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掲載日:2018/3/20
■ 「その膝痛、本当に関節の変形?」

 バレエを続けていると時々膝に痛みが発生する時があります。レッスンで人と話をしていてもよく「膝が痛い」という話になり、「もう軟骨がすり減っているんだと思う」なんて言葉を耳にします。
一般的に中高年に発症の多い“変形性膝関節症”はその名の通り、膝の関節の中の軟骨や靭帯などの変形によって軟骨が擦れたり当たったりして痛みを伴う疾患です。人間は身体を使い続けていればガタが来るもので、関節の形が変わって来てしまうことがあるのは納得なのですが、そんなに多くの人が、それも更年期前から発症するものなのでしょうか?

膝の痛みを訴える人に「整形外科へ行った?」「レントゲン撮ってみた?」と聞いても、余程痛くないと中々行かないですし、行ったとしても完全に変形性膝関節症だと診断される人は結構少ないです。せいぜい「その気配がある」程度?
では何故、膝が痛いのでしょう?

 膝の構造は体の中でも特に複雑で、痛みを感じるのには実に様々な原因があります。関節包や靭帯の損傷などの深刻な症状は除き、結構よくある原因に「太腿の筋肉が硬い」「太腿の筋肉が弱い」という現象があります。これらの現象の人は、太腿のマッサージとバー・レッスンでの意識を変える事によってかなり軽減することが多いようです。今回は膝痛を感じた時にまずやってみて頂きたいマッサージの箇所やバレエで意識して欲しい筋肉の使い方などのお話をしますね。

 まずは膝の構造について見てみましょう。膝の構造ってこんな感じ。

こちらのサイトより絵を転載させて頂いております。

次に膝と太腿の筋肉の関係を見てみましょう。

<前腿筋=大腿四頭筋と膝>

 左の図は膝を前から見た図です。緑の部分が膝の前についている膝蓋骨(シツガイコツ)=“お皿”を示しています。

図の赤い所“大腿直筋”(ダイタイチョッキン)や“外側・内側広筋”(ガイソク・ナイソク コウキン)は前腿の“大腿四頭筋”と呼ばれる筋肉群です。よく先生から「使い過ぎるな!大きくするな!」と注意される場所ですね。

この中の“大腿直筋”は膝のお皿とダイレクトにつながっています。ですので、この“大腿直筋”が硬くなるとお皿が引っ張られて位置が悪くなり、痛みを発生させるようになるのです。

(※“内側広筋”膝を伸ばし切る時に最後まで使われる筋肉ですが、通常の生活では中々使わない筋肉ですぐに弱くなります。O脚や反張膝(バレエでのX脚)の方は尚更この筋肉が弱くなりがちになります。軸脚ではハムストリングを引き上げ、お皿が少し引き上がるような感覚になるまで大腿四頭筋にも力を入れて、しっかりと膝をまっすぐに伸ばして下さい。膝は表から押し込めるように伸ばすのではなく、膝裏を伸ばすこと!)


<外腿筋=大腿筋膜張筋・腸脛靭帯と膝>
他にも硬くなると膝に痛みを発生させる筋肉があります。それは腿の外側に付いている“大腿筋膜張筋”(ダイタイキンマクチョウキン)といいます。

左側の図は脚を横から見た図です。

緑の部分“大腿筋膜張筋”という筋肉で、長いオレンジの部分は靭帯で“腸脛靭帯”(チョウケイジンタイ)という非常に強い靭帯です。この靭帯が無いと人は立っていられないほど。

“大腿筋膜張筋”はよく「ズボンの横ポケットの位置にある筋肉」等と言われ、“腸脛靭帯”にくっ付いているので“大腿筋膜張筋”が硬くなると“腸脛靭帯”を引っ張ります。“腸脛靭帯”はとても長い靭帯で骨盤から膝下までつながっているので、引っ張られると膝のお皿を外側へ引っ張ってしまうのです。それで膝が痛くなる。

“大腿筋膜張筋”や“腸脛靭帯”が硬くなると膝が痛くなるというのはダンス解剖学ではアリアリのお話で、“大腿筋膜張筋”はバレエではあまり使わない方が良い筋肉なのですが、結構使われちゃうのです特に大人素人では。

この“大腿筋膜張筋”は硬くなり易くて、一旦硬く育ってしまうとほぐすことがとても難しい筋肉です。そして肥大する筋肉でもあるので見た目が不恰好になる!!よく“乗馬ズボン脚”なんて言いますが、上記の“大腿四頭筋”以外にこの“大腿筋膜張筋”が太くなっても脚が乗馬ズボンのような形になります。

“大腿筋膜張筋”と“腸脛靭帯”はバレエ以外でも、長く座って仕事をする人、特に脚を組んだり、あぐらのような恰好を長くする人はこの部分に負担が掛かり大きくなったり硬くなったりしてしまいます。なるべく気を付けて柔らかく保ちたいものですね。

<硬い筋肉をほぐす>
 自宅で硬くなった筋肉をほぐす為に私がお勧めしたいのは、やはりストレッチとマッサージ・ボールグリッドフォームローラーによるマッサージです。これらのマッサージのやり方は、「筋肉をほぐす」というページの一番下の方に書いてありますので、参照して下さい。グリッドフォームローラーは公式ページに使い方が詳しく載っています。但し、かなり硬くなった筋肉の場合はローラーよりも(痛いですが)ボールによるマッサージの方がダイレクトにほぐせるそうです。あまりやり過ぎても逆効果ですので毎日少しづつ行いましょう!

マッサージが終わったら、前腿を伸ばしたり、下記のようなストレッチで脚の外側を伸ばしてみて下さい。ストレッチの方法は他にもネットで「大腿筋膜張筋 ストレッチ」などのワードで検索が出来ます。身体に合ったストレッチ方法を探してみましょう。

 仰向けになり、片脚を曲げて膝を床へ付けるように反対側の手で押さえます。もう片方の腕は真横に伸ばし(肘を曲げていても大丈夫)、両肩が床から離れないようにして下さい。頭も曲げた脚とは逆側へ向けます。図では異なっていますが、曲げる脚の踵を膝やすねに付けるようにしてみましょう。伸ばす部分はお尻の横や裏側です。骨盤の方向に注意して下さい。

<筋肉を硬くしない為には>
 筋肉が硬くなる原因は、同じ姿勢を保ち続けた為に硬くなる場合と、強度の容量を超えて使い過ぎた時に起こります。どちらも筋肉が必要な強さになっていないという事が原因なのですが、筋肉に不要に負荷を掛け過ぎるという事も原因の一つとなります。

 残念ながら、筋肉って一旦ほぐして柔らかくなってもすぐにまた硬くなります。特に朝起きた時には寝る前より硬くなっていることも多いですね。筋肉が硬くなるのは身体を保護しようとしているから。なので、根気良くほぐし続けて「柔らかくなっても大丈夫だ」という事を教えてあげなければなりません。すぐに元に戻ってしまっても諦めずに間を空けながら(やり過ぎない程度に)繰り返しほぐしてみて下さい。但し!中にはほぐしてはいけない身体を持つ人も居ます。例えば、腰にヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患のある方などは、硬くなった筋肉で身体を支えているので、そのコリを取ってしまうと立てなくなってしまったりするのです。そのような人は自分の身体を良く知って按配(あんばい)を把握して下さい。

 太腿の筋肉が膝痛に影響するというお話はご理解頂けましたか?では次はどのように鍛えて行けば良いのかを考えましょう。

<大腿四頭筋とハムストリングの関係>
 まず前腿の“大腿四頭筋”は使い過ぎて肥大させたくない筋肉ではありますが、ちきんときたえるべき筋肉でもあります。大腿四頭筋は本来は膝を伸ばしたり、脚や膝を床から上げる時に使われる筋肉で、通常のレッスンできちんと鍛えられるはずです。なので、使い過ぎの心配をしましょう。

この筋肉をサポートするのは脚の後ろ側の“ハムストリング”で、大腿四頭筋を大きくし過ぎない為には、この後ろ腿筋のハムストリングを強くしてあげる事が重要なんです。このハムストリング、一番ポジションの時に脚の内側となる筋肉だという事はご存知ですね?つまり先生方が言う「内腿」とはこのハムストリングのこと。


ハムストリングは大腿四頭筋とは逆の動きをしますので、本来は膝を曲げたり股関節を伸ばしたりするのが主な役割なのですが、実はそれ以外にも脚をターンインするのを助けたり、伸ばした膝やターンアウトした脚をキープする役割も持っていて、他にも脚を上げる時のサポートも行います。つまり前腿(大腿四頭筋)に仕事をさせ過ぎない為には後ろ腿(ハムストリング)を鍛えてあげれば良いんですね。

 では「ハムストリング」を鍛えよう!と思って鍛え方を調べると、その多くはパラレルで膝を曲げたり伸ばしたりする運動ばかり。これではバレエでターンアウトしてハムストリングを使う時の感覚とはあまりに違います。結局バレエでのハムストリングの使い方は、バーレッスン等で鍛えることが一番の早道なのです。但し!ハムストリングの存在をきちんと感じられる状態で使えなければ、結果として大腿四頭筋を鍛えてしまうという事にもなります。一旦ターンアウトでのハムストリングの感覚を知ってしまえば、その感覚を感じながら動かせば良いので、まずはその感覚を習得することが大切です。

 ハムストリングを使う感覚は中々習得するのが難しいのですが、ご参考までに下記のエクササイズを試してみて下さい。

床で仰向けになり第1ポジションを作ります。片脚の爪先から土踏まずにかけてエクササイズ・バンドを引っ掛け、バンドの両端を逆側の手で持って下さい。最初はルティレくらいの位置まで膝を曲げます。下腹に力を入れ、エクササイズ・バンドを足指の腹で押しながらハムストリング(赤い部分)の力で第1ポジションに戻る様に膝をゆっくり伸ばして行きます。膝を伸ばしたらまた曲げて、その動作を繰り返してハムストリングの感覚を育てます。ここでとても大切なポイントは、足の指は握らずに伸ばした状態でバンドを指の腹で押す事です。人によっては、まずはその訓練の方が先かも知れません。肩に力は入らないように!



<大腿筋膜張筋と内転筋>
 もう一つの使い過ぎたくない筋肉“大腿筋膜張筋”は、バレエでは片脚で立った時に軸脚側の骨盤を安定させる為に使われる事が多いです。しかし骨盤を安定させる筋肉は他にも殿筋や下腹筋(腸腰筋)など様々ありますので、そちらを働かせて、大腿筋膜張筋にはあまり負担を掛けないようにします。また大腿筋膜張筋が強いと脚をドゥバン(前)に上げた時にターンインし易くなりますので注意が必要ですよ。




 大腿筋膜張筋の反対に位置するのは、内腿の“内転筋”です。内転筋の主な働きは、脚を中心へ閉じる(内転する)ことですので、バレエでは第5ポジションを保つ時やタンジュから脚を閉じる時などに使われます。そして他にもハムストリングと一緒に働いて大腿筋膜張筋のように軸脚を安定させる作用があります。
従って、内転筋やハムストリングの力が弱いと、脚の外側に頼って立ってしまい大腿筋膜張筋を使い過ぎてしまう結果となるのです。更に骨盤が横に傾いていても軸脚側の大腿筋膜張筋に負担が掛かります。軸脚の外側に寄りかかって脚を動かしていませんか?

 内転筋のエクササイズは「怠け者でも筋トレはできる」のページで1つご紹介していますが、椅子に座って膝の間にボールなどを挟んで締め続ける等のエクササイズなど様々あります。内転筋はパラレルの状態で鍛えてもターンアウトした時にしっかり働いてくれるので、パラレルで訓練して大丈夫です。パラレルの方が鍛え易いですしね!

<まとめ>
 要するに「大腿四頭筋や大腿筋膜張筋が硬くなると膝が痛くなり易いので、よくほぐして、使い過ぎないようにそれらのサポート筋肉である内転筋とハムストリングを鍛えましょう!」という話です。
バレエの動きではこの2つの筋肉は一緒に鍛え易いんです。バレエで使う筋肉はバーレッスン等で鍛えることが一番良い方法ではあります。ただ、大人素人では中々十分なレッスンが出来ません。その補助として自宅で筋トレなどを行うと良いと思います。

 内転筋は脚を閉じる役割、ハムストリング(大腿二頭筋)は閉じてターンアウトした脚をキープする役割があります。バーレッスンでは付け根ポイント(座骨=ハムストリングの付け根)を引き上げ、しっかりハムストリングを伸ばす力も強くしましょう!軸脚の外側に寄り掛かったりしないように。もちろん、無理なターンアウトで膝を大きく捻ったりしてはいけません。ターンアウトは爪先を開くのではなく、膝を外側に向ける意識で行いましょう。


 脚の筋肉で大切なことは強さのバランスです。お互い反対の作用をする“拮抗筋”が同じ強さである必要はありませんが、あまりに片方に負け続けてしまうようですと、そのバランスの悪さを補うために人間は他の様々な方法で動きを実現しようとします。バレエの理想は「必要な量の筋肉だけをつけること!」、常に色々な筋肉にフォーカスを当てて訓練して下さい。

 膝が痛くなり始めたら早期にまず太腿の筋肉全般をほぐしてみて下さい。痛みが強かったり、長く痛いようなら、すぐに整形外科を受診しましょう。治療院はその後ね!
早期発見!早期治療!が何よりです。

※ “大腿四頭筋”は意外とベテランの方に不足気味の方がいます。ハムストリングばかりに頼らず大腿四頭筋も上手に鍛えましょう!

※ 太腿周りの筋肉のターンアウトした状態での働き方については、まだ明確にならない部分も多いそうです。