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掲載日:2016/7/12
■ 今どきのバレリーナ事情
 今回は“プロのバレリーナになることはどれほど大変なのか”というテーマでのお話です。但し、私はプロの経験があるわけでも留学経験があるわけでもないので、あくまでも「単なる噂話」という娯楽スタンスで読んで下さいね。正しい知識の必要な方はスクールの先生にでも伺って下さい。

 さて、まず日本で「プロのバレエダンサー」というとどういう人の事を云うのでしょう。私がここで“プロのバレエダンサー”と定義するのは基本的に国内外での大きなバレエ団で活躍するダンサーであるという事です。それ以外にも出演料を頂いて小さいバレエ団や小規模なバレエ公演で踊る人たちも一応は“アマ”ではないので“プロ”と呼べるのですが、ここではその方々を含みません。もちろんその方々を軽視している訳ではありません、素人も含め様々な立場の方がバレエに関連していることがバレエを発展させる大きな要因となりますので。また、もと大きなバレエ団で活躍されていて現在はフリーでご自分でカンパニーを主催されていたりする方もいらっしゃいますし、フリーの方々を一概に同じカテゴリーに入れて論じることは出来ません。従って今は“プロ”という範囲を絞ってお話したいと思います。

<プロのバレリーナになるには>
 日本でバレエのプロになるには、(1)バレエ団付属や系列のスクールに入学し、バレエ団の選抜ジュニアクラスに入り、バレエ公演に出て、入団試験を受けて団員となる。(2)フリーのバレエスクールに入学し(最近はバレエ専門学校もあります)、国内バレエ団のオーディションで合格して団員になる。(3)ジュニア時代に海外に留学して、帰国して国内オーディションを受けるか、そのまま海外のバレエ団と契約する。(4)国内のスクールからいきなり海外のバレエ団のオーディションを受けて契約する。

(4)のケースはまず殆ど無いと思います。現在多くの子が理想とするのは(3)の「海外に留学して、海外で契約して踊り続ける」という道です。なぜ皆が海外で踊りたがるのかと言えば、もちろん!「日本でバレリーナをしていても生活して行けるほど稼げないから」です。他にも理由は様々ですが、主な理由のひとつであることは間違いありません。なぜ日本のバレリーナは踊るだけでは生活して行けないかというお話は長くなるので割愛しますが、主な原因は日本では国も国民もバレエにお金を出さないからです。日本のバレエ公演というのは一部のバレエ愛好家と出演者の縁者を観客としてしか経済的に成り立っていないのが現実です。

 バレエ団への就職についても、昔はバレエ団の付属校に通ってそこそこの才能に恵まれればバレエ団のコールド団員にはなれる事が多かったですが、現在では付属のバレエ団でも入団は至難の業です。団員募集の外部オーディションも行われますし、何より昔より団員が辞めません。結婚しても出産してもバレエ団を辞めない人が増えており、団員の下に、準団員、準々団員とウェイティング・メンバーは多数。余程の才能でないと一発で団員になるのは大変です。

<日本のバレリーナの収入事情>
 バレリーナの収入について「あれ?Kバレエ、東京バレエ団、新国立などはお給料が出るって聞いたけど?」という方がいらっしゃるかも知れませんが、支払われるのは基本的に“出演料”だけです。(私が知る所ではKバレエのソリストと新国立についてはお給料が支払われているという情報もありますが、金額や現在ではどうなのか不明です。)その出演料も配役によって大きな差が出ますし、1公演数万円という事もあるそうですが、年間の公演数を考えればとても生活などしていられません。団からはポアント等のバレエ用品の支給もほぼありませんし、マッサージ等のボディメンテナンスの費用も自己負担です。吉田都さんや熊川哲也さん等の世界的バレリーナならば出演料だけで生活して行けるでしょうが、そんな偉大なダンサーになれるのは奇跡としか思えないような一握りの人間です。生活費どころか、団費と呼ばれる月謝のような費用や、チケットのノルマまで負担しなければならないのが(チケット・ノルマのない団もあります)日本の“プロ”の現状なのです。

よく「バレエ教師をしながらダンサー生活をする」という話がありますが、これは現役のダンサーの場合ほぼ不可能です。どうしても公演やリハーサルが優先となりますので、バレエ団経営のスクール以外では本格的に講師を継続することは難しのです。そしてバレエ団のスクールで教えてもあまりお金にならない事が多いそうです。せいぜいお小遣い程度で生活費とまでは中々行かないでしょう。
従って現実的には「現役の間は親のスネかじり」という状態になる方が殆どです。実際、私の友人は入団の際に「うちでは貴女が生活していけるだけの収入を与えてあげられませんが、ご両親は貴女を養うことは出来ますか?」と聞かれたそうです。もちろん団を運営している先生方だってその現実を良いと思っている訳ではありませんが、現在は仕方がないことなのです。

<海外のバレリーナの収入事情>
 では海外のダンサーではどうなのか?これも千差万別です。どういうカンパニーに所属するかによって違いますし、日本と同様にカンパニーとはとても言えないような団体すらあるのですから。国立や公立の大きなカンパニーに所属することが出来れば、一応は安定した収入が得られますが、それでもやはりランクによって様々です。例えばパリ・オペラ座であっても、最下位レベルのダンサー(カドリーユ)の場合は高いパリの家賃・物価の中で暮らして行くには十分な額ではないそうです。但し、レベルを上げて行けば収入も上りますので夢を見ることは出来ますね。一応殆どの国立・公立の団体であれば、最低限の生活費は得られるそうなので安定しているとは言えます。日本では主役を踊っても踊るだけでは食べて行けない事が殆どです。

更に!海外のカンパニーでは期間契約も多いですし、入団出来ても永久就職ではありません。契約期間が終わって評価されなければ契約打ち切りです。それに就労ビザも現在は取得するのが大変難しくなっています。余程カンパニーから必要とされるダンサーとなればお役所もすぐに手続きをとってくれるでしょうが通常は中々就労ビザは下りません。他に同レベルのビザ不要のダンサーが居ればバレエ団はそちらのダンサーと契約するでしょう。日本で「海外で踊っていました」と経歴に書いてあっても、実際にはあまり聞いたこと無いようなカンパニーでごく短期のことも多いようです。それでも“海外カンパニーで踊る”という夢を実現出来たことはとても立派なことなのですよ。

<プロを目指す為に大切なこと>
 日本でプロになる為に必要なこと、これは、「鉄の意志」と「強い精神力」と同じくらい「資質」と「容姿」、そして「お母様の協力」と「お金」と「運」が必要です。
本当にバレエって熱意と努力はプロになれる要素の一部にしかならないの。そんな残酷な職業なんですよ。

<まずはスクール選び>
 プロ志望以外でも児童がバレエを習う上で一番大切なこと、それは「スクール選び」です。「最初は適当なスクールへ入れて、プロになりたいと思ったらちゃんとした所へ移ればいいわ。」なんて考えは大間違いです。子供の吸収力は凄まじいので間違った技術を教えられてしまったらそれが土台となってしまい、その後にどんな矯正をされても直らないことがよくあります。また、考えの浅い先生の元で無理な指導をされてしまったら、骨や関節が変形した身体が出来てしまい後に故障を起こしてバレエを続けられなくなる事が発生したりします。日本ではバレエ教師は免許制ではありません。スクール選びはお母様が情報を集めて慎重に選ぶことをお勧めします。

一応安心なのは大手バレエ団の付属学校でしょうがこれは都会にしかありません。次は国際コンクール等で受賞者を出している経験を持つスクール、次に大手のバレエ団でソリストとして長年の活躍経験のある先生が主催するスクールでしょうか(系列校など)。また最近は海外で教師カリキュラムを受講されて修了証書を得て教えている先生も増えてきました。その様な先生でしたら最低限は安心だと言えます。(反論のある方もいらっしゃるでしょうが、)もしプロになりたいのであれば、出来るだけバレエ団と深いつながりのある先生のスクールが色々な点で有利です。 プロになる気がないのであれば、ソリストまでは昇格されなくても一応大手バレエ団に所属経験あるような先生や(時にはほんの一年程度しか所属していなかった先生もいたりしますが)、(事情通でないと解り難いですが)高名な先生に長年師事しており大御所先生から推薦されているような先生の主催するお教室でも良いかも知れません。とにかく児童の場合はしっかりと正しい基礎を教えてくれるスクールが最初の一歩では大切です。但し、これらは技術習得という点についてだけです。プロ養成スクール等の場合は競争も凄まじい世界ですから必ずしも居心地の良い場であるとは限りません。習う本人が精神的に辛いようでしたら、別のスクールに移ることも必要だと思います。

また、最近ではバレエの専門教育をする高等学校も出来て来ています。
東京高等バレエ学校IBHS国際高等バレエ学校京都バレエ学校、その他、高校の教科を学びながらバレエを学び、留学や入団を目指します。留学出来る人はトップクラスの人でしょうが、日本に居ながら進路相談や情報を得る事が出来るので、とても心強いかも知れません。

<一家での覚悟>
 プロを目指すのであれば、まずは本人の自覚からです。これは子供の頃から自分で覚悟をさせなければなりません。何故なら殆ど毎日のレッスンをこなさなければならないからです。バレエ以外、多くの欲求を我慢しなくてはならない生活になります。
そしてお母様のサポートなしではその生活は成り立ちません。栄養の管理、心身管理のサポート、発表会のお手伝い、衣装の手直し等も必要ですし、先生との情報連絡も次第に増えて行きます。初めは他の生徒さん達と一緒のレッスンでも、成長して行くと個人レッスンや特別レッスンを受けるようになり夜遅くなる事が多いので送り迎えが必要になりますし、まだ若いうちに海外のサマースクール等に参加する場合はお母様や先生が付き添われる事が殆どです。私達はこのようなお母様を「バレエ・ママ」と呼んでいますが、「バレエ・ママ」無しではバレリーナへの道はかなり難しい道になるでしょう。(但し私の所属したスクールでは無関心ママのお嬢さんを国内某バレエ団の団員にしましたので、絶対に不可能ではないと思います。…しかし大変でしたよ。)

 そして経済的問題がとても大きいです。もちろん10人10色のケースバイケースではありますが、大手バレエ団付属に幼児の段階から入学させてプロになるまでに、バレエの費用としては最低1〜数千万円以上は掛かると覚悟をして下さい。これに留学という経験を入れると更に数百〜1千万近くの金額が上乗せになります。大手の付属校でない場合もう少し安価なことも多いですが、それでもレッスン代以外にポアント費用や発表会費、男性パートナー費用、コンクールや講習会の費用等かなりな金額が掛かります。更に現在では英語等の語学スクールの受講も必要になっています(英国へ留学する場合、指定の英語試験の結果が必要となります)。バレエスクールには「特待生」制度があるスクールもありますが、たとえ授業料が免除であっても交通費やその他の諸経費は自己負担です。ご一家にはそれらの費用を本人の夢の為に負担する覚悟が(ご兄弟の気持ちも含めて)必要となるのです。
私の師匠は生徒から「プロになりたい」と相談を受けた時に、かなり厳しく費用と労力についての説明をします。できればお父様にも来て頂いて必ず親御さんとの面談を行ってプロへの指導を始めています。何故ならそれほどの負担を払ってもプロになれるかどうかは解らないからです。それでもプロを目指す親子は一種の“夢フリーク”とも言えるかも知れませんね。


 書いていて段々と憂鬱になって来ました(T_T)。読んでいて面白くなかった方にはごめんなさい。まだ留学についての記事に続きます。
思えば私はプロになる才能がなくてバレリーナになることを諦めましたが、才能以前に経済的に我が家ではとても無理だったと思います。しかし私は「私の人生でのバレエ」と向き合えてとても幸せでした。プロになるばかりがバレエとの関わり方ではありません。
私の師匠のご実家はバレリーナにする為に土地を1つ売却されたそうです。しかし大手バレエ団のソリストになっても少しも稼げなかった(それどころか大赤字)だったそうです。「それでも踊れて幸せだった」と師匠はおっしゃいますけれどね。

余談ですが、先生によっては生徒をプロのダンサーにすることに喜びを感じる方も多いかもしれませんが、私がスタッフをしていたスクールの師匠はあまりに責任が重大でいつも「もう辞めたい」と愚痴を言っています。プロになれなかった子に気持ちが残りますし、とにかくオーディションに受かるまで人脈や情報を駆使して必死にどこかのカンパニーに送り込まなくてはなりませんので。または苦労して留学させてもすぐに帰国してくれる“困ったちゃん”も居たりして、スタッフ一同で一喜一憂です。「バレリーナにもバレエ教室主催者にもなるもんじゃないな〜」なんて私は思っています。


  バレエ留学は覚悟を決めて に続く