ピケ・ターンは横進みではない 1


 ピケ・ターン(ピケ・トゥールあるいはピケ・トゥールネ)は“片脚を床に突き刺して片脚軸で廻る回転”です。回転の方向はアンドゥオールとアンデダンの両方があり、日本の一般的なクラスでは通常「ピケターン」と言うとピケ(・トゥール)・アン・デダン、「ピケ・アンドゥオール」と言うとピケ(・トゥール)・アン・ドゥオールの事を指すことが多いです。
 ピケ・ターンはピルエットに比べて簡単そうに感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、実は基本を正確に廻るにはとても難しい回転であると言えます。しかしこのパをしっかりと練習することで“水平に回転する”というとても大切な感覚を訓練することが出来ます。

<ピケ・ターンは横進みではない>
 バレエのパは世界共通ではありますが、メソッド毎の方言のような異なりもあり「このやり方が絶対!」という事は私には言えません。しかし少なくとも初めてピケターンを学ぶ人には段階を踏んだ正確な動き方を学ぶ事が、たとえ遠回りであっても大切だと思っています。時々ピケターンを、進む方向(例えば対角線上)に添って横に進む感覚で動き方を教える先生がいらっしゃいますが、私はこのやり方には大変疑問を持っています。私を教えた殆どの先生方は「ピケターンは自分の正面に向かって進んで行くパである」と教えて下さったからです。またこの動き方はとても理に適っていて、垂直に立つ感覚、水平に廻る感覚をしっかりと感じながらコントロールできる動き方なのです。ぜひ一度この動き方を試してみて下さい。

<1回転と3/4回転>
 基本のピケターンは片脚で1回転を廻ります。この廻り方を私達はよく「ロシア式」と呼ぶのですが本来はヨーロッパでもほぼ同じだと思います。そして速い速度で連続してピケ・ターンを行う場合には3/4回転廻った所で動脚(パッセにした脚)をア・テール(床上)・プリエへ下ろします。レッスンでは速度をゆっくりにして1回転のピケ・ターンを連続して繰り返す訓練を行ったりしますが、実際には踊りで連続してピケ・ターンを廻る場合は3/4回転が殆どです。1回転のピケ・ターンは大変難しいですがとても良い訓練ですので、きちんと丁寧に1回転回り切れるように練習しましょう!

(方向について)
 身体の向きや進む方向についてはワガノワ式の番号で記述します。


<1回転のピケ・ターン>
 それでは1回転のピケ・ターンについて記述します。ここでは2番の方向に向かって対角線上に進むと仮定します。図は正確ではありませんのであくまでイメージとしてご覧下さい。
図(1) 図(2) 図(3) 図(4) 図(5)

図(1):突き刺す軸脚を進行方向の2番の方向へ出し(爪先は床から少し浮かします)、動脚(送り脚)はプリエ、腕は軸脚側を前へ動脚側は横へ開きます。
図(2)腕はアラスゴンドにして2番を正面にしてピケ・パッセ(ルティレ)で立ちます。動足の爪先は膝横あるいは膝の後ろに付ける事が基本です。
図(3):首(顔)を2番の方向に残して廻ります。図では腕がアラスゴンドになっていますが、このタイミングでの腕は少し閉じ気味か、あるいは図(4)のようなアナヴァンに閉じている感覚でも構いません。
図(4):首を返します。この段階では腕は完全にアナヴァンに閉じていなくてはなりません。
図(5):きちんとパッセのまま2番の方向まで回転します。回転後は5番ポジションあるいは図(1)の状態へ戻ります。
(1)〜(5)を繰り返して、2番の方向を自分の正面にとらえて2番の方向へ進んで行きます。
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<腕の使い方>
 腕はアラスゴンドに開いたら、先行する腕(軸脚側の腕)はそのまま肘を回転方向へ進める感覚、後行する腕(動脚側の腕)とその脇は先行する腕の指先に追い着くように追い掛けます。閉じた両手の指先を素早く自分のみぞおちの前へ持って来て固定するように後行側(追掛ける側)の脇を廻します。ここで後行側の肩が前に被さって来ない様に両肩は自分の真横に軽く横に引いておきます。(両側の鎖骨を横へ引くように。肩は下へ押しつけない。) 先行する腕(肘)はどんどん先へ進め、回転に逆らって自分の正面へ戻す事は決してしません。但し!先へ進めるのは肘のみで、先行する側の脇は垂直に立てておく(脇はしめておく)感覚です。

<首の使い方>
 回転での首の使い方の基本は、首の後ろを真っ直ぐ垂直に伸ばす感覚を保ち両耳を水平に保ち続けます。アゴが上がったり下がったりすると目が廻る原因となりますので気を付けましょう。正面の1点を見つめ続け、後行する(動脚側の)肩がアゴの下に来たら素早く首を返します。素早く返すことが回転の動力につながりますのでしっかり素早く返して下さい。

<首と腕・脇のコンビネーション>
 回転での上半身の動きは基本的にはどの回転でも一緒です。身体の垂直軸を保って、先行する腕を後行する腕や脇が追掛ける。但し、それだけでは途中で失速して1回転はほぼ廻れません。そこで途中で首を返して回転力を追加するのです。
 回転は同じ速度で1回転するのではなく、最初の初速度が速く、首を返す時点で再度速度がわずかに速度が上がる感じ。回転とは私の感覚では常に「ひっくり返す」というイメージの感覚があります。くるーっと1回転するのではなく、少し溜めてパパっと返す!そんな感じ(最初のパが踏切りで次のパが首の返し、速度が速くなると2つのパが重なってパっと一瞬で返す)。これらのコンビネーションが上手に行けば行くほど上質な回転が手に入るのです。

<要は図(2)>
 上の図で一番大事なのは図(2)の腕をアラスゴンドにしたパッセです。このポーズをいかに正確に作るかが大きなカギとなって来ます。下腹をしっかりと引き上げて、爪先→付け根ポイント※→丹田→頭頂のラインを垂直にして、僧帽筋や肩甲骨を下ろして両肩を横に引き、両腕をテコにして上へ這い上がる。そんな感覚で形を作ってみて下さい。
(詳しくは「ルティレ・バランスの垂直」「ルティレの水平」の項を参照して下さい。)
(※付け根ポイントとは内腿のハムストリングの付け根の事を言います。)
 更に!軸足のターンアウトがとっても大事!「ピケ」と言えばターンアウトですっっ!!これは絶対事項!ターンアウトはお人形のように腿から脚を廻します。骨盤の前側をベロンと開いてしまわないようにビキニ筋をしっかり引き上げましょう。

そして図(3)や(4)へ移り、腕を閉じると同時に両脇をしめます。“両脇をしめる”感覚がまだよく感じられない方は、取りあえず両方の肩甲骨や肘を軽く下ろしテコにして脇を垂直に上げてみて下さい。肘の位置が高いと脇は上がりません。“両脇をしめる”ことも回転の大きな要素です。この点については後日記事にしたいと思っています。
回転する時には先行する側の肩が上がり、後行する側の脇が落ちる方が大変多いです。“水平に廻る”“水平にひっくり返す”という意識を忘れずにいて下さい。
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【ピケ・ターンの練習】
 1回転のピケ・ターンの練習は段階的に行います。まずは下記のように繰り返して、しっかりとアラスゴンドのピケ・パッセを作れるようにします。軸脚で床を押し下腹を引き(押し)上げて、パッセの状態でゆっくり1、2と数えられるくらいキープします。ピケは先へ突いて前へと進んで下さいね。動脚は軸脚を伝って真下へ下します。ピケ・パッセのポーズは一瞬で作ります。もたもたとした動きでパッセにならないように!

 次はパッセに立ったまま、アラスゴンドに開いた腕をアナヴァンに閉じます。その動作を繰り返して下さい。腕を閉じる時に脇を上げて更に上に這い上がるようにします。パッセの時には背中をしっかりと垂直に立てて横隔膜が開かないように(胸だけ上げない)。

 上記2つの練習が出来たら、次は一気に図(1)〜(5)まで1回転する練習に入ります。おそらく最初は途中までしか廻れないと思います。この廻り方はとても難しい廻り方ですので、初級者の方は完成よりも練習の途中経過が大事であると思って下さい。
図(1) 図(2) 図(3) 図(4) 図(5)
回転する時は図(2)で止まらないようにします。ピケする時の軸脚のターンアウトと、腕をアラスゴンドに開く力を利用して回転起動力を付けます。完全に動脚がパッセになるのは図(3)の段階でも構いませんし、図(3)では既に腕を閉じていても良いです。大切なことは図(2)の形の意識が出来ているかどうかなのです。つまり「ピケ・ターンは正面に向かってパッセをするようにして廻る」という感覚を身に付けて下さい。腕を閉じる時に脇を更に閉めます。上述の首と腕・脇のコンビネーションを思い出して下さい。両肩を横に引き両脇を水平に保ちながら身体を“ひっくり返し”ます。先行する腕の肘は2番が正面に来るまで引き続けましょう。

 1回転のピケ・ターンについて、なんとなくお解かり頂けたでしょうか?次は連続した3/4回転のピケ・ターンについて記述します。
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<3/4回転のピケ・ターン>
 3/4回転のピケ・ターンは1回転のものよりずっと楽に行えるはずです。異なるのは最初と最後だけ。最初は8番の方向へ前タンデュをして、タンデュした脚で90度のロンデ・ジャンブ(ロン・ドゥ・ジャンブ)をします。動脚となる送り脚はロンデ・ジャンブと同時にプリエ、2番を正面にしてピケ・パッセで立ちます。3/4回転した後、8番の方向まで来たら5番ポジションに下りるか、動脚をア・テール、軸脚を前のデガジェ(バットマン・タンデュ・ジュテ・ドゥ・ヴァン:爪先は床から浮いている)にして、次の回転のロンデ・ジャンブへつなげます。
図(6) 図(7) 図(8) 図(9) 図(10)
 ピケ・パッセに立つ前に脚を90度ロンデ・ジャンブして廻しますので、回転の起動力がついて廻りやすい状態になります。腕は廻す脚と同時に開きますが、コツは先行する側の手を一瞬だけ、進む2番の方向へ(指し示すように)出します。この動きで正面とする進行方向を毎回転毎に確認するのです。円形のマネージュを廻る場合は指し示す手を頼りに自分の正面を決めて進んで行きます。
また、大切なことはやはりターンアウトです。ターンアウトとは両脚を開く(外旋する)ことですので、ロンデ・ジャンブの時はプリエする脚も膝をしっかりと開きますし、立った後も軸脚の付け根は外側へ廻し続けます。

 回転速度が速くなると、腕を完全なアラスゴンドへ開く事が難しくなって来ます。また実際には図(7)の段階でパッセを作ると間に合わなくなって来ますし、図(10)の8番の方向まで来る前に動脚を下ろし始めて図(10)の8番の段階ではすぐに次の回転へ入らなくてはなりません。また動脚もパッセの位置まで上げる時間が無くなるので、動脚の爪先はふくらはぎの下辺りになって来ます。(余談:少し入れ知恵をすると、速いピケ・ターンを廻る時は最初だけ腕より脚のロンデ・ジャンブを先に動かします。こうすると上半身と下半身にわずかな捻りが加わり、最初から速い速度に乗り易くなるからです。2回目からは脚と腕は一緒に開いて行きます。)
大切なことはどんなに速度が速くなっても「進行方向を正面としてパッセを作る」意識を忘れないことです。この意識を持つ事で、軸と水平の感覚も、首を返す方向も、しっかりと得る事が出来ます。進行方向を正面にして回転を行うことで、ダブルターンのコントロールも余裕を持って出来るようになるのです。ピケ・ターンは最終的にはポアントでピケに飛び乗って大きく円形に進めるようにならなくてはなりません。いかに軸の感覚が大切か、そのためにはどうしたら良いかを考えましょう。

 (※「ピケ・ターン」は英国では「ポゼ・ターン」と呼ぶこともあります。)

次の「ピケ・ターンは横進みではない 2」では、ピケ・アンドゥオールの説明を致しますね。

《余談》
 ダンサーが凄まじい速度でピケ・ターンのマネージュを円形に廻る時、わずかに軸が中心に傾いています。これはサーキットと同じく物体が高速で円形に移動する時は軸を中心に向けた方が周り易いからです。しかし動いてるダンサーは軸を傾けているという意識はあまりなく、マネージュは中心を背中に捉えた意識で動く事が多い為、自然とそのような形となるようです。私達素人はまずは垂直な軸で円形に進むピケ・ターンを廻りましょう。初級者に軸を傾ける必要があるほど速い速度で練習させる先生はいないと思いますので。

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