ポアントの立ち方2


 「ポアントの立ち方1」では、ポアント・シューズの説明と、靴の中で足がどのような状態になっているのが理想かをお話ししました。ここからは、ア・テールからポアント、ポアントからア・テールへの移動について述べたいと思います。ご自分の動き方と照らし合わせてご参考にしてみて下さい。身体のコントロールの中心は常に下腹筋背骨(+体幹の筋肉)です。

 ア・テールからポアント状態へ移る立ち方には大きく分けて主に3種類の立ち方があります。呼び方は先生によって様々ですのでここでの表記は方言の1つとでも思って下さい。その立ち方とは「ピケ立ち」「ルルベ立ち」「引き立ち」の3種類。
それに対してポアントからア・テールへの降り方は「即降り」「ドゥミ降り」「引き降り」のやはり大きく分けて3種類です。ここでは立ち方についての説明をします。

「ピケ立ち」  その名の通り、片脚をピケ=突き刺して立つ立ち方です。
ここでは膝を伸ばして立つピケ立ちの説明をします。 注意点は、突き刺す側の脚を脚の付け根から強くターンアウトして、爪先の更に先に靴先を立てて立ちます。踵の側面を前へ押しながら立つことで更なるターンアウトを促し、立つ瞬間からハムストリングを脚の付け根ポイント(座骨)へ向かって強く引き上げます。
ここで、突き刺す脚を強く床へ押す力で立とうとしてしまう初級者の方がいますが、この意識でピケ立ちをすると前腿の大腿四頭筋を使ってしまう恐れがあります。突き刺すのはあくまでもハムストリングの付いている脚の裏側筋肉。前腿は伸ばした膝のお皿を軽く引き上げることに使う程度です。突き刺す脚の役割は、先へ伸ばす・ターンアウトする・ハムストリングを引き上げる(突いて押し上げる)、だけです。身体を靴の上へ立たせる役割は体幹全体とプリエした送り脚が担います。例えば、ピケ・アラベスクをするならば、軸脚は伸ばしてターンアウトするだけ、後ろ脚で強く床を押して(蹴って)アラベスクの形へ持って行きます。突き刺す軸脚が意識して使う筋肉はハムストリングだけ、つまり「脚の裏側の筋肉」だけです。(膝を引き上げる為に前腿筋も少し使います。) 突き刺す脚はただ“床を突く”だけ、体を乗せるのは後ろ脚の“蹴り”です。ピケのたびにこの前腿の力で立って、前腿筋肉を発達させてしまう人がどれほど多いことか!くれぐれも注意して練習して下さい。

※ ピケ立ちをする際にどうしても膝がわずかに曲がって立ってしまう方がいます。この方々に膝が曲がっている指摘をしますと、ご本人は伸ばしている意識でいる方が多いようです。原因は、前腿の大腿四頭筋の力で立っている、ターンアウトして立つ意識が足りない(特にピケ・ターンの時)、膝裏の腱が短く膝裏が伸びきらない、等が考えられます。膝の曲がりはわずかですので、その緩みは本人には感じられないかも知れません。しかし見え方が確実に違いますのでその違和感は他人が見ていればすぐに分かります。先生からこの指摘をされたなら、膝裏の腱が伸びない方以外はすぐに直せる間違いですので、ただちに直しましょう!軸脚は“伸びるつっかえ棒”です。その“つっかえ棒”の「上」に立つのです。脚裏側の筋肉(ハムストリング)を曲げずに突き刺す練習をして(少し飛び乗っても構いません)、その感覚を身体に覚え込ませて下さい。また、膝が出ている傾向にある日本人の脚はターンアウトをして立たないと曲がって見える傾向があります。ターンアウトが180度開く必要は全くありませんので、自分の出来る範囲のターンアウトをしっかりして伸ばして立つ意識をもって下さい。

※ ピケ立ちには、ピケ・バロネのように後ろ脚の膝を曲げてピケ立ちする立ち方もあります。


「ルルベ立ち」 通常はプリエからドゥミ・ポアントを通ってポアントまで持って行く立ち方です。(プリエなしで行う場合もあります。)

@ア・テール

Aドゥミ・ポアント

B3/4ポアント

Cフル・ポアント

 ポアント・シューズは靴の底が固いのでバレエ・シューズよりドゥミ・ポアントが浅くなりがちです。また、足指と足裏の力が発達していないとポアントを履いて3/4ポアントで立つ事は出来ません。この3/4ポアントからフル・ポアントまで持って行く為には足指・足裏の強い力とハムストリングを引き上げる強い力を必要とします。これをプリエなしの片足で正確に出来るのは上級者以上の踊り手です。ですので初級者に対して、片足プリエなしの3/4ポアント→フル・ポアントは(前腿を発達させる要因にもなるので)要求しませんが、両足でプリエ付きで練習する際にはぜひ!意識して3/4ポアントを通って立つ練習をして下さい。両足プリエで出来るようになったら次は片足プリエで。片足プリエで慣れたら、次は両足のプリエなしで3/4ポアント→フル・ポアントの練習をします。3/4ポアントを使いこなすという事は、安定したポアント・ワークの実現とポワントの難点「音」の発生を抑えることを実現させます。3/4ポアントを使ってポアントに立つという事は、5本の足指で最後まで強く床を押しながら立つということです。(但し指の形によっては5本すべてで押せないこともあります。) 足指の力を強く発達させましょう!但しルルベを行う筋肉は足指だけではなく、ハムストリング=脚の裏側を引き上げる筋肉も大いに必要です。

 ルルベ立ちの注意点は、プリエの時には重心線(特に腸腰筋や丹田)を正確に土踏まずか足指の上に乗せ、力は重心線を通って上へ向かわせる。立つ時は肩甲骨や僧帽筋は下ろしてそれらをわずかにテコにして更に上へ上がる要領で身体をポアントの上へほぼ垂直(ポーズによって多少前後へ移動します)に身体を押し上げるということです。体幹はコルセットの要領で長く伸ばして決して崩しません。ルルベは立ったところが終わりではなく、更に上に伸び続けることが大切です。
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「引き立ち」(ジャンプ・アップ) 引き立ちとは、プリエでア・テールの状態から、爪先を自分の重心線(芯)の真下(つまり土踏まずに近い場所)まで移動させて立つ立ち方です。


【ルルベ立ち】

【引き立ち】

 上図の左3つは爪先の上に立つ「ルルベ立ち」、右の3つは土踏まずの上に立つ「引き立ち」です。「ルルベ立ち」は重心を爪先の上へ移動させるので、重心線(芯)の移動を伴いますが、「引き立ち」では重心線の真下まで爪先を移動させて立つので重心線の移動はありません。例えばルルベ・アラベスクのように重心を前へ移動させてポーズをとったり、ステップで移動したりする時などに「ルルベ立ち」をしますが、5番シュ・スーやピルエット等の様に重心を自分の中心に集めてくるような動きの場合は、爪先を床の上で滑らせ重心線(芯)の位置まで移動させて立ちます。重心線は指の上か土踏まずの上にあります。
 「引き立ち」は軽く飛んで突き刺すようなイメージでポアントまで移動しますので「ジャンプ・アップ」とも呼ばれますが、注意点は床の上になるべく細い線を描くように爪先を床の上で擦って滑らせ正確なポアントの位置まで移動させて立つことです。決して飛んではいけません。上半身は飛ぶように重心を上げますが、この時にも爪先はきちんと指先で軽く床を擦ってコントロールする技術が必要です。バレエではとても足の指先が敏感に動かなければならないのです。擦って滑らせた爪先がきちんと重心線の下に来なければフラついてしまう原因になります。重心線を動かしたくない為に爪先を引いて立つのです。
但し爪先を動かす最初の原動力は実は足指ではなく、ハムストリングを上に引き上げる力です。ハムストリングを引き上げ、内転筋で脚を中心へ寄せた結果、爪先が動き始め「引き立ち」となります。

(ジャンプをしてポアントに乗る)
 前述で大人には「引き立ちでジャンプをして立ってはいけない」と書きましたが、子供が初めてポアントを教わる時はまず軽いジャンプをさせて引き立ちを覚えさせる事がよくあります。子供の力はまだ弱く、初めてポアントを履く段階では擦って爪先を滑らすという複雑な動きが出来ないからです。また子供は体重が軽いので足首への負担も少なくて済みます。しかし段階を経てなるべく飛ばずに立つ立ち方を指導して行きます。
また、大人であっても小さくジャンプして爪先に乗る必要が出てくる場合があります。例えばピケ・ターンやピケ・スドゥニューをする時などは小さいジャンプをしてポアントに乗る時があります。これらの繰り返しは膝や足首に大変な負荷を掛けます。この負荷を軽減する為にも、重心を引き上げる訓練や、体幹を崩さない訓練、そして体重の注意などを心掛けて行かなくてはならないのです。


 以上3つの立ち方の違いがお解りになったでしょうか?共通して言えることは「ポアントで立つ」という事は「ポアントの上に乗って安定する(ポアントの上に座る)こと」ではなく、「ポアントの上に伸び続けること」です。これを実現させる為にハムストリングの引き上げがあります。
ポアントでの立ち方はポアントで踊る事に慣れるに従って自然と立ち易い立ち方で動く事を身に付けたり、先生の動きのイメージから立ち方を真似て覚えたりしますが、自分の頭の中で立ち方のイメージがしっかり出来て立つのと、ぼんやりした感覚で立つのとでは結果や安定性が大きく変わって来ます。先生の動きやビデオ等で立ち方を勉強して、きちんと頭の中で整理して練習しましょう。但し人間はロボットではありませんから、踊りの中で「ルルベ立ち」と「引き立ち」の違いがはっきりしていない場合が多いのも事実です。プロでも失敗はありますし、動きによってはどの位置で重心線を作るのか、多少の個人差があります。大切なことは自分はその動きではどの立ち方を「理想」として動くかをイメージして練習することです。


 最後にバレリーナ達の美しい立ち姿を見てみましょう。


 上の4枚の写真は理想的な片足でのポアントの立ち方です。プラットフォームの上に正確に土踏まずと足首、付け根ポイントあるいは腸腰筋(丹田)が載っていることを確認して下さい。(アラベスク等は身体の傾きによって少しバランスを変える為、プラットフォームの真上に上乗る部分が付け根ポイントから腸腰筋まで多少変化したりします。また強い反張膝(バレエでのX脚)の脚の場合は膝の位置が足首やプラットフォームの真上に乗らないことがあります。)


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