息を吐いて上へ上がる


 呼吸は運動や静止を司るとても重要な要素です。一瞬の力で行う瞬発運動ではなく耐久性が重要な持続運動であるバレエでは、出来るだけ沢山の酸素を上手に身体に取り入れなくてはなりません。呼吸を止めて筋肉を動かすと、硬い筋肉が育ってしまい身体の動きを損なうばかりか、疲労物質も蓄積され長く動き続ける事が出来ません。無酸素運動は有酸素運動に比べて消費出来る身体のエネルギーは10分の1以下だそうです。エネルギーを上手に利用し体力の持続性を養いましょう。これはダイエットや肥満防止にも大きく役立つ要素です。

 バレエでの呼吸はヨガやボイス・トレーニング等で行う複式呼吸とは異なり、ピラティス等で行われる胸式呼吸、すなわち「下腹を絞めたままで肺に空気を入れて動く呼吸」を行います。但し、動きが複雑なバレエでは、ピラティスのようにどのタイミングで息を吸い、どのタイミングで吐くかを明確には決める事は出来ません。しかし呼吸を利用して動くことはとても自然の理にかない、より少ない力でキープができたり、大きく動けたり、高く飛べたりと、結果として身体の疲労度も大きく違って来ます。初級者にとって呼吸を意識して練習する事は上達への大きな助けになります。

「筋肉は息を吸う時に硬くなり、吐く時に柔らかくなる」、これはストレッチの時の基本ですね。ストレッチでは必ず息を吐きながら筋肉の力を抜いて組織を伸ばしていく事が重要です。息を吸うと筋肉は収縮して硬くなりますから、それを利用してキープをしたり上へ引き上がろうとしたりする。これは初心者にありがちな大きな間違いです!
確かに肺に空気を送り込む事で身体は一瞬軽くなります。ジャンプ等はそれを利用してまず身体を高い位置まで持って行きます。しかしそのまま体をキープをしたり、身体を上へ引き上げていたいなら、息は細く吐き続けるか、吸って吐いてを細く繰り返さなければなりません。

そもそもバレエでの“キープ”や“ポーズ”とは止まっていることではなく、伸び続けていることなのです。バレエでは常に重心を上部に保っていなければなりません。プリエやステップで重心が下がる時には更に「上に居残る」という意識が必要となります。「バレエの全てはムーブメントである」、高名なバレエ教師の言葉です。1番ポジションで立っている時でさえ、ゆるみ続ける身体を様々な方向へ伸ばし続けることによって、身体はその形を保持しているのです。
実はこの「伸び」が“美しさ”を作り出して行きます。人の踊りを観て「美しい」と感じるならば、その身体はよく伸ばし続けて使われていますし、反対に「地味」と感じるならば、伸びが足りないか止めてしまっている為、動きが小さく見えている事が多いです。

話が余談にそれましたが、「伸びる」ためには上手な呼吸が不可欠であり、安定した呼吸をする為には息を吐きながらでも下腹部の筋肉が一瞬たりとも緩まずに身体を支え続けること が必要になります。上に「上がる」とは、すなわち上に「伸び続ける」こと! 呼吸を上手に利用して伸び続ける技術を習得して下さい。但し「伸びる」ことと「つっぱる」ことは違います。柔らかく伸び続ける研究をして下さい。

まずは胸式呼吸をしてみましょう。
  1. 仰向けに寝て、膝を軽く立てて下さい。
  2. 下図のように手で三角形を作り、下腹部に当てて下さい。親指はおへその少し下(丹田の位置)になるようにします。
  3. 鼻で息を吸いながら、手を少し押して下腹を引っ込ませます。肺いっぱいに空気を入れて背中側の肋骨を膨らませるイメージを持って下さい。
  4. 口で息を細く細く吐きながら、同じように引き続き下腹を引っ込ませ、肺の空気はすべて出し切ります。(正確には下腹は引っ込ませるのではなく、頭の方へ引き上げます。また、踊る時は「鼻」で息を吐きます)
  5. 3と4を下腹を緩ませることなく繰り返して行って下さい。
これが胸式呼吸です。




バレエでは肺いっぱいの深い呼吸をするタイミングはあまりありませんが、肺に空気を入れ「息を吐きながら下腹(丹田&ビキニ筋)を引き上げる」、これは大変重要なテクニックです。普段から心掛けて、バレエモードに入ったら意識しなくても下腹を絞めていられるようになりましょう。

さて、息を吐きながら上へ上がり(伸び)続ける為にはもう一つ重要身体の箇所があります。それは肩甲骨(あるいは僧帽筋)です。リラックスした状態で思いっきり息を吸うと肩と肩甲骨が上がります。逆に息を吐くと肩と肩甲骨は下がります。肩は肩甲骨でコントロールする部位ですから、肩甲骨を下げていれば自然と肩も下がります。
人が上に上がろうとする時にはテコの原理で何か土台とする力が必要です。その土台の役割を担うのが足であり、肩甲骨(僧帽筋)なのです。息を吐き肩甲骨を下げると、まず背骨が上がり、腸腰筋が上がり、更に腕を下げると側筋(腋の下筋肉)が上がります。これらを利用して“上に居続けること”が出来るようになるのです。

まずは息を吸って、自分が一番上に上がったなと思うタイミングで下腹の力を抜かずに息を吐いて肩甲骨を下げてみて下さい。 そして“芯”が上がるその変化を背中で感じて下さい。(ここで胸部だけが大きく上下すると感じる方は横隔膜が開いていて胸が上がり過ぎている可能性があります。息を吐いて背中と胸が下がる感覚はどちらも同じくらいなはずです。肋骨を水平に保つ意識を持って下さい。)
そして、ピケで上がった瞬間や、プリエからルルベで上がった瞬間、鼻で息を吐きながら更に上に伸びてみましょう。ラベスクやアチュチュードではその効力を強く感じるはずです。
「息を吐いて更に伸び続ける。」忘れずに実践してみて下さい。

(※追記:2016.03.03 呼吸は口から吸うと胸筋を大きく動かしてしまうため、出来るだけ鼻から息を吸いましょう。吐く際は可能ならば鼻で、急いで吐きたい時は口から細く息を吐きます。鼻だけで足りない場合には口も使うという意識でも良いかも知れません。)

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