■ バレエ上達への道・・・

《往生際の悪さ》
 バレエを上達させて行くために、一番効果があるのはまず「往生際の悪さ」だと思います。バレエの訓練は本当に上達するのに時間が掛り、その成長は自分では感じられないほどです。しかし、あきらめず、しつこく、バカ丁寧に、レッスンやエクササイズを行うことが、一番シンプルですが結局は効果があることなのです。バランスは誰よりも長くとる、回転はギリギリまで下りずに終わる、アダージォはどこまでも伸ばし続けて、時には多少音に遅れてでもレッスンでは丁寧さを優先させる(いつも遅れていてはダメですよ)。必ずどれも効果の出る努力です。
 バレエではただ立っているだけでも、それこそ数え切れないほどの注意を意識して行わなくてはなりません。その全てを一度に完璧にこなすのは無理というもの。しかし「今日はこの意識とこの意識、この運動ではここ!」と自分の中でテーマを決め、一つづつ努力して行くことでその意識がクセになり、意識しなくても身体が覚えて行くようになります。あきらめずコツコツと積み重ねて行きましょう。
   
《姿勢の矯正》
 例えば、僧帽筋を下す、腰筋&腸腰筋を引き上げる、脚を長く保つ。これらは常にどこででも訓練が可能です。しかし矯正の意識は中々続きません。気を付けていてもすぐに忘れて姿勢は元に戻ってしまいがちです。バレリーナのように無意識でも良い姿勢を保てるようになるには、8〜10歳までにバレエを始め、大脳が完成する前にその姿勢を身体に覚えさせることが必要だという説があります。しかし本当にそうでしょうか?往年の名バレリーナもお年を召せば筋力が落ち、いつかは背中も丸くなって来ます。逆に大人になってから軍隊などで訓練を積んだ兵士は、常にまっすぐな姿勢で立つクセが付きます。 そうです、大人になってからでも正しい筋力と習慣で、普段の姿勢は矯正する事が出来るのです。
意識が続かなくても良いのです。気がつくたびに姿勢を矯正し続けて下さい。習慣となりクセになれば、必ず身体は変化して行くことでしょう!
 
《ストレッチ》 
※ストレッチについての記述を大幅に変更しました。(2018.01.16)
 身体の柔軟性はバレエを踊る上でとても必要とされるスキルです。しかし人間の身体は千差万別で個人差がとても大きいものです。他人が出来るストレッチの動きを自分も必ず出来るようになるとは限らないのです。ストレッチはとても身体に対して負荷を掛ける運動でもありますので、絶対に無理をしないで安全に行うことが大切です。
まずストレッチの前にはウォーミングアップをしましょう!筋肉が温められて柔らかくなっていれば関節もとても早く柔らかくなります。ウォーミングアップとは身体を内部から温めることですので、筋肉を動かさなくてはなりません。ストレッチの前に、5〜10分程度の足踏みやパラレルでの腿上げ運動をしたりして身体を温めることをお勧め致します。

 ストレッチは必ず息を吐きながら力を抜いて行うことが基本ですが、どこか柔らかくしたい一部分だけを一心不乱に伸ばしても良いストレッチは出来ません。身体の筋肉は筋膜によって全身で繋がっていますので、身体の中心から外に向かって、いくつかのストレッチ運動を少なくとも2周繰り返してみて下さい。1箇所を数十秒づつ、少しづつ負荷を掛け続けているとフッと抵抗する力が抜ける感覚があります。そこから更にしばらく伸ばします。但し、長い時間負荷を掛け続けるのはあまり良くないようです。大体長くても30〜60秒以内に収めると良いでしょう。1周目より2周目の方が柔らかくなっていることを実感できると思います。リラックスした状態で“痛気持ちいい”範囲内で力を掛けます。身体が温まっていれば小さく小刻みに反動をかけても良いと思いますが、大きな反動は付けないで下さい。
全身のストレッチは意外と時間が掛るものです。可能であればレッスン前に15分以上は「きちんと正しい方向へ」ストレッチを行いましょう。レッスン前のストレッチは今日の自分の調子を調べる為のものです。おしゃべりばかりに気を取られ、自分の身体との対話をしないストレッチでは何の意味もありません。但し、レッスン前のストレッチは限界以上には伸ばさず「軽め」でOKです。

 床での前後・横の開脚ストレッチ(スプリッツ)はバレエ界で長年ポピュラーなエクササイズとなっていましたが、とても危険性も高いポーズです。痛みを感じるようでしたら開脚ストレッチはしない方が良いと思います。開脚ストレッチをしなくても脚はちゃんと上がる様になりますし、もし開脚するためのストレッチをしたいのであれば床に仰向けになって脚を前や横に開くストレッチをしたり、後ろに脚を上げる為には後ろへ反るカンブレや長座をしてウエストから上を左右にひねるストレッチをした方が安全です。開脚ストレッチで作る逆さT字のポーズはクラシック・バレエの踊りでは実際には出て来ません。グラン・ジュテもエカルテも骨盤を傾斜させて行うポーズだからです。

 安全に末永くバレエを楽しむ為にも、無理な「痛いストレッチ」は行わないようにしましょう。バレエは関節の柔らかさばかりが大切なのではありません。
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<追記:2015.05.28>
 最近、「運動の前にはストレッチは行わない方が良い」という説が話題になっています。「ストレッチを行うと、一旦伸ばされた筋肉が後に固まったり強く収縮するように働くので、その後の運動で故障が発生しやすい」、という説のようです。またバレエでのストレッチは身体に大きな負担を掛けるものでもありますので。私は医者ではないので断言はできないのですが、この説はおそらく一般の運動にとっては正しいのでしょうが、関節を限界まで大きく使うバレエやダンス、体操などには必ずしも当てはまらないように思えます。
確かに身体が暖まらないうちに強いストレッチを行うことは故障につながります。これは周知の事実。バレエのレッスンにおいてもリンバリング(ストレッチ)はバー・レッスンとセンター・レッスンの間に行われます。バー・レッスンも最初は小さいタンジュ等の動きで始まり、グラン・バットマンのような大きな動きは最後ですよね。バー・レッスン自体が身体をほぐすエクササイズでもあるからです。

従って初級者さんレベルではレッスン前はごく「軽い」ストレッチで済ませても良いと思います。バーレッスンで充分に柔らかくなりますので無理は禁物です。しかし既に訓練によって関節がかなり柔らかくなっているレベルの方では、身体を温めてからある程度関節をほぐしてレッスンを開始することをやはり私はお勧めします。広い関節の可動域と硬いままの筋肉の狭い動きではバランスが悪過ぎて、却って故障につながると思えるからです。自分で動いていて思うのですが、身体はいつもの範囲まで動ける事を記憶しているのに筋肉が固くてそこまで動けない事が続くと、正しい筋肉を使う事すら出来なくなりつい誤った筋肉で動きがちになってしまいます。やはりレッスン前には自分のペースで軽いストレッチを行うべきだと思います。

 繰り返しますが、レッスン前のストレッチで心掛けて頂きたいのは、やはりまずはウォーミングアップをして身体を温めて、それから少しづつ関節をほぐすこと。また限界まではまだ伸ばさない事です。限界まで伸ばすのはレッスンの後や夜に“痛気持ちいい程度”でゆっくりと行えば良いと思います。 ストレッチが身体に浸みついて来ると、どの程度ほぐしたら気持ち良く動けるかは感覚として解かって来ます。そしてバーでのグラン・バットマンの頃にはいつもの身体まで柔らかくなっていることでしょう。(但し、その日の状態によってはほぐし切れないことも多いですので無理はしないこと。)理想としてはストレッチの前に5〜10分程度足踏みを繰り返したり、小さいジャンプを長く繰り返したりして、身体の深部を暖めることです。忙しい大人には難しいことですが、歳を取れば取るほどウォームアップは必要なものなので、出来るだけウォームアップを行うことをお勧めします。
バレエでの可動域は一朝一夕では手に入りません。時間を掛けてゆっくりと伸ばして行きましょう!

《イメージ・トレーニング》
バレエはスポーツでも曲芸でもなく、心で感じる「芸術」です。美しい形、優美な動き、心を動かされる表現が踊る人間の魅力となります。バレエでの形や動きや間は「表現」という言葉で集約されますが、その「表現」を美しくする一番の近道は、観察陶酔実践です。
イメージを鍛えるには美しい人を見るのが一番!出来るだけビデオ等で沢山のプリマの映像を見ましょう。実は現代より往年のプリマの表現の方が華美で味があるのですが、現代のプリマの表現の方が初級者にはシンプルで合っていると思います。
動きや形の美しさは一朝一夕では出来ません。普段のレッスンから先生の形を真似て、恥ずかしがらずにどんどん表現を付けて練習しましょう。時々、特にバーでは過剰に表現する事を嫌う先生がいらっしゃいますが、大人の私達には踊りの練習で表現を身に着ける時間があまりありません。センターでは、楽しんで、自分に少し酔うくらいで自分の「心」を表現してみて下さい。但し、大きく脇を下げたり、お腹を突き出したたりと、先生のお手本から逸脱した形はいけません。また初心者と児童については、表現よりもまずは正確に言われた通りの動きを実現させることが重要!あまり凝った表現はつけない事をお勧めします。
周りには笑われても良いのです。自分がそこで何をしたいのか、するべきなのかを大切にしましょう。それに本当に切磋琢磨に学んでいる人間は決して他人を見下して笑っている余裕なんてありません。「鏡に映る自分は先生とはどこか違う」その違いの追及が明日の美しい自分を作るのです。

《プラス思考》
何事もマイナス思考の人間に先の成功はありません。バレエを長く継続して続けることは、自分との闘い以外にも人間関係や外的要因も含めて様々な障害、落ち込み、トラブル等と向き合い突破して行かなければなりません。
自分を失いそうになった時には思い出してみて下さい。
「何のためにバレエをしているのか」「踊ることは楽しいのか」
「どうしてもそのお稽古場でなくてはならないのか」

そして「素人のバレエは義務でも宗教でもなく、あくまでも趣味である」ということをです。
人としてまず一番大切なことは「楽しく幸せに生きる」ことだと、私は思っています。
新しい扉を開けると、またその先に新しいバレエの世界や自分自身が居たりします。
皆様、「楽しく」レッスンをいたしましょう!

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