ルティレ・バランスの垂直


 バレエを踊る中、様々なタイミングで出現するルティレ・バランス。ア・テール、ルルベ、ポアント共にルティレ・バランスは次の動きを成功させるホームのような動きです。一瞬のバランスも、長いバランスも、すべては垂直と水平を正確にコントロール出来た時に得られます。
ルティレのバランス、難しいですね。どうしたら余裕のあるルティレ・バランスが取れるようになるのでしょう?

<バランス>
 物理的に言うと“ある物体をバランスを取って静止させる”ためには「床との接地面(支持面)の垂直線上に重心を置けば良い」ということだそうです。逆に考えると「バランスを取りたければ床との接地面の真上に重心を置けば良い」という事になります。もちろん人間の体は柔らかく、微動もしており、また重心はポーズ毎に変化しますのでそう簡単には行きませんが、とにかくバランスを取る為に一番大切なことは「立った爪先の真上に重心を置く」という事です。そのことを忘れないで下さい。

通常、真っ直ぐに立った時の女性の重心は丹田(下図の緑の点:おへその少し下で身体の内部)にあります(男性はもう少し上)。 ほぼ真っ直ぐに立っているルティレでは、この丹田を軸脚の爪先(ア・テールなら足裏)の真上に乗せ、丹田を支持する垂直線(軸脚)を強く保持すれば、バランスは保たれているはずなのです。
※ 図はあくまでもイメージです。
  ラインの位置等は個人差があります。
ルティレでは腕の形や脚の開く角度など他の要素も色々ありますが、それらは太い幹に付く枝のようなもの。しっかりした幹に枝を支える力さえあれば、多少腕や脚の位置が変わってもバランスは保つ事ができます。但し、頭部は上半身で一番重い部位なので、頭部を爪先→丹田からの垂直線上に置かないと、重心が丹田からずれてしまいますので、頭部は出来るだけ爪先の垂線上に置く必要があります。(頭部は“芯”のラインから外さない。)
すなわち、ルティエ・バランスでまず一番に実現しなければならない事は、
爪先 ・ 丹田 ・ 頭 を垂直な一直線に並べる
という事です。まずはその垂直線作りを感覚としてしっかりと身につけましょう!

<垂直線を造る>
2足歩行の人間は案外バランスを取るという行為には長けています。誰しも瞬間的には片足での爪先立ちをする事はできるはず。これを質の良い垂直線に変えて行くのです。

[パラレルで]
 まずは脚はパラレルでかまいません。片足で爪先立ちをして爪先の真上に頭と丹田を乗せてみて下さい。上げた脚は軸脚につけて閉じましょう。足首も伸ばします。なるべく長く止まれる所を探りますが、ここでは一秒静止出来れば十分です。できれば鏡の前で行いましょう。
パラレルの場合、爪先の真上はかなり身体の前側のはずです。軸脚の腿の裏側をお尻下を突き上げるようにしっかりと上斜め前へ押し上げて下さい。また、骨盤が前傾していてもバランスは取れますが、このサイトでは骨盤は立てることを推奨していますので、尾骨や仙骨を下に向けるなどして骨盤は立てて下さい。

爪先→丹田→頭を正確に一直線上に並べることは意外とかなり難しいです。これを実現する為に一番有効な方法は、爪先(指と指の付け根)でしっかりと床を押し、丹田を中心に頭頂部を強く上へ引っ張ること。まず最初はその押す力と引っ張る力を身に付けて下さい。
長く静止しているには筋力が必要ですが、一瞬の静止ならば強い筋力は必要ありません。まずは身体の中の垂直線を感じて下さい。(無理して長く立とうとすると誤って前腿の大腿四頭筋を鍛えてしまいますので、ここはホドホドで…。)

[ク・ドゥ・ピエ]で
 次は両脚を少しターンアウトさせて立って下さい。自分の可動範囲の半分くらいのターンアウトで結構です。必ず両脚を同じ角度で開きます。上げた脚は低いクドゥピエの位置(足首)に置きます。 足を開いた分、爪先はパラレルでの中心から少し横へズレますので、垂直線も横へズレるはずです。きちんとアゴを引いて頭頂部を天へ向かわせます。

さて、そろそろターンアウトの要素が入って来ますのでハムストリングを意識して使って立つようにしましょう。ハムストリングを使うには骨盤底部の付け根ポイント(左図:紫の点)を強く引き上げる(押上げる)ことです。丹田と付け根ポイントは近い位置にありますので付け根ポイントを爪先の上へ乗せて引っ張る感覚でも構いません。爪先で床を押してハムストリングを強く引き上げる事で、軸脚の強度が増して行き、バランスの安定へつながって行きます。ハムストリングは骨盤が傾斜していると100%の力を発揮できません。骨盤が理想的な角度に立って来るとハムストリングはより楽に強く使えるようになります。今度は2つ数えるくらい静止してみましょう。

 鏡を見ていても垂直線が真っ直ぐになっていない人の多くは腰が後ろに引けている人です。腰が引ける理由は骨盤が寝ているか、アゴが出ている人が多いです。あるいは背骨でバランスを取ろうとするあまり、お腹がゆるんで胸やお腹が前へ突き出しているケースもあります。
完璧なターンアウトで爪先立ちする事は殆どの人間には出来ません。爪先も丹田も背骨より前にあります。まず丹田に力を入れ、アゴを引いて首の後ろを引き上げながら、爪先→丹田→頭頂部の垂直ラインを探り続けてみて下さい。

[ルティレで]
 最後に限界まで両脚をターンアウトさせて上げた脚をルティレの高さまで上げます。
ルティレの高さまで脚を上げると骨盤はわずかに横に傾いて来ます。骨盤が傾いた事で丹田(緑の点)と付け根ポイント(紫の点)がほぼ一直線に並びますので、一番強く垂直線を造ることが出来るはずです。このラインでなるべく長く安定して立てる場所を探して下さい。長くバランスを取っていたいならこのラインを強い筋力で保ち続ける事です。背中の僧帽筋を下げる力を利用して上へ這い上がる感覚でも良いですよ。

ここで注意が必要なのは、体の中で骨盤はわずかに傾いていますが、外から見たウエストはなるべく水平を保つように骨盤を傾け過ぎないようにすることです。傾け過ぎると付け根ポイントの位置が垂直から外れてしまいます。骨盤が大きく前傾していないように注意して下さいね!

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<バランスは力で固めて造らない>
 バランスは力で固めて我慢して静止している事も可能です。バーでは多くの初級者の方がこの方法で我慢して立っています。しかし本当に良いバランスは力で固めていては正確に取ることは出来ません。丹田に力を入れ、呼吸もでき、少し声が出るくらいのリラックスした状態で垂直線を天地に伸ばして探った方がずっと安定したバランスを取ることが出来ます。上下に“突っ張る”力ではなく上下に“伸びる”力でバランスは取るのです。ですので、ここに書いた練習はリラックスした状態で垂直線以外は何も考えずに行って下さい。

<バランスは止まっていなくても良い>
 外から見るとバランスを取っている状態では身体はピタリと止まって見えます。しかし実際は案外微動しているものなのです。ルティレの形を取って爪先の上にただひたすら伸び続ける感覚。自分の軸(垂直線)がわずかに揺れていても頭の上の小さな小さな円からはみ出ないように伸びている感じです。
私の場合、時折カチリと何かの型にはまってしまうような微動だにしないポイントに身体がはまる時があります。そんな時は逆に身体が固まって次の動きに移りづらく、動きの流れが途切れるような感覚になってしまいます。たとえバランスを取っていても少しは動ける余裕があるくらいの方が良いのです。

<バーでバランスが取れなくても落ち込まなくていい>
 バーでのルティレ・バランス、余裕をもって取れて次のアロンジェ等へつなげたいですよね?真剣になればなるほど意外とバーでのルティレ・バランスって長く取れないものです。でも深刻に悩む必要はありません。舞台でバーでのルティレ・バランスの成功が必要になるのは、男性とのアダージォ等でバランスを取りお客様に披露する時くらいです。素人では中々そんな機会はありません(最近はそうでもないかも?)。第一、爪先立ちバランスは、バレエシューズよりもポアントで行った方がラクに立てます。
それよりも、センターでの一瞬のルティレ・バランスの方が何倍も大切です。センターでのルティレ・バランスは“パ”の中で行う“通過”の要素が多いので、バランスを取るのはほんの一瞬。でもこの一瞬で正確なバランスが取れないと次の動きやポーズを台無しにしてしまうのです。もちろんピルエットなんて廻れません。ですので、時にはレッスンでセンターでのルティレのポーズを長めにするとか、自習の時にルティレで一旦止まり続けるとか、そんな風にセンターでのルティレを大切にして下さい。
ちなみに私もバーでのルティレ・バランスは苦手ですが、センターでの4番や5番プリエからのルティレ・バランスは大得意です。立ってしまった後はただ呼吸をしながら伸び続けるだけ。やがて力の限界が来て降りるだけです。感覚を身に付けてしまえばそれほど難しいことではありません。頑張りましょう!

<もしバランスが崩れたら>
 もしセンターでバランスが危うくなったら、身体の形を気にするよりも、まずはほんの少しだけ力を緩めてもう一度爪先をしっかり押して上へ伸びて下さい。それから身体の形を直すことです。軸が歪んでいてはいくら身体の形を直しても無駄に終わります。


 ここまで、爪先→丹田→頭の垂直ラインにだけ言及して来ました。私の理論ではとにかくこのラインの感覚をつかむ事が最優先だからです。脚が開いてないだとか、両肩が傾いているだとか、そんな事はこのラインを造る為の補助でしかありません。まずはしっかりと天地を押して爪先の真上に丹田と頭を乗せること!長く止まる事と美しさの問題はそれからです。
それでは、長くルティレでバランスを取る為に、ルティレの形を整えましょう。

「ルティレの水平」のページをご覧下さい。


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