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掲載日:2021/04/18
■ 「空間を支配する」

 ご無沙汰しております、体調不良により記事が遅くなってしまいました。誠に申し訳ございません。m(_ _;)m
無理が出来ない年齢になった為、パソコン前に長時間座っていることが難しくなって参りました。お待ち下さっていた方々には 本当にごめんなさい。
フェッテ・アラベスクについての記事を書く予定でしたが、技術についての記事は作成に大変時間と手間と気力が必要なため、 今回は私のおしゃべり記事に変更となってしまいました。お許し下さいませ。
フェッテ・アラベスクの記事は作成中ですので、いずれ必ず掲載しますのでお待ち下さいね。

 さて今回の話題ですが、「空間を支配する」という言葉、こんな言葉を先生から言われたことはないでしょうか?

人によって受け止め方は色々あると思います。私の感覚では「大きく踊る」「オーラを出して踊る」「お客様を意識して踊る」、このようなイメージで受け止めています。

最近は大人の生徒さんでも舞台でソロを踊れる機会が増えて来ました。舞台でソロを踊るという事は、“舞台の空間と空気を自分一人で支配する”という事に他なりません。

観客に注目してもらえるように自信を持って登場し、雰囲気を出してプレパレーションのポーズを取る。

この最初の一連の動きがどれほど大切なことであるかを、先生方はよく知っています。私の師匠はコンクールに出る時にこの部分だけ嫌と言うほど今は亡き大御所先生に練習させられたそうです。「そんな雰囲気では誰も見る気にならない」と何度もやり直しをさせられて、時には殆ど踊りの練習をさせて頂けなかったほどだそうです。
しかしプロとなりソリストとなり指導者となって、その大切さを痛感しているそうです。もちろん踊りの内容が一番大切です。しかし観客に最初に「見たい!」と思わせないと、その後どれほど丁寧に踊ってもしっかりは見てもらえないのです。
今でも「コンクールは出が命!」という言葉があるくらいです。

「空間を支配する」「オーラを出して登場する」これらの一番良いお手本はフィギュアスケートの羽生結弦さんです!彼の登場を思い描けば、私の言うこれらの事を感覚的に理解して頂けるのではないでしょうか?リンクに登場した途端、空気が張り詰め、誰もが注目する。彼が動くと光を放つようなオーラを感じます。

さて、そんなオーラをどうやって身に付けるのか?

まず皆さんに意識して欲しいのは「大きく踊る」という点です。

「そんなことは十分わかってますよ!」と言われそうですが、皆さん、スタジオの広さを限界まで使えてますか?

日本のスタジオはバレエの舞台より小さいスペースであることが多いです。なのに、例えばセンターレッスンのグラン・ワルツで対角線に進んだ時など、スタジオの角まで使えていない生徒さんが大変多いです。グラン・ワルツでスタジオの角まで来れないのはスタジオを使いきれていないということですよ!

もちろん自分の前に人がいて進めないということもありますが、でしたら時々は前列に並んでスタジオの角に向かって進んでみましょう!また、広さに合わせて踊るという事も大切ですが、小さいスタジオで慣れてしまうと、いきなり舞台で大きく進むことは出来ません。時には貸しスタジオ等で自習をするとか、広いスタジオのオープンクラスに参加するとか、大きな空間で練習出来る機会を自分で作ってみて下さい。

「大きく動ける」これは自分の踊りを上手に見せる大切な手法のひとつです!

本来、多くのグラン・ワルツの振付けはスタジオいっぱいを使うように振付けられています。そうして脚力を強化させるのですが、初級者の皆さんは真ん中や2/3の位置までしか進めていません。ちまちまと進んでポーズを取って自己満足してしまっているんです!そんな踊りは誰も美しいと思いません。普段のレッスンで出来ない事は舞台でも絶対に出来ませんからね!

例えば、“トンべ→パドブレ→グリッサード”という動きがありますが、初級者と上級者の移動範囲は全然違います。
上級者はまるで水平に跳んでいくように大きく移動するんです。最初のトンべから身体を引き上げて大きく進み、パドブレは細かく、しかし最後の踏切りは大きく、グリッサードは綺麗な大の字で空間上を横滑りしていくような(実際は進む方向によって角度は変わります)、そんな動き方をします。

(余談になりますが、グリッサードという動きはどこに組み入れられるかによってかなり大きさや高さや表情が変わります。この場合のグリッサードは低めに水平に移動するグリッサードです。高すぎると次のビッグ・ジャンプが大きく見えないので、例外はありますが低めに水平移動することを心掛けて下さい。そして進む方向は色々ですが、必ず“手足や爪先を伸ばした美しい大の字で跳ぶこと!”これが、上手に見せる大切なコツです!低く跳んでいても身体はしっかり上へ引き上げます。引き上げる事で美しい大の字が作れるのです。そして両脚もしっかり横へ張って下さいね! ここで引き上げないと次のビッグ・ジャンプを高く美しく跳べません。)

せっかくの広い空間があるのですから、しっかりと広く使いきって脚力をつけましょう!


 さて、「大きく踊る」というのは移動する時だけではありません。
タンデュに足を出した時、腕を動かした時、“ギリギリまで遠くを通る”という努力は続けていますか?

大きく腕を動かせる人と短く腕を動かす人、常に遠くへ引っ張りながら足をへ出す人と手近に足を出す人では、支配する空間の広さが全く違います。大きく動かせる人は身体の廻りにその人のオーラの光や余韻が見えるような雰囲気を醸し出します!

「大きく動く」ってね、ただ手足を大きく動かしても相手には感じてもらえないんです。それはもう本人の表現の範囲になるんです。腕をさっさとただ動かしたのでは空気が感じられないの。でもそこで、まるで腕で水をかくように、指先から光線を出すように、顔や身体から感情が伝わってくるように、独特の雰囲気を出す事が出来たら、初めて観客はその空気を感じてくれるのです。

「空間を支配する」ってそういうことなんです。

それらは個人のセンスの問題でもありますが、美しいバレリーナの動き見て、その動きをまるで自分の中に取り込むようなイメージで動いてみる事で、段々身に付いて来るものでもあります。努力次第で表現力ってついてくるのです!


 最後に「観客を意識して踊る」という“技術”があります。 自信のない方、内気な方など、舞台で観客のことを全く意識しないで踊ってしまう方がいます。自分が意識しなければ相手も意識をしてくれません。たとえマイムなどが無くても、そこに観客はいて貴女の踊りをみてくれています。自分の意識もしっかり観客に向けて、観客が一番美しいと思える姿を一番美しいと思える角度でアピールして下さい。舞台から観客席まで貴女のオーラが届くように華やかに踊って下さい。それはきっと観客まで伝わります。同じ空間に居るのですから。

バレエという舞踊は原則的には“人に見せる舞踊”です。他人に見せないなら美しく踊る必要はないのです。スタジオにしろ舞台にしろ、バレエを踊るということは、“美を求めて鍛錬し、美を身体で表現すること”です。
皆様、美を求めて追及して行きましょう! o(^^)o


(余談:私ごとの余談になって恐縮ですが、以前も書いた通り私は跳ぶことが大得意でした。脚力があるので移動も大きく出来ました。「どうやったらそんなに跳べるの?」と聞かれたことがありますが、正直判りません。ただ、思い当たると言えば…、私は中学と高校でダンス部に所属していたんです。ダンス部といっても創作ダンス部で今でいうコンテンポラリーダンスです。基礎はほとんどバレエと一緒でした。昔の時代ですから超スポ根です!朝練やって昼のわずかな時間も練習して下校時間ぎりぎりまで毎日踊らされる生活でした。その後バレエのレッスンに行っていたのですから驚きの体力です。バレエの先生は部活を歓迎していなかったので(「コンテンポラリーはクラシックのスタイルを崩す」と言われていました。そんなこと今では考えられないですよねぇ。)、スタジオに行くといつも小言を言われる前に超スピードで着替えてバーについていました。
ごめんなさい、話がズレました(^^;)。
それで、私はずっと学校の講堂や体育館でレッスンをしていたのです。ひろ〜い場所で。そんな所で角から角までグラン・ジャンプの連続とか、延々と続くマネージュの基礎を、現役ダンサーの鬼コーチに徹底的にやらされていたので脚力がついたのだと思います。通常のバレエスタジオでは中々得られない経験でしたね。何が言いたいかと言うと、脚力をつけるにはエクササイズも有効ですが、やはり広い所で練習することです。高い天井であるほど高く跳ぶ意識が付きます。中々環境的に難しいとは思いますが、出来るだけ広いスタジオでのレッスンも行ってみて下さい。)