょう。時にはビデオで自分の踊りも観ましょうね。

 最後に、もしレッスンについて行けなくて自信が持てないのならば、おそらく自分にクラスのレベルが合っていないのだと思います。少しレベルを落としたクラスを受けてみて、出来るクラスに参加する事が自信につながって行きますよ。確かに上級クラスの方が行うパの数や難易度が上がってお得のように思えるかも知れませんが、自分に合っていないレベルのクラスを受け続けるのは百害あって一利なし! 自分にとって出来ることばかりやっていても上達しませんが(それでも更なる基本の追求は大切ですよ)、少し難しい程度なら良いですが、あまりに出来ないパばかりのクラスでは、自分にとっては意味がないどころか、悪い癖ばかりつきます。軸の傾いた回転を何回転出来ても、出っ尻で脚を高く上げても美しくはないんですよ。自分を外から見て冷静に判断する力も上達には必要であることをお忘れなく!自分に出来る事を少しづつ着実に積み重ねて高めていった方が、ずっと美しく踊れるようになります。

 「自信を持って踊る」ことはとても美しいことです。しかし、「自信を持つ事」と「慢心する事」とは違います。どのレベルになっても謙虚に自分を見つめて必要に応じて変えて行くことが上達への確かな道なのです。

さあ、しっかりと胸を張って自信を持って踊りましょう!