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掲載日:2019/07/13
■ 「裏腿の長さ足りてますか?」

 脚のストレッチはレッスン前などに必ず行われるような準備運動ですが、皆さん前腿のストレッチは熱心に行いますが、裏腿のストレッチは意外と正確に伸ばせていない方も多いようです。裏腿が充分に伸びないと脚が上がらないだけではなくターンアウトも制限されて来ます。今回は裏腿について考えてみましょう!

 「裏腿」はバレエを踊る際に常に意識しなくてはならない部位で、脚の動きの要ともなるところです。第1ポジションでは中心で向き合うような配置となる箇所で、「内腿」とも呼ばれます。ご存じの通り裏腿には“ハムストリング”と呼ばれる筋肉群があって、膝を曲げたり、プリエや着地で踏ん張ったり、内腿の引き上げをキープしたり、前屈から直立へ戻してくれたり、と働きは様々です。

改めてハムストリングの図を見てみて下さい。

<ハムストリング>
 ハムストリングは骨盤の座骨(ピンクの丸)から、膝下までつながっている3つの筋肉群(大腿二頭筋:、半腱様筋:、半膜様筋:)の呼び名です。骨盤と膝下をつないでいるので、この筋肉が縮まると膝が曲がるという構造は理解できますよね?

この中の大腿二頭筋(青色の筋肉)は腿をターンアウト(外旋)させることに一役買っています。“ターンアウトさせる”というより“ターンアウトをキープする”と言った方が適しているかも知れません。(ちなみに他の2つの筋肉はターンイン(内旋)させる動きもしますが今はあまり考えなくて良いです。)

 ハムストリングは身体の中でもとても大きい筋肉の部類に入ります。ですので年齢と共にとても硬くなり易いですし、普段あまり膝を完全に伸ばす習慣のない人では長さが短くなっている場合もあります。しかし私達はこのハムストリングをとても長く保たなくてはなりません。


 左の図は後ろから見た第1ポジションです。

 ここで、脚をターンアウトさせた時のハムストリングの状態を考えてみて下さい。通常のパラレル・ポジションでのハムストリングは座骨から床へ真っ直ぐ伸びている(青い線)だけですが、ターンアウトをさせる事によって座骨からより内側へと引っ張られて、伸ばされる(赤い矢印)ことが解ります。

両脚を交差させる第5ポジションでは更に伸ばされます。


 バレエ・ダンサーを目指すジュニアやプロのバレリーナはこの筋肉を伸ばし過ぎる傾向がありますが、私達素人バレリーナでは逆に長さが足りない方も多いようです。ストレッチをする際、床に座って両脚を伸ばして前屈する“長座”や、スプリッツなどの開脚ストレッチであたかもハムストリングを伸ばしているつもりでも、きちんと伸ばすべき個所を感じながら行わないと、他の部分ばかりが伸びている結果となってしまいます。長座では完全に膝が伸びていないと腰を伸ばすばかりになりますし、スプリッツでは腰が開き気味になって正確に筋肉が伸びてくれません。

ここで、伸ばさなければいけないのは、あくまでも「座骨から膝下までのライン」です!

ハムストリングを伸ばしたいなら、“長座屈伸”や“スプリッツ(開脚)”より確実にハムストリング部分を伸ばしてくれるストレッチを行いましょう。

<ハムストリングのストレッチ>
 ストレッチは必ずリラックスした状態で息を吐きながら行います。また、レッスン前には強いストレッチは行ってはいけません。レッスン後や夜の時間など、身体が温まっている時に時間を掛けてゆっくり行いましょう。

【No.1】
 床で伸ばしたい方の脚を前へ伸ばして足首をフレックスにして下さい。もう片方の脚で膝立ちをして身体を支えます。膝立ちしている方の腿は出来るだけ床と垂直の角度になるように。まずはパラレルで行います。

前脚の踵の位置はずらさないようにして、上半身を前屈して行きます。伸ばすのは赤いラインのハムストリングです。 腰を丸めてしまうと座骨と膝の距離が縮まってしまい筋肉が伸びませんので腰は伸ばした状態で。手が床に届かない方は手の下に本や台などを置いてもかまいません。

膝が緩む方は片手で膝を押して下さい。但し!膝裏が感覚的に直線になる程度までです。膝を上から強く押し込んではいけません!

足首はフレックスにしたまま、前脚の膝を太腿からターンアウトさせた姿勢でも前屈を行って下さい。


【No.2】
 床に仰向けに寝て、両方のお尻を床に付けたままで、片脚を段々と顔に近づけて行きます。両膝は伸ばしたまま、足首は最初はフレックスで行い、次に伸ばした状態でも行います。

上げた脚側のお尻が床から浮かないように、脚を遠くへ引っ張ります。ここでは脚の高さは関係ありません。目的はあくまで裏腿を伸ばす事ですので、骨盤が左右に傾かないように両腰骨は頭から均等の位置に置きます。

 膝をしっかりと直線的に伸ばします。手で膝を押しても良いですが、膝裏を直線以上に伸ばさないようにして下さい。

腰が丸まっていると裏腿がよく伸びません。腰は伸ばして行って下さい。

パラレルで行った後にターンアウトにして同じように行って下さい。


 他にもバーに片足を掛けて行うポピュラーなストレッチもありますが、大事な事は伸ばしたい箇所を強く感じて行う事、筋肉の片側を固定して行うこと、膝をしっかり伸ばして行うこと、です。

初級者さんの場合は膝を伸ばしているつもりでも実際には伸ばし方が不充分な場合が多いです。しっかりと膝を伸ばした状態でハムストリングのストレッチを行って下さい。


<ハムストリングのエクササイズ>
 筋肉はただ伸ばしただけでは質の良い筋肉を育てることは出来ません。バレエ向きの筋肉は、伸び縮みが大きく、力を入れていない時には柔らかで、長く使い続けても疲れ難い性質を持っています。スポーツジム等で強い負荷を掛け膝を曲げる訓練ばかりするよりも、負荷の少ない運動を呼吸をしながら繰り返し行うことで柔らかい耐久性の良い筋肉に育ちます。筋肉を上手にトレーニングすることで、バレエ向きの良い筋肉を手に入れましょう!

但し、バレエ向きの筋肉を作るにはもちろんレッスンが一番です。いくら一生懸命ストレッチや筋トレをしても踊れるようにはなりません。ストレッチや筋トレはあくまでもレッスンで上達する為のサポートであると考えて下さいね!


【No.1】
※このエクササイズは以前記述した「シシャモ足 と 乗馬ズボン脚」という記事でご紹介したものと同じものです。

 床に横になり両脚の膝を立てます。膝の間は閉じて行いますがエクササイズ・ボール等を挟みながら行っても構いません。息を履きながら下腹を床へ向かわせた後、頭の方へ引き上げます。(腹筋のドローイン)

 一度息を吸い、吐きながら、下腹筋に力を入れたまま、胸から膝までが一直線になるように下腹から上半身を上げます。(ロールアップ)前腿やふくらはぎ、お尻の力はなるべく使わずに裏腿の力でキープするように意識します。

呼吸をしながら、踵をゆっくりと上げて下さい。裏腿の力でしばらくキープしたら、息を吐きながら、胸から上半身を床へ戻して下さい。(ロールダウン)
※既にふくらはぎが発達し過ぎている方は踵は上げずに、片脚を伸ばしたりして強度を上げて下さい。

以上を繰り返します。

【No.2】
 ハムストリングはプリエの時などに威力を発揮しますが、アラベスクなど、後ろに脚を上げる時も大殿筋と一緒に活躍する筋肉です。呼吸をしながらしっかりとキープ出来る様になりましょう!

 床にうつぶせになります。額の下に手や丸めたタオル等をおいて首はまっすぐに伸ばした状態で行います。
息を吸って、息を吐きながら下腹を背中の方へ向かわせた後、頭の方へ引き上げます。(下向き腹筋のドローイン)

 下腹筋に力を入れたまま、一度息を吸い吐きながら、両腰骨は床に付けたまま、片脚を伸ばしたまま裏腿の力で少しだけ床から上げます。骨盤が傾いていないので後ろに上がる角度は多くても15度程度。ここでは高く上げる必要はありません。

呼吸をしながら裏腿の力でキープして下さい(ゆっくりと5〜8カウント程度)。前腿の力や腰の力で行わないように充分注意をして行って下さい。息を吐きながら元へ戻します。

以上を繰り返して下さい。下腹筋は力を入れたままで行うこと。

肩の力は抜きましょう。脚は遠くへ伸ばすようにして行います。パラレルと軽いターンアウトの両方のポジションでそれぞれ繰り返して行いますが、両脚は重ねることなく1番ポジションの位置で真っ直ぐ上に片脚を上げます。足首を強く伸ばすとふくらはぎを使いがちになります。足首は少し緩めても大丈夫です。

ポイントは、裏腿の力で上げ下げを行い、裏腿の力でキープすること!

負荷を増やしたい時は、脚を下した時に完全に床までつけずに、脚を浮かしたまま行います。但し!あくまでも裏腿を感じながら前腿を強く使わないように注意して下さい。


 今回ご紹介する裏腿(=ハムストリング)のエクササイズは以上です。他にもエクササイズは色々ありますが、骨盤の向きや力の入れる箇所などを間違えると違う筋肉を鍛えてしまう結果となりますので、ご注意下さい。

たったこれだけのエクササイズですが、しっかり行うと大分動きの助けになると思います。例えば脚が上がらない原因は「関節が硬い」だけはなく、「上げ方が悪い」とか「筋力が足りない」とか「体幹が弱い」とか、色々な原因があります。バレエは全身を使う運動ですので全身を自由に動かせるようにならなくてはなりません。今回はハムストリングについて記述しましたが、他にも様々な部位を自分で研究して鍛えて下さい。但し、無理に強く行い過ぎて筋肉を肥大化させないようにしましょう。


<余談:膝を伸ばし過ぎない>
 先程繰り返し「膝を伸ばし過ぎない!」と書きましたが、バレエでは膝を伸ばした時の形が直線より更に膝裏側に湾曲している形が好まれる傾向があります。「反張膝」「バレエでのX脚(一般で言うX脚とは違います)などと呼ばれる形です。この件についてはいつか記事にしたいと考えていますが、「反張膝」は百害あって一利しかない、という事実を忘れないで下さい。この一利とは単なる見た目だけです。

この反張膝にする為に、前後開脚をする際に前脚の踵の下に本などを置いて膝を上から押し込む訓練をさせていた時代があります。今でも行っているプロ志望の女の子は多いです。しかし絶対にそのようなストレッチは行ってはいけません。反張膝であるということは見た目以外はとても不利な身体条件になるという事なのです。

考えてみて下さい。しっかりと片脚で床に立つ時に、湾曲している軸脚と直線の軸足とどちらが強いと思いますか?片脚で回転する時に軸となる脚が湾曲している場合と真っ直ぐな直線である場合と、どちらが重心がブレないと思いますか?

「反張膝でないとプロになれない、プリマになれない」、と誤解している子供がどれほどいることか!

世界のトップ・プロの中でも反張膝である人の方がずっと少ないです。審美眼に優れたディレクター達に美脚と言われた脚の持ち主の多くは反張膝ではありません。(例えばジジ・ジャンメール!真っ直ぐな膝でも前腿とふくらはぎに筋肉が付いていますから反張膝のように見えますが、強い反張膝の場合は膝が脚の付け根より大きく後ろに出ます。オーレリー・デュポンも反張膝ではないですよね、それっぽいけど多分。ギエムは反張膝。)

生まれつき反張膝を持つ児童はいます。その子には逆に伸ばし過ぎない指導をしなくてはなりません。なぜなら反張膝は(特に高齢になってから) 湾曲が進行するんです。膝裏の靭帯に頼った立ち方をするので、正しい筋肉がつきづらくなります。このような児童には意識して正しい筋肉をつけさせる必要があります。(例えば軸脚として使う時は膝裏を直線以上に伸ばさない等)

確かに一般のバレエの価値観では反張膝は未だに好まれています。しかしダンサーにとって一番大切なことは「脚が湾曲しているかどうか」ではなく「どう踊るか」です。素晴らしいパフォーマンス、素晴らしい感情表現の前には、膝の形など何の意味もありません。

特に私達素人には全く必要のない特徴だと言えます。高齢になってもバレエを続けられ、旅行にも行けて、トイレにも問題なく行ける、そんなハッピーな生活を続けるには自分で自分を守ってあげるしかありません。無理なストレッチなど絶対にしないで下さいね!