アッサンブレは5番が頂点!


 アッサンブレはどのバレエのレッスンでも必ず1回は練習すると言っても過言でないほど重要な‘パ’です。「5番プリエで床を押し、片脚を開いて飛び上がり、空中で5番に閉じてから着地する」という、跳躍の技の中でも大変難しい動きとなります。その重要さを知る先生は早い段階で小さい児童にもアッサンブレを教えます。体重が軽い内にタイミングを身体に覚え込ませてしまう方が楽に覚えられるからです。

アッサンブレは前・後・左・右と脚を出す方向に4種類あり、更に両脚を打つアッサンブレ・バッチュ、同じ足を2回繰り返すダブル・アッサンブレ、回転しながら閉じるトゥール・アッサンブレ等、他にもいくつかのバリエーションがあります。また着地も、その場で飛んでその場で着地するシンプル・アッサンブレ(またはアッサンブレ・ドゥシュー:移動しないアッサンブレ)と、上げた脚の方に移動して着地するアッサンブレ・ボレ(またはポルテ:移動するアッサンブレ)があり、高さも高く跳ぶ場合や床スレスレに行うアッサンブレ・パール・テール等があります。

〜 <移動しないアッサンブレ> 〜 (アッサンブレ・ドゥシュー)

まずは基本の右アッサンブレを細かく図解してみましょう。下記の様に5つの瞬間に分ける事ができます。

図@

図A

図B

図C

図D

ここで、一番大切なことは「アッサンブレでは空中で脚を5番に閉じた時が一番高い頂点になる」ということです。
よく間違われる動作としては、図Bで脚を開いて上げた時が跳躍の一番高い頂点になってしまうという例です。これでは空中で脚を閉じる時間がありません。アッサンブレの動作は「脚を閉じる力を利用して更にもう一段上に上がって、脚を閉じたまま降りてくる」という動きなのです。従って、特別な場合を除いて女性はアッサンブレでは動脚は90度までは開きません。90度以上に脚を開くと空中で脚を閉じる時間がないからです。時々「アッサンブレでは脚を90度近くに上げなくてはならない」と誤解している生徒さんがいらっしゃいますが、実際の女性の踊りでは上げる脚の高さはそんなに高くはありません。(男性はグラン・ワルツなどの大きな動きの時に90度以上のアッサンブレをすることがあります。)“アッサンブレ”はフランス語で「集める」という意味、アッサンブレでは脚を開いている瞬間よりも空中で閉じた瞬間を見せる事が大切な事なのです。まずは動脚(上げる脚)は低い高さまでで押さえ、頂点で両脚を揃える練習をして下さい。跳躍力がついて来てから脚の高さを段々と上げて訓練した方が美しく正確なアッサブレが出来るようになります。

 アッサンブレで空中で脚を閉じてから着地するという動作、これはグリッサード等と組み合わせて移動して行う場合は比較的楽に実現出来ます。しかしより大切なのは、移動なしのアッサンブレ(その場でするアッサンブレ)においても“一番高い位置で脚を閉じて降りてくる”という技術です。この技術の習得は他のパを行う際にも役に立つ様々な筋力や技術を与えてくれます。ぜひとも身に付けたいもの!しかし力だけでは美しい伸びのあるアッサンブレは行えません。体幹・腰・膝・足首が上手に連動できて初めて実現します。軽々と伸びのある美しいアッサンブレを手に入れましょう!


★ 基本のアッサンブレの練習 ★ ―――――――――

<上へ跳ぶ練習>
 まずは跳躍力の習得です。両手でバーにつかまって、1番プリエから垂直に上へ跳んで1番プリエへ降りて来ます。慣れて来たら次は5番プリエから跳び脚を入れ替えて着地する“シャンジュマン”の練習を行いましょう。跳躍は繰り返し行って下さい。注意点は下記の通り。
  1. 初めは深めの1番や5番ドゥミ・プリエから始めて、深めの1番や5番ドゥミ・プリエに着地する。(プリエの時に踵は浮かさない!)
  2. “芯”を作ってまっすぐ垂直に飛ぶ。(下腹を使って骨盤を垂直に!)
  3. 足首から下、足裏をムチのようにしならせて使って跳び、爪先→指→ポール(下図参照)→踵の順で着地する。必ず足指を最後まで使い切って(足指の先で床を押し切って)飛んで下さい!この最後のひと蹴りがジャンプの質を大きく決定します。床を蹴った爪先は“ロケットの炎”のように床へ向けて真っ直ぐ下にエネルギーを放出します。
    ※足裏のポール部分 
     グリーンとオレンジの部分の両方を使う

  4. 力を入れたり伸ばしたりするのは主に脚の内側のライン。外側(大腿四頭筋)には力を入れないし意識もしない。
  5. 両脚の幅はこの訓練ではなるべく狭くして、高く跳ぶことに集中して下さい。
  6. 跳躍から降りて来たら、しっかりとプリエをしてバネのようにまた垂直に跳び上がります。足の裏でしっかりと床を押して下さい。
  7. 慣れて来たら、次は両手でバーを上から押す様にしてジャンプをして「両脇の感覚」を覚えます。

<体幹を安定させる&脚を閉じて上がる練習>
 垂直に跳ぶことに慣れて来たら次は体幹を利用して空中で身体を安定させる感覚を身に付けます。 可能であればバーを利用すると良いのですが、バーがしなって傷む恐れがある場合は鉄棒等を利用して行って下さい。
  1. 両手でバーを持ち、両腕と両脇を使ってバーや鉄棒の上に身体を乗せます。子供の頃、鉄棒の練習で棒の上にせり上がった事があると思いますが、その要領で行います。下腹に力を入れて、少し腰が“くの字”になってもかまいません。この時の脇の下の筋肉の使い方をよく感じて覚えていて下さい。
  2. 鉄棒の上でせり上がったまま、胸(胸筋あるいは鎖骨)を横に引っ張ります。
  3. 更にそのまま、脚を少し横に開いてから5番に閉じます。脚を閉じる時は脚の付け根ポイント(※骨格図のページを参照)を背骨に沿って垂直に天へ向かわせる感覚で、閉じる力を利用するように更に上へ身体を引き上げます。この引き上げる力がアッサンブレの動作ではとても大切な力となります。
  4. 空中で5番に閉じて上に引き上がる動作に慣れて来たら、引き上がる時に背中上部の僧帽筋を下ろす、あるいは両肩や肩甲骨を下げる意識を加えて下さい。この下げる力をテコにして背骨を更に上へ押し上げます。この時の脇と脇の下の筋肉が身体を固定させているという事を感じ取って、繰り返し練習して下さい。
    この練習はシンプルですが力のいる練習です。無理をせず可能な範囲で行っても充分に効果は得られます。棒の上に上がれなくても上記の注意を意識して、両手でバーを押しながらシャンジュマンの練習を行うだけでも結構です。
以上の訓練で体幹は大分安定して来るはずです。体幹が安定してくると、“シャンジュマン”でアン・バーに閉じた腕が揺れなくなりますので目安にして下さい。

慣れて来たら今度は“シャンジュマン”を行う際に、ごく小さく脚を開き空中で5番に閉じて降りて来る練習をします。空中で5番に閉じた時に更に上へ上がれるように意識します。初めはバーにつかまって行っても結構です。これが上手に出来るようになれば、‘美しいアッサンブレ’が半分手に入ったようなものです!
一番重要なことは「垂直に上へ上がること」、アッサンブレではこれが一番大切だという事を忘れないで下さい!
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<足裏を使う>
 次に足裏の使い方です。アッサンブレの動作ではもう一つ大切な意識があります。それは「アッサンブレは必ず両足で跳ぶ」という意識です。レッスンで時々、上の図Aタンジュ・ア・テールのタイミングで一瞬動きを止めて練習させる先生がいますが、これは間違いです。アッサンブレの跳び上がりでは図@→図Bまで一気に行わなければなりません。速度の違いはあっても図Aの所で止まることは一瞬たりとも絶対にあってはならないのです。図Aで止まるという事は、軸足のみで跳躍をしなければならなくなり、慣れていない方は外腿の大腿四頭筋を強く使いがちになります。アッサンブレの跳躍は必ず脚の内側の筋肉を主として行うのです。
アッサンブレの跳躍では軸脚と共に動脚の足裏を、いかに使うか、いかに滑らせるかによって、方向や高さ等様々なコントロールを行います。動脚の足裏はただの飾りではなく、床を押したり、削ったり、滑らせたり、空中での爪先の方向を決めたりと、とても様々な役割を担っています。先生方が「足裏をシャッセ!」「ギリギリまでシャッセしなさい!」と叫ぶのは、この足裏の使い方を習得させたいからなのです。

 アッサンブレでの基本の跳躍は、5番プリエで必ず動脚の足裏でも床を押している状態で始めます。速度によって動脚で床を押す力は変わりますが、全く力を入れないことはなく、必ず動脚の足裏の一部で床を擦るという動作が必要です。動脚で床を押したり擦ったりすることは跳躍力以外に骨盤を正しい位置に整えることにも役立っています。上級のパになると動足がクぺの状態からアッサンブレを行う場合がありますが、その場合でもクペの動脚は指先で一瞬床を擦っています。
そして大切なコツは、出した足をギリギリ遠くまで床の上を滑らせてから!跳躍することです。これは前後左右どんなアッサンブレにおいても身体を安定して跳ばせる重要なコツです。但し、爪先を引っ張る力に負けないように骨盤は正しいタンジュやデガジェ(ジュテ)の時の位置に保っていて下さい。

ここで、足裏には“スケート靴の刃”が付いていると想像してみて下さい。“平行な2枚刃”の刃が付いています。通常の横アッサンブレでは、動足はその足裏の刃の向く方向(爪先方向)へ(軽く床を押しながら)直線的に足を滑らせて行きます。2枚の刃で滑らせますので、親指側や小指側のどちらかが床から浮いていてはいけません。また、脚を真横より後ろへ出すとバランスを崩す恐れがありますので、必ず爪先の向く方向へ脚を直線的に出して下さい。足が180度に開かなくても開いた限界の角度の方向へ脚を出せば良いのです。膝と爪先の方向は必ず一緒ですよ!お尻は出さないように。



<アッサンブレの練習>
 それでは、今までの練習を生かしてアッサンブレの練習をしてみましょう!まずは両手でバーにつかまって、慣れたらセンターで。
5番プリエから、前述の要領で足を滑らせます。ぎりぎりまで床を擦って爪先が床から離れる瞬間に腰を浮かせ、軸足も床を蹴って空中に跳び上がります。腰を浮かせるのが早すぎると十分な高さまで上がれません。じっくり待ってベストなタイミングで上がれる瞬間を身に付けて下さい。慣れるまで動脚は低い高さで留めましょう。腰は必ず爪先より意識して上にある感覚、空中の爪先は両足とも床と細い糸で真っ直ぐ繋がっている感覚です。軸脚は真下に向けて、あるいは少し外側に向けて伸ばし、なるべく動脚に引きずられないようにします。

動脚でも床を押す

足裏は直線的に出す

爪先より上へ腰を上げる

動脚が一番上がった位置になったら、今度はその動脚の爪先の下に架空の“小さい台”が空中に現れたと想像して下さい(下図を参照)。その台を一瞬少し下へ押すようにして、その台より上の高さへ、(肩や僧帽筋を下ろしながら)両脚を閉じて上へ「押し上がり」ます。この時に胸やお尻を突き出さないように気を付けて!背骨だけ押し上げる(吊り上げる)感じです。 もし動脚の下に小さい台を感じる余裕が無かったら、軸脚の足の下に台が現れたと想像して、その台を押す様にして腰や付け根ポイントを上へ引き上げてみて下さい。



 両脚はあくまでも内側で“寄せる”意識です。2本の脚をピッタリと押し付けると大殿筋や外腿筋を使いがちになり、下半身も強張ります。両脚は押し付けずに“寄せる”!両脚は寄せて5番の形に揃える程度で、エネルギーは上へ抜ける、そんな感覚を大切にして下さい。理想は腰の下に垂直に両脚を寄せることですが、多少動脚側に傾いていても構いません。しかし跳んだその場に降りて来なくてはなりませんので傾きはなるべくわずかにします。アッサンブレで見せる姿は空中での5番です。動脚が上がり切ったらなるべく速く5番に寄せましょう!
5番に閉じた後、体は下に着地しますが腰から上の重心はまだまだ上へ残してくる、あるいは上へ伸びあがるようにしてプリエに着地します。

跳躍力が充分でないと上記の感覚で動くことは出来ません。跳躍力がまだ不十分な時は、動脚の高さを低くしたり、アッサンブレの前にシャンジュマンやスーグルソーを組み入れ、空中から降りてくる力を利用してアッサンブレを高く跳び上がる練習をしてみましょう。この練習の時のシャンジュマンやスーグルソーはなるべく高い位置まで跳び切ります。バネを使う練習をして下さい。

※ 時々やたらと力任せにバッチュを打つ方がいらっしゃいますが、バッチュで打つ力で脚を寄せる(外腿筋を使ってしまう)のではなく、脚を速く寄せる結果バッチュを打ち、打った事で両脚が弾かれて離れる、そしてまた寄せる事で上へ上がり両脚を入れ替える、そんな感覚で行うと余裕のある美しいアッサンブレ・バッチュを打つことが出来ます。バッチュは爪先で打つのではなく膝や腿を横に入れ替えて打つ動きです(シルフィード等では爪先打ちの時もあります)。跳躍に余裕のある方は浅めに打つよりも脚を深めに交差して行うとより綺麗に見えます。バッチュは「見せる」為の動きでもありますが、本来の役割は空間に長く留まり音楽に合わせる為の時間稼に使います。とにかく空中で5番で静止する(浮く)余裕が出来て初めて余裕のあるバッチュは打てると思って下さい。お尻が出ていたら正確なアッサンブレも出来ず、美しいバッチュも打てませんよ!

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★ 方向を変えるアッサンブレ ★ ――――――――――

 さて、スケートの刃の使い方がもう一つあります。方向を変えてアッサンブレを行う場合です。通常、5番から後ろ足を上げて前へ閉じるアッサンブレを“アッサンブレ・オーバー”、逆に前足を上げて後ろに閉じるものを“アッサンブレ・アンダー”と呼びます。ここではまず、右足前クロワゼからアッサンブレ・アンダーで左足前クロワゼに終わるアッサンブレを考えてみましょう。

<アッサンブレ・アンダー>
 左に45度向いて、右足前クロワゼから右に90度回転して右脚を上げたアッサンブレを行って左足前のクロワゼで終わる。この動きは「身体の方向を変えながら跳ぶ」のではなくて、「身体の方向を変えてから跳ぶ」動きです。上げる動脚をロンデジャンブのように廻してしまったり、方向を変えながら脚を上げ始めてしまってはいけません。
足裏の動きの分析は下図の通りです。

(正面)
(正面)

右足前クロワゼからプリエをしながら、右足裏の“スケートの刃”の側面(エッジ:上、左図の水色のライン:右足の小指側側面でも良い)を使って床を削り(赤い点線矢印)、右90度方向を変えるイメージを持って下さい。右につられて、左足は足裏の前半分(左図の緑の部分)を中心に腰や脇と一緒に90度回転します。
ほぼ90度近くまで方向が変わってから、右足の足裏を直線的に横へ出してアッサンブレを跳びます(右図)。この、“エッジで床を削る”意識はとても大切ですが、エッジで削りながら脚を上げるのではなく、きちんと左足前エファセ5番プリエになってから、右足裏の刃の方向に沿って脚を上げます。(エッジで削りながら脚を上げると、右足側のお尻が上がって内向き脚になってしまいます。)これが正しい方向転換のアッサンブレ・アンダーです。

<アッサンブレ・オーバー>
 次は右45度に向いて、左足前クロワゼから後ろの右足を上げ、右足前クロワゼに着地する“アッサンブレ・オーバー”を考えてみましょう。これはとても良く使うパです。
本来は左足の前半分(下図の緑の部分)を中心に左足の踵を前へ出して腰・脇と一緒に左へ90度回転し、それにつられて右足の方向を変えるのですが、実はこのやり方は少々難易度が高く、速く動く場合には右足の動きが遅れたり右の動脚が内脚(内向き足)になり易くなります。その為、次の要領で行ってみて下さい。このやり方でもきれいなアッサンブレ・オーバーを行うことが出来ます。

今度は身体の方向を変えるより足を滑らせる方をわずかに先行させます。足を滑り出しながら腰・脇を90度方向を転換して、それから跳躍するという動きになります。

左足前クロワゼ・プリエから、右足を赤い点線矢印の方向へ滑り出し、それにつられて左足は前半分(上図の緑の部分)を中心にして踵を前へ出します。同時に腰と脇を一緒に90度回転させる事で軸の左足も回転しやすくなります。正確にはここでも跳び上がるのは身体の方向が90度変わってからなのですが、オーバーでの方向転換の場合それでは遅い事が多く回転もしづらいので、速い動きの時は、足を滑らせ始めたらすぐに腰を浮かし始めても大丈夫です。但し、左の軸足が床から離れるのは(原則的には)あくまでも方向転換後です。空中で回転してはいけません。
ここで注意が必要なのは、右足は小指でギリギリまで床を擦りましょう!これは上げた脚が内向き脚にならないためのとても大切な意識です。右脇の回転が足りなかったり、右肩が前へ行き過ぎたりするので、基本は骨盤の真上に右脇を乗せる意識を忘れずに。慣れて来たら、右脇をわずかに右腰より前に出しても美しいアッサンブレのポーズになれます。
空中で脚を閉じて右足前クロワゼ・プリエに着地します。


 以上が基本となるアッサンブレの動きです。この助走なし移動なしのアッサンブレを正確に行う事は実に難しいことです。本来の基本は垂直な5番に閉じる形ですが、実際に動くと殆どの場合、軸となる側の脚は動脚の動きにつられて動脚側に少し傾いて5番に閉じる形になります。垂直にこだわるあまり動きがスムーズでなくなったり不自然に見えては意味がありませんので、動脚側にいくらか傾いて5番に閉じても全く問題はありません。但し、腰から上は出来るだけ垂直を保ちます!アロンジェなど表現で傾きを加える場合は胸から上を傾けるようにして下さい。


それでは、次の項では移動するアッサンブレを考えてみましょう!

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